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ふたたび訪ねると、微妙に違う 2
しおりを挟む知恵はとくべつ静かな隠遁生活を好むわけでもないようで、人恋しかったと見えて、よく話題を提供して来た。
姿勢がよくて、消費エネルギーが少なそうで、物に動じなさそうな外観でいて、しかしどんどんしゃべり続けるすがたはなんだか妙ちくりんな感じがした。
感情が薄いわけでもあるまいが、それなりに多様な表情も一貫して涼しかった。あちらへ跳びこちらへ転ぶ話題は失踪と帰還、衰退と蘇生をくり返し、美那子の正体はいつの間にやら女囚嬢になっていて、
「私が正式に逃げて来たら、このお屋敷に匿ってもらえるかしら」
「もちろん。ひっそりと暮らして、最期はみんな、庭木の根元に埋まりましょう」
「いいですね」
その時は、もしかしたら女囚嬢は二人いるかもしれないと、言おうかとも思ったけれど言わなかった。
「だけど、勝手に埋まってもいいんでしょうか。けっきょくあとから『駄目だ』ってなって、掘り返されたりして」
と美那子が心配すれば、知恵は本気なのか冗談なのかわからない、どこか現実離れした強さで以て、
「バレなきゃいいんです。それで、時々木の枝に座ってるの。若い時のすがたに戻って。そして屋敷に子孫たちの生まれたり育ったりするのを見守るんです。そして、ある子が、年老いて、ある日木の下に来て、私たちを見上げるの。『嗚呼、あなたがたのことは、幼いころに見ました。ずっとそこにおいででしたか』――」
夕方近くに安喜子さんが起きて来た。年季の入った小さな石臼で珈琲豆を挽きながら、
「そうそう、こないだの美那子さんのお話があんまり面白かったから、こんなに集めちゃったのよ」
と、山ほどの落語のレコードを見せてくれた。中には美那子に見覚えのあるものもあったが、そういえば祖父のコレクションはどこへ行ってしまったのか。誰かが捨てたか売ったか。しかしこれらも知恵に通販で取り寄せてもらった骨董品だというから、あんがい同じものが美那子の前へ帰って来ているのかもしれなかった。
「蓄音機の針なんて、もう簡単には手に入らないだろうと思っていたけれど、近ごろまたブームなんですってねえ」
安喜子さんは一席選んで、しばらくみんなで聞いたけれど、もう一つこの場にハマらない滑稽が宙を滑って行くばかりだったので、またにしましょうねと言って止めた。
ふと知恵が女囚嬢の物語を話題にした。安喜子さんはピクリと反応して、慎重に聞き入り、美那子が安喜子さんの体験談としてではないボンヤリした物語として話したらしいことを確かめると、そのような体裁のまま詳しく補った。
知恵は興味深げに聞いていた。美那子はホッとしながらも、やはり本当に実話であるのか確かめたかったけれど、その方法と頃合いをうかがっているうちに、
「命子さんはお元気?」
「ええ」
あれからしばらく一緒に暮らし、今は実家に帰っていること、それから命子も女囚嬢の話を聞かせてもらったのだからその返礼を代わってしてもよかろうと思われて、久美子のことなども話した。
「またあの子も連れておいでなさい」
「はい。きっとまた一緒に来ます」
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