12 / 14
#12 妄想と現実
しおりを挟む──誰かの頭の中にある世界。
「さぞや混乱しているだろうね。」
「だろうな。戸籍は存在し、遺伝子鑑定結果も当人と一致。」
「にも関わらずその男は生きている。」
「自分の葬式眺めて、自分の墓も在る。」
「実に愉快じゃないか。まぁ、私には興味の無い事だがね。」
「狂科学者め。」
「手を貸した君に言える事かい?」
「しかし意外だったな。少しは共謀して利己的な行動を取ると思ったんだが。」
「数日ともたずに殺し合いとはね。自己同一性とはそれ程重要なのかねぇ?」
「それか脆いかのどっちかだな。」
「何れ私には人の心になど興味が無い。」
「狂科学者め。」
「共犯者に言われたくないね。」
「残ったのは作った方だったか?」
「ああ。無理矢理成長させたから、もって一月かな。次はそっちの研究をしようか。」
「小動物は成功したんだがな。」
「人間の体は複雑だからねぇ、幾つか案はある。後は実験体だね。また頼むよ。」
「金はあるが、俺を使えば済む話じゃないか?」
「悪い前例を作ってしまったし、実験体は多い方が良い。」
「隔離しちまえば良いだろ。」
「万が一って事もあるし、優秀なスポンサーであり助手を失うのは私にとって痛手だ。」
「そりゃどうも。」
数週間後、一人の男が謎の死を遂げた。死因や状況よりも混乱をもたらしたのは、その男が既に鬼籍に入っていた事だった。
(了・ビスケット・ハンマー)
視界が低い。まるで地を這っているようだ。入口のガラスに映る自分は、黒猫の姿をしていた。不思議と驚かなかった。どうせ夢か幻だろう。そのまま一回のロビーに入ると待合室の椅子達がかなり酷い話をしていた。まぁ、重さや匂いの話だ。受付にはマネキンが三体座っていて、こっちも愚痴を零していた。耳が遠いのが多いとか、話を聞いてないとか、予約もなしに来るとか。備品の配達はいつも間が悪いとか。パソコンが置いてある、電話を使えるスペースでは椅子がパソコンのゲームに興じていた。昼間は我慢しているらしい。自動販売機の前に行くとペットボトルと缶が語り合っていた。一本ずつ取ってくれないと、上に落ちられて痛いらしい。
少し進むとエレベーターが口を開けてくれた。
「口が疲れるから早くして。」
それが仕事だろうに。思うだけで言うのは止めておいた。上の階は静かだった。食堂の皆は眠っているらしい。病室へ走る。部屋の扉は開けたままになっていた。少し暑いのか、僕は寝苦しそうにしていた。その腹の上に飛び乗って丸くなる。眠ろうか。どうせ明日の朝には忘れてしまっているのだから。
(了・ナイトスケイプ)
左回りの時計に知らされて鏡を見た。起きる時間だ。制服に着替えて、フライパンが焼いたトーストにトースターが焼いた目玉焼きを乗せて食べる。本棚からサラダを取り出して、蛇口から出るコーンスープを飲んだ。ポットの水で顔と歯を洗う。時計を見ながら適当に髪を整えて部屋を飛び出す、前にゴミ箱で溺れかけていたトカゲを金魚鉢に戻した。今度こそ部屋を飛び出したけれど、このままでは遅刻になりそうだったから右回りの道を選んだ。犬を乗せた猫が駆けて行く。大方猿にでも肉を取られたのだろう。銀杏と楓は仲良く葉を拾い合っている。もうそんな季節か。校門が閉まる直前に滑り込んだ。どうやら間に合ったらしい。すぐに始まった授業では英語の教師が数学の教科書を一枚一枚丁寧に破り取って黒板に貼り付けて行く。生徒達はそれをスマホやデジカメで撮影している。物理の教師の喋る言葉は床や天井で跳ね、教室中を駆け回る。午後は雨かな。
昼になったので食堂に行く。キツネとタヌキの絶叫が聞こえた。仕方が無い。屋上で弁当でも食べよう。
屋上はキレイな風が吹いていた。下に見える白い雲、上に見える青い海。今度の雨はどっちに降るだろう。
ここは浮遊する街。
ここは逆様の街。
それとも。
私の気が触れているだけかしら?
(了・浮遊する街)
夕方になるとすっかり涼しくなった。僕はなれた道を歩く。広場の入り口に白い帽子とワンピースが立っていた。中身は無いが、会釈をすると返してくれた。そのまま広場に入ると二匹の蛇が店を出していた。黒い蛇が売っているのは白く濁った酒。かなり安かったが、一口呑んだモグラが倒れた。白い蛇の酒は琥珀色に輝いていたが、それを呑みながら誰もいない方向へ喋り続けるツルを見て呑むのは止そうと思った。
「旦那も一ついかがです? こんなに安くて、いっぺんに酔えますよ。」
「何を言いますか、こちらのお酒で素敵な夢をご覧下さい。」
僕は顔をしかめて素通りした。少しだけ強くなった風がまだ何かを言っている二匹の声を消してくれた。そのまま広場を歩く。まだ夏と秋の間なのだろう。花の種類は変わっても雑草は茂ったままだった。
広場を抜けると灰色の犬の店に着いた。様々な種類のパンと酒を売っていて、評判も良い。少し多目に買い物をして、家路につく。ふと振り返ると白い帽子とワンピースが居た。どうやらついて来てしまったらしい。まぁ、良いか。顔の無い彼女が隣に来るのを待って歩き出した。
(了・晩夏の幻)
0
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる