Untold Quest

尼子猩庵

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第八話 ビギナーズラック

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○《カワセミ亭》・カフィンたちの部屋(朝)

   よだれを垂らして眠りこけるサトバク。
   はっと目を覚まし、ガバッと起きる。
   見回すと、同じベッドの上に、カフィンが眠っている。
   タルニコが布団の上からカフィンを抱きしめて添い寝している。
   ロクパンクは床にあぐらをかき、腕を組み、壁にもたれて眠っている。

サトバク「イテテ……(こめかみを押さえる)」

   サトバク、あらためて見回す。
   カフィン、目じりに涙。(矢印「ホームシック」)
   タルニコ、ふと後ろ足で首元をボリボリ掻く。
   ロクパンク、「……」のあとに「んがっ!」といびき。

サトバク「(ふたたびこめかみを押さえて)飲み過ぎた……」

○レストラン

   カフィンがもりもり食べている。
   タルニコは目を閉じ、手を組み合わせてロクパンクにお供え。
   ロクパンクはタルニコに恭しくひざまずいている。
   サトバク、青い顔して、食が進まぬ様子。

カフィン「――だけどさァ、だったらみんなどうしてるわけ? てっきり依頼が来るもんだとばっかり思ってたよ」

   タルニコ、食べ始める。
   ロクパンクは満腹した様子で爪楊枝を使っている。

サトバク「モンスターに出会うまで、ただただ歩き回るのみさ」
カフィン「(もぐもぐしながら)それで実績を積んで、有名になったら依頼が来る」
サトバク「来ない。どこまで行っても、うろうろするばかり。かなりのベテランや、レジェンド級の冒険者が、むなしくうろついてるのを見たよ」
カフィン「だったら、崖の上に聳え立つ城や、天を衝く塔や、地下の大迷宮をこっちから攻略しに――」
サトバク「ないよ。《こっち》にそんな贅沢なもの」
カフィン「――ないんだよ。知ってるけどさ、チェッ。ほんとに新聞の通りかよ。もっと隠された秘密とかよォ」
サトバク「『風上新聞』のレベルは相当だ。あそこから隠せるものなんてそうないよ」
カフィン「新聞記者になりゃよかったよ……」

○草原

   歩いてゆく四人。
   一匹、倒したらしい小型モンスターをタルニコが引きずっている。
   遠く近く、大型モンスターのものらしい巨大な糞から、美し過ぎてグロテスクな花が咲いている。

カフィン「デカブツ来ないかな、デカブツ」
サトバク「ビギナーズラックは超あるって話だ。君たちみたいなルーキーには、なんかあるんだろうね。とりわけ吸い寄せる、覇気みたいな。いずれなくなっていく、キラキラしたものがさ……」
タルニコ「でもそれだったら、あたしたちもう、たいがいな奴倒しちゃったけど。まだルーキーに勘定されるのかな」

   聞き捨てならないサトバク。
   カフィンとタルニコ、かくかくしかじか。

カフィン「でもその時はまだオレ冒険者じゃなかったから、無報酬だったの」
サトバク「(信じていないふうで)ふうん」

   気のない返事に、カフィン、剣と盾を見せる。
   サトバク、とりわけ剣を見て、手を差し出す。
   カフィン、逡巡なくその手に剣を乗せる。
   サトバク、鞘から抜いて、刃を見た途端、にわかに青ざめて、

サトバク「……本当なんだね?」
カフィン「ウソだったらなんぼよかったか(剣を返してもらう)」

   サトバク、なにやらわなわな震えていると思うと、

サトバク「なんて不運だ! そのクラスだったら、一生遊んで暮らせたのに!」

   カフィンとタルニコとロクパンク、サトバクをジト目で見て、

ロクパンク「お前さんも、だいぶ不純だのう」
サトバク「(すんとして)僕の考えではない。世間の一般的な風潮を述べたまでさ」

○木々の点在する草原(昼)

○木々の点在する草原(夕暮れ時)

