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苔むす石を慈しむ 4
しおりを挟む静華さんを招いて三人で飲んでいる時のこと、静華さんがイマドキの男を論じて申さく、
「しっかしあれよね、ゴリむさいのは減ったよね。これを追放した女たちもいずれ後悔するんだろうけど、いちばん後悔するのはキレイになっちゃった男の子たちなんだろうな――でもさ、鳥とか魚なんかはむしろオスのほうがきれいじゃない。人間もそうだったらよかったのにね。なんであんなに汚いんだろう。どうしても毛深いじゃない。そのくせ禿げるじゃない」
「だけどやっぱりもう殿方のほうが潔癖ですよ」と美那子。「このまま進んで行ったら、殿方のほうが料理も掃除もうまいし、ヒステリックじゃないし、口が堅いし、ロマンチストだしで、オンナにするには男のほうが向いてるなんてことになって、世の中の殿方はもう女なんかよしちゃうかも」
「やべえな。こうしちゃいらんねえな」
「そうですよ。こうしちゃいらんねえっすよ」
ある日、静華さんがどなたかからいただいたというメロンをくれた。たぶんアレルギーで、食べたら喉と耳の奥が痒くなるのだそうだった。
それで美那子の仏壇にお供えしておいた。祖父が一家伝来にするつもりで張り込んだのだけれど、父も兄も引き取らなかったので譲り受けた仏壇だった。南無不可思議光如来と書かれた掛け軸と、こんじきの立像さまが御安置されていた。
仏壇があるのは西日の射し込む和室だった。それである夜、仏間からシュワシュワという音が漏れ聞こえて来ると思うと破裂音が聞こえ、寝床から飛び上がった二人が行ってみると、西日にあたためられ続けたメロンが爆発していたのだった。
あとからあとから泡立った汁がごぼごぼとあふれ出ていた。暗がりでそれは頭をかち割られた生首に見えた。二人はそれを闇の中で妖怪のようにすすった。舌にピリピリ来る酸味があったけれども甘かった。
命子が稼働中の洗濯機に一つずつ衣服を入れて行く。バスタオルであるとかブラウスであるとか、長いものを入れる時には端をしっかり握ったまま、少しずつ引っぱられ飲み込まれて行く感触を味わっている。
とうとう完全に飲み込まれてしまう時には、おのが人生にからまっているなにか重篤なものの身代わりになれかしと胸中祈りつつ、極めて真剣なまなざしで。
仏間の絨毯は美那子の祖母のものだった。ある日命子が絨毯の毛並みに逆らって右手の親指をちょこちょこ埋め込み、偽物の小さな足跡をこしらえた。
美那子が炊き立てご飯を仏前へお供えしに行く時、命子はこっそり覗いて反応を見た。しかし美那子は小さな足跡に気づくと、どうしてかそっとなでて消した。
あとで命子が足跡の犯人であることを白状すると、
「そうだったの」と平然としている。
「どうして消したの?」
「いや、命子が恐がるといけないと思って」
「……まさか、いるの?」
「さあ? 私はまだ見てない」
「美那子さん、めっちゃ霊感ありそう」
「ないよ。命子こそ占い師だったんだから」
「だって骨相学だもん。幽霊には骨ないから」
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