縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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暗い熱病めいたこと 2

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(嗚呼……安喜子さんは子どもを産まなかったじゃないかと身内の悪魔が言う。そして悪魔は「私を否定してみろ。偽善を交えずにそれができるか」と問うてすがたを消す。)

 現代の子育てに乗れるかどうかも甚だ自信がなかった。遠くから眺めていると、あたかも、情報共有と相互監視のシステムを完成させた母親たちの悪態や呪詛はエンタメに強固な地位を占めたかのようだ。

 感謝してもし尽くせない幸福そうな吐息があたたかいと思えば「子育てで奪われた時間を取り戻すためのセミナー」みたいなチラシも入っている。

 子どもというものの無条件的な美化も、つまり無条件的な美化だと感ぜられる。子どもは好きだが、それは不潔でうるさくてわがままでこずるくてバレバレに嘘つきな、なまのガキンチョの歯の抜けた笑顔が好きなのであって、それもしょせん他人事としてなのであって、着替えさせたりしてあげるのは楽しいけれども母乳をあげたいわけじゃない。

 健全な母性というもののメカニズムに、よその子への警戒や憎しみという要素が如何ともしがたく入るなら?(母性というこの、けっきょく極めて原始的な本能!)もし我が子が交通事故に遭ったらという可能性一個で今、最初からすべてを断念するに足る……。

 思弁の煮凝りに呼応して時はのたのた流れ、頭は疲れる、心は曇る、腹部は不快で、ただただ落ち着かない。

 まだなにも差し迫ってはいないけれども、確実に向かって来ている。一秒後には差し迫るかもしれない。常に。こうなったら大急ぎで、ある程度の納得をしておかねばならない。ただ流されて行くだけなのだとしても。今なにを納得したって、どうせ状況がまた根底から変えてしまうのだとしても。

 そうして爽子と飲み屋にいた。爽子の、両親に対する意見を乞うていた。爽子は隠された意図などには気づかずに、ただ知ろうとされる嬉しさのまにまに

「あたしの両親は、お見合だったんです。おたがいに家柄も学歴もアビリティーも平凡だし、大した顔でもないから色々とあきらめていた同士、かえってうまく行ったんじゃないかな。今でも仲がいいんで、気ン持ち悪いくらい。そりゃァおたがい色々と我慢もしてるんだろうけど、なんか、いたわり合ってますね」
「いいのね」
「いいですけど、あらためて言われてみれば、そうですねえ、落ち着いちゃってんなって感じですかね。あんなふうなのも理想っちゃ理想ですけど」
「ご両親には、もっと情熱的な恋愛であって欲しかった?」
「いやいやいや、気持ち悪い気持ち悪い――いやでも、そうですねェ……あたしだったら一度は、なんて言うか、一回きりの人生、もっと思い切った恋とかして、そうだなあ、あんなに静かァに暮らすよりかは……だけどそしたらあたしは生まれてないんですもんね……」

 眉をひそめて考えながら、爽子はえらくぐらぐらしていた。じっさい、この話題を切り出すにあたっては、爽子が酔っぱらうまで待っていたのであって、はなから、真剣な相談になることを微妙に避けた美那子であった。

 美那子はおのが底意をたずねてみる。爽子にこんな質問をして、そもそもなにが聞きたいのか。なにを言わせたかったのか。

 ここで爽子が話題を転じて、現在お付き合いしているカレについて話し始めた。

 美那子は親身になって相談に乗り、自分の人生を大いに休んだ。


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