縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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なにもかもから脱出しようとして、二人は全力を尽くした 3(最終話)

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 二人並んで二両列車に揺られている。宿なしの美那子はとりあえず舞からの返信待ちで、命子は実家へ帰る途上であった。

 縁日ヶ丘の展望台に行った。同じように夜景を見ている先客がちらほらいた。

 ふと美那子は幼いころ、ちょうどこれくらいの時間帯に、なにが原因であったか覚えていないけれども独りでここに来ていて、なんとなく先客たちを観察していた折、ある二人組のシルエットに、妙に心がかれたことを思い出した。

 あの二人は一体どんな人生だろうと想像した。その内容は忘れたけれど、今、これまでの日々が、その時の想像の忠実な再現であったかのような感覚に襲われた。

 そう馬鹿げた妄想とも思われなかった。あんがいそうなのかもしれない。それだから、もしも今、自分たちを観察していて、その人生を想像している少女がいるならば、どうかできるだけよい想像であれかしと願われた。

 舞が良助に伝え、良助から聞いたということで、重範からメールが来た。

「ぜひうちに来てください。日南子は就職が決まって、アパートを探しています」

 一緒に読んだ命子は、美那子に寄りかかり、

「百貨店にも戻れそう?」

 美那子は命子の肩に腕を回して、

「恥も外聞も無くしゃァね。しれっと戻って、主任もいびり出して、ボス猿になってやるわ」
「負けないでね」
「あたぼうよ。――命子は、私っていう剃刀がなくなっちゃうね」
「そうだね」
「久美子ちゃんにバトンタッチだ」
「そんなことできないよ」
「どうしてよ」
「だって恥ずかしいじゃない」

 それから永久脱毛がどうの、かかるお金はどうの、逆に生やしておくほうが主流の時代も近々来るかもね、だのとぐずぐずぐずぐず軽い話ばかりしていた。それはなにか大切なものへ水を差すことのような気もしたけれど、差さなければならないかのように、しばらくどちらもしゃべりやめなかった。

 軽い話もやがて熱量を失い、消えて行きそうである。

「――それじゃァ……命子も重範さんにいっぺん会っとく?」
「絶対イヤ」
「どうして。ぶん殴るかも?」
「キンテキやっちゃったら困るでしょ」
「そりゃ困るわよ。じゃあ会わせない。会わないでちょうだい」
「おう」
「――命子はどうなの。いい人は」

 命子は少しもったいぶって、

「いないことはないかな」
「なによそれ。ェえ? どこのドイツ人よ」
「中学の時の同級生。実家に帰ってから何度か会った」
「どんな人?」
「ちょっともっさりしてるけど、いい人」
「お仕事は?」
「歯医者さん。けっこう有望株」

 美那子はふうんと言って、

「じゃあどうするの」
「知らない。流されちゃったら、また果てしなく流れて行くんじゃないかな。――……でも、そんなに遠くまで流れられるような人じゃないから、安心っちゃァ安心」

 そうしてとうとう、空間自体の持つ活力がついえたように、なにも話すことがなくなった。

 やがて命子が、

「美那子さん」

 となにか言いかけて、遂にそのまま言わなかった。

 これに美那子は、

「命子」

 と応じた。

 そういう意味で呼びかけられたわけではないということは、わかってはいたけれど。


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