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35 公園
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僕は敵と味方をハッキリ分けていて、理沙以外の女はほとんど敵だと思っていた。校内で僕と蒼士の仲はすっかり浸透していたし、蒼士とだけ行動するようになっていたから、話しかけてくる女なんかいやしなかったけど。
唯一腹を割って喋れるのがパートのおばちゃんで、彼氏とはどうなんと聞かれて無駄話に花を咲かせていた。
「美月さーん。来てもた」
制服姿の理沙がスナック菓子をパンパンにカゴに詰めてレジにやってきた。
「美月さん何時に終わるん?」
「あと一時間ぐらい」
「ほな待っとく」
理沙は立ち読みをして時間を潰していた。退勤した僕は理沙と一緒に帰宅した。理沙は僕の視線を気にせず着替えをするようになってしまった。もう家族扱いされているらしい。
「なぁなぁ、お兄ちゃんには内緒にしといてほしいんやけど」
「どしたん?」
「理沙な、彼氏できてん」
「ほんまか!」
聞けば、ネットで知り合った社会人の男だということで、三度目のデートで告白されたという。
「なんで蒼士には内緒なん?」
「お兄ちゃん、いちいちうるさいもん。結婚の話になったらその時に言う」
僕は相手の男のことを根掘り葉掘り聞いた。同じゲームをやっていたことで意気投合。紳士的でエスコートが上手く、女性慣れしているところは気になるが、それでも理沙のことを丁重に扱ってくれており手もまだ繋いでいないとのことだった。
「顔はお兄ちゃんに負けるけどなぁ」
「理沙の理想って蒼士なん?」
「そうやで?」
ブラコン確定である。僕は彼らの幼少期が気になってきた。スナック菓子をつまみながら聞いてみた。
「理沙が幼稚園の時にお母さん死んでんけどなぁ……それからお兄ちゃん、家政婦さんに教えてもらって料理するようになって。理沙、お母さんのことあんまり覚えてへんからさ。お兄ちゃんのご飯が一番美味しい」
家政婦が出入りするような家なのか。僕はますます気になってきた。
「お父さんって何してる人なん?」
「ん? 普通の会社員なんちゃう? 仕事の話はあんまりしてくれへんねん」
すると、蒼士がやってきた。
「なんや、理沙やっぱりおったんか。食材多めに買ってきといて正解や」
「お兄ちゃん、今晩何?」
「ブリの照り焼き」
タレのいい香りがしてきて、僕はじゅるりと唾液を飲んだ。蒼士に食べさせられるまで、魚の良さはよくわかっていなかったが、すっかり気に入ってしまった。厚揚げの入った味噌汁も出来上がり、三人で囲んで食べた。
「蒼士のメシはほんまに旨いわぁ……」
「うんうん。理沙の身体もお兄ちゃんのご飯でできてるもん」
「二人がそうやって食ってくれるから作り甲斐あるで」
食べ終わると、理沙がこんなことを言ってきた。
「なぁなぁ、今日は理沙も泊まりたい!」
「ええ……ヤニつくで?」
「そうやで理沙、父さんに何て言われるか」
「女友達のとこに泊まることにする。なっ、ええやろ?」
あまりにも理沙がしつこいので泊めてやることにした。僕たちは大富豪を始めた。今度はローカルルールも取り入れて、理沙がいきなり革命をしてきたので僕はボロ負けした。
「ふふっ、今夜はえっちなことできひんなぁ?」
「さすがに兄ちゃん妹の前ではせんよ」
夜中になっても理沙は元気だった。三人でコンビニへ行って酒やつまみを買った。秋の爽やかな風が僕たちの間を通り抜けた。蒼士が言った。
「なぁ、折角ええ季節やし公園行かへん?」
「ええよ、蒼士」
「理沙も賛成!」
芝生のある大きな公園に僕たちはやってきた。もちろん子供なんてもう遊んでいなかった。僕たちのように若者のグループがたむろしており、空いていたベンチに座った。
「かんぱーい!」
滑り台にブランコがくっついた大きな遊具を見ながら理沙が言った。
「お兄ちゃんに小さい頃はブランコ押してもらってたなぁ」
「理沙がそれでこけてデコぶつけて」
「そうそう。お兄ちゃんがお父さんに怒られてんなぁ」
純粋に羨ましかった。そういう思い出がある兄妹が。僕にもいればまた変わった人生を送っていたのだろう。
ビールを一缶飲んで、気を大きくした僕たちはブランコに乗った。
「蒼士ぃ! こわいこわいこわい!」
「もっといけるやろ!」
蒼士はガンガン押してきた。一回転するんじゃないだろうか。それほどまでに。理沙は一人でくるくると滑り台を滑っているようだった。僕たちの方に寄ってきた理沙は言った。
「あーあ、大人になってまでこんなはしゃぐと思わんかった」
「理沙はまだ子供やろ」
「お兄ちゃんはいつまでも子供扱いするぅ」
「蒼士ぃ! そろそろおろしてー!」
蒼士に抱き止められてようやく揺れが収まった。フラフラになった僕はもう帰ろうと提案し、帰宅した。ベッドは理沙に明け渡した。僕と蒼士は床に転がった。
「美月ぃ……」
「んっ……」
