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第一章 花開くクレマチス
(3)花開くクレマチス その2-2
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ふたりは布団から出ると、一緒ににシャワーを浴び、遅めの朝食を整え始める。愛子がキッチンに立ち、克也が皿を並べながらコーヒーを淹れているときのことだった。
ピンポーン
いそいそと愛子がインターホンの受話器を取りに行く。
「はーい、あ、真奈美さん。今出ます」
「あ、真奈美さん? 俺が出るよ」
克也は立ち上がって、玄関へ向かう。ドアを開けると、白い箱を手に持った真奈美がニコニコしながら立っていた。
「おはようっ。克也くん。よく寝れた?」
真奈美は意味深に克也を上目遣いに見て訊ねる。
「あはは……。まぁ、上がってください」
克也は苦笑いで真奈美をリビングへ通そうとする。
「うん。今日はいいかな。邪魔しちゃうとあれだし。これ、お祝いだよっ」
真奈美は持っていた小さな白い箱を克也に手渡す。近くでは有名なケーキ屋のロゴが見えたので、中身はケーキであることはすぐに分かった。
「あと、これは、昨日のお詫びも含めで」
さらに真奈美は、可愛らしい熊のキャラクターが描かれているエプロンのポケットから白い封筒を克也に手渡す。
「これは?」
「開けてみていいよ」
克也はその場で受け取った封筒の中身を確認する。すると、自宅からそれほど離れていない場所にある近所では有名なラブホテルの名が、克也の目に飛び込んできた。さらに『無料招待券』の文字も読み取れる。日曜の昼間に堂々と玄関で受け取るにはあまりにも似つかわしくないその券が、十枚程の束で入っていた。
「もっと欲しかったら言ってね。いくらでも貰えるから」
「えっと、これって……?」
克也は面食らいながら真奈美に問う。
「孝さんの裏ルートからなんだけどね。私たちもよく使うし。あそこ結構きれいだし、広いから好きなんだぁ」
「はぁ……。ではなくってですね。これをどうしろと……」
「ん? ここでは、アレと同じくらいの必需品じゃないかな? 克也くん?」
そこで克也はようやく察した。
「あ、あはは……。そういうことでしたらありがたく……。でも、昨日の件はちょっと怒ってますよ」
克也はわざと眉間にしわを寄せる。
「だからー、こうやってお詫び持ってきたのよぅ。ね、許して?」
真奈美は片目をつむりながら両手を合わせて克也に謝る。
「愛子が知ったら卒倒するか、泣き出すか……」
「ん? 私に何か用?」
自分の名を呼ばれた愛子が、リビングから顔をのぞかせる。
「あ、愛子ちゃん。今日は克也くんがいいとこ連れてってくれるって! 私は邪魔しちゃ悪いからこの辺で。じゃぁねー」
真奈美は愛子に手を振りながら、そそくさとドアを閉めて隣の自宅へと帰ってしまった。
「はぁ……」
思わず克也はため息をつく。
「克也さん、そのケーキ、真奈美さんから?」
「うん。お祝いだって」
「お祝い……。はっ、まさかっ!」
愛子は両手を口に当て、目を大きくする。
「昨日のやつ、聞かれてたんだぁ……」
愛子は泣きそうになりながら克也を見る。
「愛子も知ってたの?」
愛子が真奈美の行動だけで察したことに逆に克也が驚く。
「うん……。壁はしっかりしてるけど、聞こえてるよって、真奈美さんが教えてくれたから」
「そうかぁ……」
「だから、克也さん最後……」
その時のことを思い出したのか、愛子の頬が急に赤くなる。
「やぁん……」
愛子は恥ずかしくなって顔を両手で覆い隠す。そんな我が妻の可愛い仕草を愛おしく思いながら、克也は愛子に白い封筒を差し出す。
「お詫びだからって、こんなの貰ったんだけど、どうする?」
愛子は覆っていた手を片方だけどけて、克也の持っていた封筒を受け取る。
「何? これ」
「近所に有名なラブホあるじゃん。あそこの無料招待券。だって」
「えぇ……」
愛子も、さすがにそれはないだろう、という顔になる。
「まぁ、真奈美さんたちらしいって言えばそれまでかぁ」
「とりあえず、ご飯食べてから、考えよう」
克也は愛子を促してリビングへ戻った。
朝食を取り終え、デザートに真奈美が持ってきたケーキを平らげながら、ふたりはリビングのガラステーブルに例の券を広げていた。
「あまりにもシュールだ」
克也が苦笑しながら素直な感想を述べる。
「日曜のお昼に出しておくものじゃぁないよね」
愛子もつられて苦笑する。
「まぁ、でも、いいところなんだよねー。ここって。真奈美さんに聞いたことあるよ」
愛子は、このホテルがどんな設備があって、どれだけ他より優れているかを事細かに話す。
「興味あるんだ」
克也は一通り聞いて、にやり顔で愛子に突っ込みを入れる。
「うん……。克也さんと行ってみたいっ、て、前から思ってたよ」
愛子は頬を赤らめながら答える。妻の意外な反応に克也はちょっと驚きながら、
「じゃぁ、今晩早速……」
