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第一話 冬王と鞠姫
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通りには人垣ができていた。皆、左右に寄って、道の中央を空けている。
「行列でも通るのか?」
二人が不思議がっていると、遠くの方から武装した一団がやってくるのが見えた。先頭には騎馬がいて、その後ろに十人ほどの徒兵が続いている。
「来たぞ」
誰かが言った。
行列が近付いてくるに連れ、周囲に緊張感が漂いだした。
兵に囲まれるようにして、縄で縛られた男が連行されている。罪人だ。恐らく前浜辺りで処刑されるのだろう。
そんなに珍しい光景でもない。冬王も鎌倉に来てから何度か見かけたことがあった。
だがその罪人の姿に、冬王は思わず声をあげてしまった。
「あの方は……」
鞠も気付いたらしい。
昨夜、彼女が人の姿に戻した、あの異形の男だった。
余程ひどい拷問を受けたのだろう。顔は別人のように腫れ上がっていた。特に左目はひどく膨れている。あれでは見えているかどうか。
着衣にも、至る所に真新しい血痕が滲んでいた。
男がふらつくと、側にいた兵が髪を掴み、乱暴に立たせた。抵抗する気力もないのか、男は痛みに顔をしかめながら黙って歩く。
「ひどい……」
鞠が痛ましげに呟いた。
「あいつ、京の回し者だってな」
「また何か騒ぎを起こすつもりだったのかねえ」
集まった野次馬たちが、蔑むような目で男を睨んでいた。
どうやらこの男は、異形とは無関係の罪人として裁かれるようだ。高重がそのように取り計らったのだろう。
「鞠の力のことは、ほんとに秘密ってことか」
確かに彼女の能力が知れ渡れば、大騒ぎになるだろう。冬王とて、いまだに信じられないのだ。
兵に囲まれ、男が二人の目の前を通り過ぎていく。
刑場に向かって。死に向かって。
「結局こうなるんだな」
冬王は鞠の表情を窺った。
唇を引き結び、じっと男を見つめている。
「もう帰ろうぜ」
行楽気分も萎えてしまった。何よりこれ以上、彼女にこの情景を見せない方がいい気がした。
だが鞠は動かなかった。
「おいってば」
冬王は少し強引に鞠の袖を引っ張った。
そのとき。
「ミツケ…タ」
女の声が聞こえた。声というより耳の奥に直接吹きかけられたような不気味な音だった。
「ミツケタァ!」
「!」
上だ。
通りに面した家の屋根。一人の女が隊列のまっただなかに飛び下りてきた。
「なんだ!?」
「何奴!?」
兵たちが一様に動揺する。
「ウルサイ」
女が腕を一閃する。異様に伸びた鋭い爪が唸りをあげる。
間近にいた兵の首が飛んだ。
鮮血が散り、自律器官を失った胴体がぐらりと崩れ落ちた。
一瞬の静寂の後。
「うわあああ!」
「異形だぁ!」
野次馬たちが蜘蛛の子を散らすように逃げだした。
「危ねえ!」
冬王は咄嗟に鞠を抱き抱えた。
逃げ惑う野次馬たちが、冬王にぶつかっていく。皆我を忘れているので、遠慮などまったくない。
「冬王!」
腕のなかで鞠が悲鳴をあげる。
「黙ってろ!」
鞠の体を抱き締めて、必死に耐える。下手に動くのは危険だ。
「くそ、仲間がいやがったのか」
その間にも、兵たちの悲鳴が続々と響いている。馬の嘶きと、どこかへ駆けていく足音も聞こえた。
ようやく人が途切れたとき、冬王と鞠は同時に顔を上げ、
「な……」
「こんな……」
目の前の惨状に絶句した。
「行列でも通るのか?」
二人が不思議がっていると、遠くの方から武装した一団がやってくるのが見えた。先頭には騎馬がいて、その後ろに十人ほどの徒兵が続いている。
「来たぞ」
誰かが言った。
行列が近付いてくるに連れ、周囲に緊張感が漂いだした。
兵に囲まれるようにして、縄で縛られた男が連行されている。罪人だ。恐らく前浜辺りで処刑されるのだろう。
そんなに珍しい光景でもない。冬王も鎌倉に来てから何度か見かけたことがあった。
だがその罪人の姿に、冬王は思わず声をあげてしまった。
「あの方は……」
鞠も気付いたらしい。
昨夜、彼女が人の姿に戻した、あの異形の男だった。
余程ひどい拷問を受けたのだろう。顔は別人のように腫れ上がっていた。特に左目はひどく膨れている。あれでは見えているかどうか。
着衣にも、至る所に真新しい血痕が滲んでいた。
男がふらつくと、側にいた兵が髪を掴み、乱暴に立たせた。抵抗する気力もないのか、男は痛みに顔をしかめながら黙って歩く。
「ひどい……」
鞠が痛ましげに呟いた。
「あいつ、京の回し者だってな」
「また何か騒ぎを起こすつもりだったのかねえ」
集まった野次馬たちが、蔑むような目で男を睨んでいた。
どうやらこの男は、異形とは無関係の罪人として裁かれるようだ。高重がそのように取り計らったのだろう。
「鞠の力のことは、ほんとに秘密ってことか」
確かに彼女の能力が知れ渡れば、大騒ぎになるだろう。冬王とて、いまだに信じられないのだ。
兵に囲まれ、男が二人の目の前を通り過ぎていく。
刑場に向かって。死に向かって。
「結局こうなるんだな」
冬王は鞠の表情を窺った。
唇を引き結び、じっと男を見つめている。
「もう帰ろうぜ」
行楽気分も萎えてしまった。何よりこれ以上、彼女にこの情景を見せない方がいい気がした。
だが鞠は動かなかった。
「おいってば」
冬王は少し強引に鞠の袖を引っ張った。
そのとき。
「ミツケ…タ」
女の声が聞こえた。声というより耳の奥に直接吹きかけられたような不気味な音だった。
「ミツケタァ!」
「!」
上だ。
通りに面した家の屋根。一人の女が隊列のまっただなかに飛び下りてきた。
「なんだ!?」
「何奴!?」
兵たちが一様に動揺する。
「ウルサイ」
女が腕を一閃する。異様に伸びた鋭い爪が唸りをあげる。
間近にいた兵の首が飛んだ。
鮮血が散り、自律器官を失った胴体がぐらりと崩れ落ちた。
一瞬の静寂の後。
「うわあああ!」
「異形だぁ!」
野次馬たちが蜘蛛の子を散らすように逃げだした。
「危ねえ!」
冬王は咄嗟に鞠を抱き抱えた。
逃げ惑う野次馬たちが、冬王にぶつかっていく。皆我を忘れているので、遠慮などまったくない。
「冬王!」
腕のなかで鞠が悲鳴をあげる。
「黙ってろ!」
鞠の体を抱き締めて、必死に耐える。下手に動くのは危険だ。
「くそ、仲間がいやがったのか」
その間にも、兵たちの悲鳴が続々と響いている。馬の嘶きと、どこかへ駆けていく足音も聞こえた。
ようやく人が途切れたとき、冬王と鞠は同時に顔を上げ、
「な……」
「こんな……」
目の前の惨状に絶句した。
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