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第四章 花のお姉さん
(32)花のお姉さん その2-2
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駅から歩いて十五分ほど、克也の住む団地までそこから十分程度の距離に綾女の住むマンションは位置していた。歩いている間に愛子の話題になり、綾女は自然と最初の丁寧気味の口調から、普段いつも会話する口調に戻して克也と話していた。愛子の話をすると穏やかな笑顔を見せる綾女に、克也は好感をもっていた。
「本当に帰り道の途中だったんですね。毎日通っているとこです」
「ふふっ、そうみたいね。どうぞ上がって」
ドアの鍵を開けて電気をつけると、綾女は克也をリビングへ通す。
「好きなとこに座っててね。いまコーヒーいれるから」
克也は自宅とそんなに変わらない間取りの部屋で、だいたいいつも座る位置にあるソファーに腰掛ける。
「いい匂いがしますね」
克也は素直に感想を言う。部屋全体にバラの香りに似た、ゼラニウムの匂いが漂っていた。この香りは時々愛子も部屋で試すことがある。克也には、なじみの匂いだった。
「うん。お部屋の匂いはこだわってるから」
「いいんですか? 自分なんかここに呼んじゃって」
克也は自虐気味に綾女に言う。
「ん? だって、私、貴方の匂いが好きだから呼んだのよ。克也くん」
コーヒーを淹れた綾女がリビングに来て、テーブルにカップを置くと、克也の首筋に鼻を近づける。
「ん……、お酒飲んでたから今は少し薄くなってるけど、私、貴方の匂い、あの距離からでも分かったよ。」
綾女は克也の耳元で囁くように言う。
「やっぱり、そういうことだったんですね……」
克也もあの時の視線の理由に合点がいく。ショッピングセンターの下着売り場から向けられた綾女の熱い視線。克也は周囲の目を避けて気にしない素振りをしていたが、その後、向けられた視線のことがずっと気になっていた。
「うちのお店に愛子ちゃんと来たときね、今まで嗅いだことのない、すごい匂いがした。周りのみんなは気が付かなかったけど、私だけは気がついてた。貴方が、特別な匂いを持つ人ってことに」
「愛子が、貴方のことを『花のお姉さん』と呼んでいることも、関係してますよね」
克也が綾女をまっすぐ見ながら問う。
「ふふっ、さすがは愛子ちゃんの旦那様ね。うん。自己紹介ついでに、色々話しちゃおうかな」
綾女は克也の隣りに座ると、持ってきたコーヒーカップに口をつける。
「私ね、高校の頃、愛子ちゃんの実家のお店にいたことあるんだ。『シェリーフルール』ってお店でね。お花のこと、お父様とお母様には本当に色々教わったなぁ」
綾女は懐かしむように遠くを見ながら話す。
「シェリーフルールで働いたことがきっかけになってね、花の勉強色々していくうちに、ランジェリーに興味持ち始めて、そして今のお店で働くようになって、愛子ちゃんに再会して。そして今、克也くんと話してる。これって、すごい巡り合わせだよ」
「僕もそう思います。愛子がみんな連れてくるような……、そんな気さえします」
「うんうん。しかも、隣の家が真奈美だったなんてね」
「真奈美さんとはどんな?」
克也は綾女に淹れてもらったコーヒーを飲みながら興味深げに聞く。綾女は少し間を置いてから克也に答える。
「うん。真奈美は大学が同期だったんだ。その頃にはすでに隣に孝先生がいて……。卒業してから就職して、私が今の店に来るまでの間はずっと会ってなかったんだけど、愛子ちゃんに再会するちょっと前に、真奈美がうちの店に来たんだよ。」
「愛子がしきりに貴方と僕を会わせたがってた理由、わかった気がします」
「んー、たぶん、愛子ちゃんには、別の考えもあったと思うなぁ」
綾女は人差し指を唇に当てながら克也に向かって妖艶に微笑む。
「もう、本当は、克也くん、察してるんじゃないかな?」
そして綾女が克也の股間に触り、ベルトに手をかけようとしていたときだった。
ぽよよよよーん! ぽよよよよーん!
