縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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苔むす石を慈しむ 8

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 涼子さんと三人、詰所で昼食をかっこんでいると、初めて来たらしい高校生くらいの若者が、二杯までという貼り紙を無視して、大鍋のカレーをオタマに四杯もすくっておきながら、一口食べるや顔をしかめてスプーンを置き、どうするのかと見ていると、そのまま返却口へ持って行ってそそくさと去って行った。

 老人たちが憎々しげに睨んでいた。

 二駅くらいなら平気かもと電車に乗りかけて、発車の寸前にホームへ飛び降りた静華さんが、息を整えながら、

「ごめんごめん、大丈夫。あんたたちにも恥かかせちゃったね。……ああ因果なもんだ。歯医者も行けないし、死亡保険にも入れない。あたしが乗れるのはもう棺桶くらいかな――」

 二人で波打ち際を歩いている。これまでにも、強風で波の高かった翌日など、こわいものが打ち上げられてやしないかと探したことは多々あった。

 けれども大したものには出会われず、要するに海から好かれていないのだろうと結論していた。

 それが今、非常に巨大なコブダイが打ち上げられているのだった。

 えらく肥大した頭の中にはどのような景色が詰まっていただろう。まだ生きているかもしれないくらい死に立てで、もはやなにも見ていないきれいな目が空を映していた。

 相変わらず二人して眠られない晩に、布団の中で無駄口をたたいている。

 無意味な言葉遊びや、つもり遊びの合間々々に、ふと真面目な話にもなるが、そういうたび、真面目なものが軽くされて行くようで、惜しくもあり、同時にこんな軽量化こそが、しょせん諸々の悲しみを成仏させる救済にほかなるまいとも感ぜられ、そんなことで救済され得る憂き世の事々が、しょせんぼんやりと悲しかった。

「美那子さんのお兄さんって、どんなお兄さん?」
「兄貴は、苦労して大学出て、銀行に勤めたんだけど、銀行員って、取り立てまがいの仕事もあってね。担当だった豆腐屋さんの老夫婦が、お金払えなくて死んじゃって。兄貴は、今はトラック運転してる。日本のどこかにいるよ」……


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