【完結】『人間が太陽と呼ばれている世界で求婚されたけど、それを知らなかった所為で監禁される事になった話』

塚銛イオ

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9章

温室 ①

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 アンセルは心持ち緊張した面持ちでいた。
 それもそのはず、アンセルは初めて屋敷の外に出るのだ。

 今までのアンセルは脚の骨折の為、ベッドの上か若しくはイスカンダーに抱かれないと移動手段がなかった。その為、イスカンダーが連れて行ってくれる場所しかこの屋敷の中も知らない。


 一緒に食事を、と言われ食堂には連れて行ってもらった。
 何脚もある椅子を無視して、イスカンダーはアンセルを隣に座らせ手ずから一つ一つを口に運んだ。

「イスカンダー様、自分で食べます。」

 困り顔でそう伝えても、

「いや、アンセルはまだこのカトラリーに慣れてはいないだろう?」

 と言って許してくれない。
 確かに、この屋敷には人間用の小さなカトラリーは用意されていなかった。

 アンセルにとっては少し大きすぎるカトラリーは確かに慣れていないと上手に料理を掬う事も難しそうに見えた。
 それならばしょうがないか、といつもドキマギしながら口を開け料理を待つアンセルの姿はイスカンダーだけではなく、屋敷の全ての者にとって癒しの存在になり得ていた。


 他に屋敷の中で知っている場所と言えば、イスカンダーがしきりに利用させようとしている浴室と抱き上げたまま連れて行かれるイスカンダーの私室ぐらいだ。
 その全てをイスカンダーの腕の中からしか覗いた事がないアンセルはこの屋敷がどれほど大きく、広大な敷地に建てられているのか知らなかった。

 今日の外出は、先日のお祈り代わりの口付けをイスカンダーに施した後唐突に言われた事だった。

「アンセルもずっとベッドにいるのは飽きただろう。今日は少し外に出てみないか?」

 そう言われたアンセルの顔は輝き、イスカンダーの心を温めた。

「ありがとうございます、イスカンダー様。」


 この屋敷に来て初めて外に出られる。
 その事実はアンセルの気持ちを酷く軽くした。
 気付かない内に鬱々とした気持ちにもなっていたようだった。

「では、早速着替えをしよう。外はまだ少し寒い。アンセルが風邪などひかないようにしないと。」

 そうイスカンダーが言うより早く、エドマンドが袖のたっぷりとしたシャツを差し出してきた。これなら温かいでしょうと言わんばかりの表情にアンセルが思わず小さく笑った。

「ありがとう、エドマンド。ここから先は私がやろう。お前は下がっていて良い。いや、外出の準備をしていてくれ。今日はアンセルをあそこに連れて行こうと思っているのだ。」

「はい、心得てございます、イスカンダー様。」

 エドマンドは、そんなイスカンダーの態度を面白がるように笑みを浮かべながら頭を下げた。


 腕を従順に上げて素直に服を着替える。
 以前はもっとイスカンダーに着替えさせてもらう事に戸惑いがあったはずなのに次第にその気持ちも薄らいでいく。

 それもこれもイスカンダーがとても嬉しそうにアンセルの世話をするからだ。
 そんな笑み崩れるイスカンダーを見る事がアンセルは好きだった。


「さぁ、出来た。では行こうか。」

 そう言われてアンセルは素直に手を伸ばした。
 それは無意識の行動だったが、イスカンダーに全幅の信頼を寄せている証に見えた。

「イスカンダー様?」

 なぜ、イスカンダーが動きを止めたのか、不思議そうな顔でアンセルが気遣う。
 そんなアンセルの額にイスカンダーはキスを落とした。

「私もアンセルの幸運を祈ろう。」

「は、はいっ。」

 真っ赤になって顔を埋めるアンセルの姿に目尻を下げたイスカンダーの姿は屋敷の誰にも見られる事はなかった。


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