Untold Quest

尼子猩庵

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第九話 平穏な日々

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○郵便局の前

   カフィンが建物から出て来る。(矢印「仕送りして来た」) 

○町中・下町

   カフィンたち、《カワセミ亭》から荷物を抱えて出て来、歩き去る。

○町中・山の手

   カフィンたち、《シラサギ亭》と看板のかかった、豪華な宿に入って行く。

○《シラサギ亭》の寝室

   広い部屋。優雅なソファに腰かけ、『風上新聞』を読んでいるカフィン。
   似合わない、いいお召し物。
   別の広い部屋。眉間にしわを寄せ、ファッション雑誌を眺めるタルニコ。
   鏡台には山ほどの化粧道具や香水の瓶らしきもの。
   別の広い部屋。高そうな額縁の絵画を並べ、気持ちよさそうにパイプをくゆらすロクパンク。
   別の広い部屋。壁に立てかけた十五、六本の剣のコレクションの前で、爪の手入れをしているサトバク。

○郵便局の前(春)

   桜が舞う中、カフィン、建物から出て来る。(矢印「仕送りして来た」)

○《シラサギ亭》の寝室

   カフィンの部屋。
   ベッドの上でだらけているカフィン。
   ソファの上でだらけているタルニコ。
   窓の外に伝書鳩がとまる。
   タルニコ、窓を開けて手紙を受け取る。
   首から提げた袋にコインを入れると、伝書鳩、敬礼して飛び去る。

タルニコ「手紙だよ」
カフィン「(だらけたまま)読んどいて。よっほど重大だった場合だけ教えて」

   タルニコ、腰に手を置いてため息をつくと、手紙を読む。
   なにも言わない。
   ひらりと落ちる写真。
   気づいて拾うタルニコ。
   見つめて、軽くほほ笑む。
   写真。ホリウドの村のみんなの笑顔。
   後ろには素朴な建物。
   (コーチャの姿はない)

○郵便局の前(夏)

   汗を流しながら行き交う薄着な人々。
   カフィン、建物から出て来る。

○《シラサギ亭》の寝室

   カフィンの部屋。伝書鳩。
   手紙を受け取ってお金を払うタルニコ。
   写真。ホリウドの村のみんなの笑顔。
   後ろには少し立派になった建物。
   (コーチャの姿はない)
   
○郵便局の前(秋)

   紅葉。建物から出て来るカフィン。

○《シラサギ亭》の寝室

   カフィンの部屋。伝書鳩。
   手紙を受け取るタルニコ。
   写真。ホリウドの村のみんなの笑顔。
   服装も高価そうに。
   後ろにはかなり立派になった建物。
   (コーチャの姿はない)

○郵便局の前(冬)

   雪の降る中、厚着をした人々。
   建物から出て来るカフィン。

○《シラサギ亭》の寝室

   カフィンの部屋。伝書鳩。
   手紙を受け取るタルニコ。
   写真。ホリウドの村のみんなの笑顔。
   悪趣味なくらいの豪華な服装。
   後ろには大豪邸。
   (コーチャの姿はない)

○道

   桜が舞う。

○レストラン(夜)

   カフィン、タルニコ、ロクパンク、サトバク、テーブルを囲み、ジョッキを前に、無言。

カフィン「……ボーっとしてたら一年だ」

   一同、形ばかり深刻そうに、うんうんとうなずく。
   そのまま無言。
   時々、誰かがジョッキを口に運ぶ。

カフィン「――書記の人!」
タルニコ「……あたしやろうか?」
カフィン「頼む」
タルニコ「了解」

   カフィン、なにやらあれこれ指示。
   タルニコ、真剣な顔でなにやら書き込んだり、上方を見上げ指を折りながら計算したりしている。

カフィン「――では書記よ。この一年で我々が倒したモンスターの総数は」
タルニコ「(それらしいメガネをかけ、なにやらぺらぺらとめくって)――わかんないけど、相当です」
カフィン「懸賞金クラスは」
タルニコ「結局、ビギナーズラックのイッパツだけ」
カフィン「その儲けで、今の生活ぶりで我ら四人、あと何年暮らせるか」
タルニコ「ええと――……百六十二年です」