と、誘ってみると、愛子は、
「うん、いいよ。でね、今日は、こんな感じでどうだろう……」
そう即答で承諾すると、休日のプランを克也に披露するのだった。
ピンポーン
いそいそと愛子がインターホンの受話器を取りに行く。
「はーい、あ、真奈美さん。今出ます」
「あ、真奈美さん? 俺が出るよ」
克也は立ち上がって、玄関へ向かう。ドアを開けると、白い箱を手に持った真奈美がニコニコしながら立っていた。
「おはようっ。克也くん。よく寝れた?」
真奈美は意味深に克也を上目遣いに見て訊ねる。
「あはは……。まぁ、上がってください」
克也は苦笑いで真奈美をリビングへ通そうとする。
「うん。今日はいいかな。邪魔しちゃうとあれだし。これ、お祝いだよっ」
真奈美は持っていた小さな白い箱を克也に手渡す。近くでは有名なケーキ屋のロゴが見えたので、中身はケーキであることはすぐに分かった。
「あと、これは、昨日のお詫びも含めで」
さらに真奈美は、可愛らしい熊のキャラクターが描かれているエプロンのポケットから白い封筒を克也に手渡す。
「これは?」
「開けてみていいよ」
克也はその場で受け取った封筒の中身を確認する。すると、自宅からそれほど離れていない場所にある近所では有名なラブホテルの名が、克也の目に飛び込んできた。さらに『無料招待券』の文字も読み取れる。日曜の昼間に堂々と玄関で受け取るにはあまりにも似つかわしくないその券が、十枚程の束で入っていた。
「もっと欲しかったら言ってね。いくらでも貰えるから」
「えっと、これって……?」
克也は面食らいながら真奈美に問う。
「孝さんの裏ルートからなんだけどね。私たちもよく使うし。あそこ結構きれいだし、広いから好きなんだぁ」
「はぁ……。ではなくってですね。これをどうしろと……」
「ん? ここでは、アレと同じくらいの必需品じゃないかな? 克也くん?」
そこで克也はようやく察した。
「あ、あはは……。そういうことでしたらありがたく……。でも、昨日の件はちょっと怒ってますよ」
克也はわざと眉間にしわを寄せる。
「だからー、こうやってお詫び持ってきたのよぅ。ね、許して?」
真奈美は片目をつむりながら両手を合わせて克也に謝る。
「愛子が知ったら卒倒するか、泣き出すか……」
「ん? 私に何か用?」
自分の名を呼ばれた愛子が、リビングから顔をのぞかせる。
「あ、愛子ちゃん。今日は克也くんがいいとこ連れてってくれるって! 私は邪魔しちゃ悪いからこの辺で。じゃぁねー」
真奈美は愛子に手を振りながら、そそくさとドアを閉めて隣の自宅へと帰ってしまった。
「はぁ……」
思わず克也はため息をつく。
「克也さん、そのケーキ、真奈美さんから?」
「うん。お祝いだって」
「お祝い……。はっ、まさかっ!」
愛子は両手を口に当て、目を大きくする。
「昨日のやつ、聞かれてたんだぁ……」
愛子は泣きそうになりながら克也を見る。
「愛子も知ってたの?」
愛子が真奈美の行動だけで察したことに逆に克也が驚く。
「うん……。壁はしっかりしてるけど、聞こえてるよって、真奈美さんが教えてくれたから」
「そうかぁ……」
「だから、克也さん最後……」
その時のことを思い出したのか、愛子の頬が急に赤くなる。
「やぁん……」
愛子は恥ずかしくなって顔を両手で覆い隠す。そんな我が妻の可愛い仕草を愛おしく思いながら、克也は愛子に白い封筒を差し出す。
「お詫びだからって、こんなの貰ったんだけど、どうする?」
愛子は覆っていた手を片方だけどけて、克也の持っていた封筒を受け取る。
「何? これ」
「近所に有名なラブホあるじゃん。あそこの無料招待券。だって」
「えぇ……」
愛子も、さすがにそれはないだろう、という顔になる。
「まぁ、真奈美さんたちらしいって言えばそれまでかぁ」
「とりあえず、ご飯食べてから、考えよう」
克也は愛子を促してリビングへ戻った。
朝食を取り終え、デザートに真奈美が持ってきたケーキを平らげながら、ふたりはリビングのガラステーブルに例の券を広げていた。
「あまりにもシュールだ」
克也が苦笑しながら素直な感想を述べる。
「日曜のお昼に出しておくものじゃぁないよね」
愛子もつられて苦笑する。
「まぁ、でも、いいところなんだよねー。ここって。真奈美さんに聞いたことあるよ」
愛子は、このホテルがどんな設備があって、どれだけ他より優れているかを事細かに話す。
「興味あるんだ」
克也は一通り聞いて、にやり顔で愛子に突っ込みを入れる。
「うん……。克也さんと行ってみたいっ、て、前から思ってたよ」
愛子は頬を赤らめながら答える。妻の意外な反応に克也はちょっと驚きながら、
「じゃぁ、今晩早速……」
と、誘ってみると、愛子は、
「うん、いいよ。でね、今日は、こんな感じでどうだろう……」
そう即答で承諾すると、休日のプランを克也に披露するのだった。
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