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#03 夜
しおりを挟む──ゼア・イズ
「よるもすがらにきみをおもう。」
「余計な物があるようだねぇ?」
「よすがらきみをおもう。」
「何か足りない様だねぇ?」
どうしろってんだ。
「君の好きなようにし給えよ、何か言われても莫迦だと言い返せば良い。」
長谷部美奈子は肩にかかる見事な黒髪を払ってそう言った。手元にあるのは僕が書いた小説だ。小説と言っても大した物じゃない。原稿用紙に書いた物を打ち込んで印刷しただけだ。
「大した物と思うがねぇ? でも、この子、私かい? なら、嬉しいんだけど。」
月を追う娘。美奈子にしか合わないと思った。けれど、言えない。
「唯一の含羞、だね。君らしいよ。」
秋らしい、程良く布に包まれた身体は魅力的だ。視線は、バレてるな。
「ん? ああ、良いよ。君が望むなら。でも、君らしくないのが問題だね。私としては好いんだけれど、君が気にするだろう?」
だから、回り道ばかりだ。
「まぁ、良いじゃないか。付き合うよ。君が厭だと言うまでね。」
なぜだろう。いつからだろう。美奈子はここに居る。
「其れは少し難しいな。」
外はもう夜だ。カーテンを閉めた。夕飯の支度もしなければ。
「うん、そうだね、君は、そうして呉れる。はてさて。」
美奈子は窓辺に立った。綺麗と思う。思うだけか、僕じゃ。
「それ、だねぇ? ふふっ、私は好きだけれど、君は嫌っているようだ。」
窓辺から飛び降りた、様に見えた。
「ねぇ、君、嗚呼、君、君よ。」
宝石の様な瞳がある。熟れた果実の様な唇がある。
「私は最期まで付き合っても良い?」
頷けば花のように笑う。
「嬉しいな。私は本当に嬉しいんだ。私が月を追う子に成れた事も、君が、私を、」
顔が近い。今更返る道も無い。応えようか。その赤い唇に。
「ないない、ないよ、だって僕とキミでしょ?」
笑った。愉しかった。
「ねぇ、君、僕の事、馬鹿にしてるよね?」
少しぐらいは応えてやろうか。
「いや? まるで君だろう?」
「どこがよ。」
「馬鹿な男に引っかかってる可哀相な女の子。」
「そう思うならさぁ、」
如何やら此の書き物も完成しないようだ。まぁ、良いだろう。俺と彼女の物語は続いて行く。
「ねぇ、その一人で完結した顔止めない?」
「其れは君が俺から離れないのが悪い。」
「だって、君は、」
相変わらず歯切れが悪い。
「ずるい。僕だって、」
「好きにし給えよ。」
凄い顔で睨まれた。夜の間中彼女を想う事は無いだろう。ずっと一緒だから。其れこそずるい、か? 莫迦め。
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