   タルニコが木に登り、枝々をたわめて縛り、あっという間に寝床を作る。
   カフィンとロクパンクは焚火の上に、モンスターの肉と思われるものを串に刺してセッティング。
   向こうには可食部以外を埋めた跡。
   木の下で、タルニコの仕事を感心して見上げていたサトバク、ポトポト虫が落ちたあとに漂って来た匂いを嗅いで、顔を赤らめ、焚火のほうへ戻る。

○樹上の寝床(朝)

   カフィンが寝ている。(目じりに涙。矢印「ホームシック」)
   タルニコがカフィンを抱きしめて添い寝している。
   サトバク、幸せそうな寝顔。
   ロクパンクの「んごっ!」でみんな目を覚まし、むにゃむにゃと「おはよう」を言い合う。

○木々の点在する草原(引き)

   丸くたわめられていた木が、パァァァン! と戻る。

○荒野

   歩いてゆく四人。
   一匹倒したらしい小型モンスターをタルニコが引きずっている。

カフィン「ビギナーズラックと出会えたら、気をつけないとな」
タルニコ「なにに?」
カフィン「どっかのベテラン冒険者にさ」
タルニコ「どうして?」
カフィン「そりゃァ、もしオレがもうベテラン冒険者だったとしたら、ルーキーを尾行するからよ。横取りするために」
サトバク「いや、(と手のひらを突き出して)さすがにそういうことはしないよ。暗黙の了解でね。ある種のルール違反やマナー違反は、やればいずれやられるから」
カフィン「(疑わしそうに見て)ほんとに? 仲間に殺された人いるけど」

   サトバク、ロクパンクを見る。
   タルニコ、カフィンをポカリと殴る。
   ロクパンクも、カフィンをポカリと殴る。

サトバク「まあ、少なくとも、カフィンが心配してるような邪魔は、して来ないと思う」
カフィン「その心は」
サトバク「ルーキーの初仕事は、懸賞金クラスだった場合、九分九厘、失敗するからさ。強いて奪わずとも、たいてい懸賞金クラスだけ置いて、死んでくれるからね」
タルニコ「あいつだけ置いて?」

   タルニコの指さす先、彼方の岩山から、デカブツが覗いている。
   サトバク、口元に笑みを浮かべつつ、汗をかき、足は震えている。
   カフィン、あたりをきょろきょろしている。

カフィン「ほんとに横取り、いないだろうな。後ろからサッてやられたりしたらヤダよ」
サトバク「集中!」

   サトバク、しゃらんと剣を抜き、華麗な感じで構える。
   デカブツ、恐ろしい形相をし、地響きを立てて向かって来る。

カフィン「遠距離攻撃隊、やってこませ!」

   タルニコとロクパンク、進み出る。
   ロクパンクがゆらゆらと達人めいたオーラをまとい、目にもとまらぬ感じで正拳突き、掌底突き、膝蹴り、etc.
   遠くのデカブツの体が数か所、めり込む。
   苦しむデカブツ。
   タルニコが極太吹き矢をくわえ、胸を大きく膨らませる。
   プシィィッ!!……っと吹く。
   遠くのデカブツ、一部吹き飛び、うめき声。
   あまりの強さに引いているサトバクをよそに、ロクパンクとタルニコ、執拗に攻撃を続ける。
   デカブツ、途中から背を向けて逃げようとするも、かなり遠い距離で、遂に倒れる。

カフィン「――野郎、もう許さねェ!」

   カフィン、走って行って、もう動いていないデカブツを一刀両断。
   ふう、と額の汗を拭く。
   カフィン、みんながやって来るまで、ホクホク顔で待っている。

カフィン「さて、横取り組はいないかな?」

   ロクパンクが「それより」と指さす先、大勢の人たち。(矢印「役人」)
   巨大な担架のようなものを曳きつつ近づいて来る。

ロクパンク「えらくまた仕事が早いな」
サトバク「(まだ呆然としたふうで)町が近いから……」
ロクパンク「なるほど。――……わしも、あんまり馬鹿正直に遠出するんじゃなかったな」


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