綾女のスマホから妙な着信音がする。綾女はムッとしながら、スマホに出る。
「もしもしっ、真奈美? 今いいとこなんだから邪魔しないでっ……って、……え? なんで私と克也くんが一緒なの知ってるのよっ。え?……うん。分かった。伝えておく。はい。……わかってるわよぉ。うん。……うん。じゃあね」
綾女がため息をつきながらスマホの通話を切ると、ふたたびソファーに戻る。
「えっと……、いまの、真奈美さんですよね?」
克也はスマホを切ったタイミングを見計らって綾女に声をかける。
「うん、克也くんと一緒にいるの、なんで知ってたのかしらね」
綾女は眉間にしわを寄せて疑問を呈する。
「あはは……。あの人のことは僕も不思議です。」
克也は苦笑いしながら答える。
「で、克也くんに伝えてほしいって。『例の件、片付きそうだから早く戻ってきて』だって。例の件って何?」
「僕も良くは知らないんですが、さっきまで一緒にいた、若野っていう後輩の一大事ってことらしいんです。まぁ、真奈美さん絡んでる時点でお察しです」
「そういうことかー。ね、あとで、もし良かったら会いに行っていいかな?」
「愛子とですか?」
「うん。というか、みんなと会いたい。すっごい楽しそうな予感がする」
綾女は胸を躍らせて克也に迫る。
「あはは。分かりました。たぶんみんなで食事とか、そんな流れでしょうから、あとで連絡します」
くるくる変わる綾女の表情を楽しみながら、克也はそう答えるのだった。
「うん、待ってるよ」
「本当に帰り道の途中だったんですね。毎日通っているとこです」
「ふふっ、そうみたいね。どうぞ上がって」
ドアの鍵を開けて電気をつけると、綾女は克也をリビングへ通す。
「好きなとこに座っててね。いまコーヒーいれるから」
克也は自宅とそんなに変わらない間取りの部屋で、だいたいいつも座る位置にあるソファーに腰掛ける。
「いい匂いがしますね」
克也は素直に感想を言う。部屋全体にバラの香りに似た、ゼラニウムの匂いが漂っていた。この香りは時々愛子も部屋で試すことがある。克也には、なじみの匂いだった。
「うん。お部屋の匂いはこだわってるから」
「いいんですか? 自分なんかここに呼んじゃって」
克也は自虐気味に綾女に言う。
「ん? だって、私、貴方の匂いが好きだから呼んだのよ。克也くん」
コーヒーを淹れた綾女がリビングに来て、テーブルにカップを置くと、克也の首筋に鼻を近づける。
「ん……、お酒飲んでたから今は少し薄くなってるけど、私、貴方の匂い、あの距離からでも分かったよ。」
綾女は克也の耳元で囁くように言う。
「やっぱり、そういうことだったんですね……」
克也もあの時の視線の理由に合点がいく。ショッピングセンターの下着売り場から向けられた綾女の熱い視線。克也は周囲の目を避けて気にしない素振りをしていたが、その後、向けられた視線のことがずっと気になっていた。
「うちのお店に愛子ちゃんと来たときね、今まで嗅いだことのない、すごい匂いがした。周りのみんなは気が付かなかったけど、私だけは気がついてた。貴方が、特別な匂いを持つ人ってことに」
「愛子が、貴方のことを『花のお姉さん』と呼んでいることも、関係してますよね」
克也が綾女をまっすぐ見ながら問う。
「ふふっ、さすがは愛子ちゃんの旦那様ね。うん。自己紹介ついでに、色々話しちゃおうかな」
綾女は克也の隣りに座ると、持ってきたコーヒーカップに口をつける。
「私ね、高校の頃、愛子ちゃんの実家のお店にいたことあるんだ。『シェリーフルール』ってお店でね。お花のこと、お父様とお母様には本当に色々教わったなぁ」
綾女は懐かしむように遠くを見ながら話す。
「シェリーフルールで働いたことがきっかけになってね、花の勉強色々していくうちに、ランジェリーに興味持ち始めて、そして今のお店で働くようになって、愛子ちゃんに再会して。そして今、克也くんと話してる。これって、すごい巡り合わせだよ」
「僕もそう思います。愛子がみんな連れてくるような……、そんな気さえします」
「うんうん。しかも、隣の家が真奈美だったなんてね」
「真奈美さんとはどんな?」
克也は綾女に淹れてもらったコーヒーを飲みながら興味深げに聞く。綾女は少し間を置いてから克也に答える。
「うん。真奈美は大学が同期だったんだ。その頃にはすでに隣に孝先生がいて……。卒業してから就職して、私が今の店に来るまでの間はずっと会ってなかったんだけど、愛子ちゃんに再会するちょっと前に、真奈美がうちの店に来たんだよ。」
「愛子がしきりに貴方と僕を会わせたがってた理由、わかった気がします」
「んー、たぶん、愛子ちゃんには、別の考えもあったと思うなぁ」
綾女は人差し指を唇に当てながら克也に向かって妖艶に微笑む。
「もう、本当は、克也くん、察してるんじゃないかな?」
そして綾女が克也の股間に触り、ベルトに手をかけようとしていたときだった。
ぽよよよよーん! ぽよよよよーん!
綾女のスマホから妙な着信音がする。綾女はムッとしながら、スマホに出る。
「もしもしっ、真奈美? 今いいとこなんだから邪魔しないでっ……って、……え? なんで私と克也くんが一緒なの知ってるのよっ。え?……うん。分かった。伝えておく。はい。……わかってるわよぉ。うん。……うん。じゃあね」
綾女がため息をつきながらスマホの通話を切ると、ふたたびソファーに戻る。
「えっと……、いまの、真奈美さんですよね?」
克也はスマホを切ったタイミングを見計らって綾女に声をかける。
「うん、克也くんと一緒にいるの、なんで知ってたのかしらね」
綾女は眉間にしわを寄せて疑問を呈する。
「あはは……。あの人のことは僕も不思議です。」
克也は苦笑いしながら答える。
「で、克也くんに伝えてほしいって。『例の件、片付きそうだから早く戻ってきて』だって。例の件って何?」
「僕も良くは知らないんですが、さっきまで一緒にいた、若野っていう後輩の一大事ってことらしいんです。まぁ、真奈美さん絡んでる時点でお察しです」
「そういうことかー。ね、あとで、もし良かったら会いに行っていいかな?」
「愛子とですか?」
「うん。というか、みんなと会いたい。すっごい楽しそうな予感がする」
綾女は胸を躍らせて克也に迫る。
「あはは。分かりました。たぶんみんなで食事とか、そんな流れでしょうから、あとで連絡します」
くるくる変わる綾女の表情を楽しみながら、克也はそう答えるのだった。
「うん、待ってるよ」
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