「理沙寝たみたいやし、手ぇくらい繋ごうなぁ……」
「しゃあないなぁ」
蒼士と指をしっかり組み合わせた。それだけでは物足りなくなって、こっそりと何度かキスをした。
唯一腹を割って喋れるのがパートのおばちゃんで、彼氏とはどうなんと聞かれて無駄話に花を咲かせていた。
「美月さーん。来てもた」
制服姿の理沙がスナック菓子をパンパンにカゴに詰めてレジにやってきた。
「美月さん何時に終わるん?」
「あと一時間ぐらい」
「ほな待っとく」
理沙は立ち読みをして時間を潰していた。退勤した僕は理沙と一緒に帰宅した。理沙は僕の視線を気にせず着替えをするようになってしまった。もう家族扱いされているらしい。
「なぁなぁ、お兄ちゃんには内緒にしといてほしいんやけど」
「どしたん?」
「理沙な、彼氏できてん」
「ほんまか!」
聞けば、ネットで知り合った社会人の男だということで、三度目のデートで告白されたという。
「なんで蒼士には内緒なん?」
「お兄ちゃん、いちいちうるさいもん。結婚の話になったらその時に言う」
僕は相手の男のことを根掘り葉掘り聞いた。同じゲームをやっていたことで意気投合。紳士的でエスコートが上手く、女性慣れしているところは気になるが、それでも理沙のことを丁重に扱ってくれており手もまだ繋いでいないとのことだった。
「顔はお兄ちゃんに負けるけどなぁ」
「理沙の理想って蒼士なん?」
「そうやで?」
ブラコン確定である。僕は彼らの幼少期が気になってきた。スナック菓子をつまみながら聞いてみた。
「理沙が幼稚園の時にお母さん死んでんけどなぁ……それからお兄ちゃん、家政婦さんに教えてもらって料理するようになって。理沙、お母さんのことあんまり覚えてへんからさ。お兄ちゃんのご飯が一番美味しい」
家政婦が出入りするような家なのか。僕はますます気になってきた。
「お父さんって何してる人なん?」
「ん? 普通の会社員なんちゃう? 仕事の話はあんまりしてくれへんねん」
すると、蒼士がやってきた。
「なんや、理沙やっぱりおったんか。食材多めに買ってきといて正解や」
「お兄ちゃん、今晩何?」
「ブリの照り焼き」
タレのいい香りがしてきて、僕はじゅるりと唾液を飲んだ。蒼士に食べさせられるまで、魚の良さはよくわかっていなかったが、すっかり気に入ってしまった。厚揚げの入った味噌汁も出来上がり、三人で囲んで食べた。
「蒼士のメシはほんまに旨いわぁ……」
「うんうん。理沙の身体もお兄ちゃんのご飯でできてるもん」
「二人がそうやって食ってくれるから作り甲斐あるで」
食べ終わると、理沙がこんなことを言ってきた。
「なぁなぁ、今日は理沙も泊まりたい!」
「ええ……ヤニつくで?」
「そうやで理沙、父さんに何て言われるか」
「女友達のとこに泊まることにする。なっ、ええやろ?」
あまりにも理沙がしつこいので泊めてやることにした。僕たちは大富豪を始めた。今度はローカルルールも取り入れて、理沙がいきなり革命をしてきたので僕はボロ負けした。
「ふふっ、今夜はえっちなことできひんなぁ?」
「さすがに兄ちゃん妹の前ではせんよ」
夜中になっても理沙は元気だった。三人でコンビニへ行って酒やつまみを買った。秋の爽やかな風が僕たちの間を通り抜けた。蒼士が言った。
「なぁ、折角ええ季節やし公園行かへん?」
「ええよ、蒼士」
「理沙も賛成!」
芝生のある大きな公園に僕たちはやってきた。もちろん子供なんてもう遊んでいなかった。僕たちのように若者のグループがたむろしており、空いていたベンチに座った。
「かんぱーい!」
滑り台にブランコがくっついた大きな遊具を見ながら理沙が言った。
「お兄ちゃんに小さい頃はブランコ押してもらってたなぁ」
「理沙がそれでこけてデコぶつけて」
「そうそう。お兄ちゃんがお父さんに怒られてんなぁ」
純粋に羨ましかった。そういう思い出がある兄妹が。僕にもいればまた変わった人生を送っていたのだろう。
ビールを一缶飲んで、気を大きくした僕たちはブランコに乗った。
「蒼士ぃ! こわいこわいこわい!」
「もっといけるやろ!」
蒼士はガンガン押してきた。一回転するんじゃないだろうか。それほどまでに。理沙は一人でくるくると滑り台を滑っているようだった。僕たちの方に寄ってきた理沙は言った。
「あーあ、大人になってまでこんなはしゃぐと思わんかった」
「理沙はまだ子供やろ」
「お兄ちゃんはいつまでも子供扱いするぅ」
「蒼士ぃ! そろそろおろしてー!」
蒼士に抱き止められてようやく揺れが収まった。フラフラになった僕はもう帰ろうと提案し、帰宅した。ベッドは理沙に明け渡した。僕と蒼士は床に転がった。
「美月ぃ……」
「んっ……」
「理沙寝たみたいやし、手ぇくらい繋ごうなぁ……」
「しゃあないなぁ」
蒼士と指をしっかり組み合わせた。それだけでは物足りなくなって、こっそりと何度かキスをした。
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