   カフィン、ため息をつき、

カフィン「そりゃ、一年ぐらい無駄にするわ。ぼろいよ。ぼろ過ぎるよ」
タルニコ「(メガネを外して)考えたことなかったけど、この懸賞金ってどっから出てるの?」
サトバク「(ジョッキをぼんやり眺めつつ)《表》の篤志家さ。なにもかも金で買い尽くした連中が、最後の良心の呵責を札束で解決したわけさ」
カフィン「めっちゃ《》じゃん。――それに懸賞金クラスだけ馬鹿値で、それ以下は大型ですらタダってのも極端過ぎるよ。そりゃみんなやさぐれるよ」
サトバク「為政の限界さ」
カフィン「中型でも小型でも、冒険者をやたら襲う奴はいるし、懸賞金クラスでも、無害のウスノロもいるわけじゃんか」
サトバク「為政の限界」
カフィン「(ロクパンクを見て)まあなんにせよ、この中で一番の怠け者はロクパンクだからね」

   高そうな葉巻をくゆらしていたロクパンク、ぴっとカフィンを見て、

ロクパンク「仇討ちのことなら、心配ご無用。拙者このたび『幽霊通信』に入会したのでな。出資額から既にオーナーの一人でござる」
タルニコ「それで、なにかわかったの?」
ロクパンク「(かぶりを振って)まだなんにもわからんが、いつわかるとも知れないという、言うなれば、ワクワク感だな――」

○町中

   ショッピング帰りのタルニコ、「もし、そこのお嬢ちゃん」と声をかけられる。
   振り向くと、おしゃれな感じのお姉さんが手招きしている。
   店の前でタバコを吸っていた様子。
   店は、ペットショップ。
   タルニコ、一瞬躊躇したのち、お姉さんのもとへ。

お姉さん「先に言っとくけど、侮辱と取らないでね。そんなつもり毛ほどもないから」
タルニコ「……どうぞ、ご用件をおっしゃってください」
お姉さん「まあ、そりゃ怒るよね。ごめん。だけど、ちょくちょくあなたを見てて、色々想像してさ。一個提案があるの、聞いてくれる? ムカついたらぶん殴ってもいいからさ」

○ペットショップの中

   台の上にタルニコ、四つん這いになっている。
   お姉さん、猛烈にハサミを入れている。

お姉さん「(シャキシャキ切りながら)私はね、この町しか知らないの。生まれてからずうっとこの町。私の世界はダイベイの町だけ。だけどそれで結構よ。周りの連中もおおむね同じ。家庭さえあればね」

   タルニコ、お姉さんの世間話に上の空な相づちを打ちつつ、思いつめたような顔で、鏡を見つめる。

お姉さん「(ジョキジョキ切りながら)そりゃァさ、若いころは冒険者にも憧れたけど。自分がなるのにも、お嫁さんになるのにもね。だけど冒険者と結婚した子たちはみんな不幸よ。寡婦になれたらラッキーだけど、こんどは遺産目当てのゴロツキが群がって来るだけで、結局シアワセとは程遠いわね……」

   ジョキジョキと盛んに切り続ける。

○《シラサギ亭》の寝室

   カフィンの部屋。
   頭部以外の体毛をほぼ剃り上げて、お洋服を着て、大モグラ感のなくなったタルニコが、内心の不安に顔を引きつらせつつ、おどけた感じでポーズを取る。

タルニコ「どう?」

   カフィン、呆気に取られて、

カフィン「――そんなこと、しなくっていいのに」

   タルニコ、暗い顔になってうつむく。
   カフィン、立ち上がって、腕を組み、まじまじと見て、

カフィン「そんな体で地面に潜ったら、あちこち切るぞ」

   とは言いつつも、頬を赤らめている。
   隠しきれない感じで、嬉しそう。
   タルニコ、それに気づいて、少し顔色明るむ。

タルニコ「ご心配なく。大モグラは、キズ治るのめっちゃ早いから」
カフィン「バーカ」

   と言いつつ、ほれぼれと見つめる。
   目が離せなくなったといったふうで、上から下まで、下から上まで。

タルニコ「……変じゃない?」
カフィン「見慣れるまでかかるかもだけど、変ではない」
タルニコ「一、二か月もすれば、元に戻るから」
カフィン「いや、ほんとに…………だいぶ、いいと思います」

   タルニコ、ほっとする。
   次いで、ブルブルと震える。
   涙ぐむ。
   カフィンに抱きつく。
   カフィン、抱き合ったまましばらくゆらゆらと揺れる。
   ふと鏡が視界に入り、あらためてタルニコの後ろ姿に、ほれぼれと見入る。

○タルニコの部屋

   広やかな浴室。
   裸になって、鏡を見ているタルニコ。
   ほっそりした体。
   (胸から腹まで、乳首が点々と八つほど並んでいる)
   やがて、にんまりとして、セルフハグをする。
   クククク……と、こみ上げる笑い。
   そのままいつまでも、自分の体を抱きしめる。


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