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苔むす石を慈しむ 5
しおりを挟む拾った宝くじが当たるとか、どこかで亡くなった親戚がじつは大地主だったとかして、とつじょ大金持ちになったらなにをする、と話しながら歩いている。
あれこれ想像するうちにだんだん暗い気持ちになって来て、今晩野宿をしようという結論になった。いよいよ深夜の自然に突撃をかけよう。あれほど敬遠していたのはこの時のためだったんだわ。
夜が更けるとシッカリ戸締まりをして、護身具も持たずに出かけた。
浜辺の砂の上で眠ることにした。焚き火が欲しかったけれども見つかる危険を考えてやめた。星を見ながら寝ころんでいた。
眠れなかったし、地面に熱を吸い取られて体が冷えた。潮風でべとべとになったし、その後しばらく部屋の中に時々出現する砂をポケットや髪の中へ知らず知らず溜めた。
けれども一瞬間は眠ったらしく、その証拠には星座が少し移動していた。しかしまだ夜からはじき返されているような休まらなさ。そのまま遂に朝まで粘って、白み出してから日が出るまでの間隙に人目を避けて逃げ帰り、寝不足と冷えのために一日中ぐったりと暮らして、二日目も挑んだ。
かなり疲れているのにまだ眠れなかった。人ならざる人目の充満する、意外なほど物の見える暗闇で、ふっとウトウトしては飛び起きたり、ほとんど起きたまま寝言を言ったり、波音が話し声に聞こえたり、なにか触って行った気がしたりと、そういう状態のまま朝まで粘って帰宅して、夕方まで泥のように眠った。
美那子が寝ぼけてトイレに座っていたり、命子が美那子をゆり起こしておいて本人は寝ていたりした。
三日目に手ごたえがあった。遂に夜が心身へ染み込んで深部に到達し、こちらからも迎えに出ていたものとつつがなく邂逅した様子。自律神経が外気に慣れたものと察しられた。
ところが自然のほうの自律神経に不調が来て雨が降り出し、せっかくの熟睡を起こされて逃げ帰った。もういちど一日目から挑戦するにはすでに風邪気味過ぎた。あのまま外で眠れていたら治った風邪なのに違いなかった。
こうしてなにものかは邪魔をするのだ。しかし守られたのかもしれない。そろそろ二人の匂いに誘われたなにものかが襲撃を目論んでいたりしていたのかもしれない。
そもそも現代日本だからこそできたナマナカ野宿だ。昔だったら、外国だったら、すでに何度も死んでいよう。この命びろいの数だけで、あるいはどれほどの御殿が幽冥界に建つであろう。
波の音が人声に聞こえたり、人声ではないけれどもその意味が分かりそうになったり、明らかに近くで人の気配を感じたりと、確かに渦巻いていたものは――それらを極めてすんなりと受け入れられていた感覚は――しかしその後の日々の生活の中で呆気なく霧散した。
最初からなかったかのごとくであった。
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