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#08 ウィズ・ノイジー・ガールズ
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──騒がしい日々の一幕。
君にふれるだけで
──退屈で幸せな夜。
「お話があります。」
突然そう言われた俺は傾けかけていたグラスをどうしようかと迷ってしまった。水割りのウイスキーはもう一口で飲める程しか残っていない。高々その程度のアルコールを呑むのを惜しんで機嫌を損ねる事も無いかと思いグラスから手を離した。目の前で真剣な顔をしている奴をそれくらいは思っている。
「ああ、飲んでしまってからでも構いませんよ」
高槻理緒という名前のそいつは長い髪に指を当てながらそう言った。目が悪い癖に眼鏡を掛けていない所為でいつも目を凝らしていて、それが不機嫌そうに見える。
「否、良いよ。改まってどうした?」
俺はその目を見る。
「そうですか。有難うございます。」
理緒は一つ大きく息を吸って、言う。
「実は、お返しがしたいのです。」
とりあえず考えてみる。確かに昨日はメールの返事を送る前に眠ってしまったが、それはちゃんと起きてから謝ったし、他に何かお返しをされるような事はしていない筈だ。
「俺、何かしたか?」
「いいえ、そうではありません。貴方は常々良くしてくれています。今朝だって折角の週末だというのに朝から丁寧な謝罪のメールを下さいましたし。」
「否、当たり前だろう。すまんな、少し疲れてて。」
理緒は何かしらの葛藤を抱えているような表情の変え方をした。
「それです、むしろ貴方は常々お仕事を頑張っていらしてお疲れなのですから私が気を使うべきでした。御免なさい。」
突然謝られてしまった。
「お前のメールは面白いから、別にそれが苦痛になった事はないが。」
「そうでしたか、嬉しいです。あ、違います、また私ばかり喜んでしまって。」
頭を抱えて首を振る。見事な黒髪が蛍光灯の光を受けて煌いていた。素直に綺麗だな、と思った。
「と、兎に角ですね、ずっと私ばかりが良い思いをしていると思うのですよ!」
意味が全く分からなかった。理緒と俺は数年前に知り合い、数ヶ月前から恋人同士として付き合っている。不満は無い。理緒と話していると日頃の疲れを忘れられるし、時折飯を作ったり、掃除をしに来てくれている。今夜だって酒の相手をしてくれている。好いた相手が良妻だったという訳だ。これで不満を言っていたらばちが当たる。
「そんな事ないだろう。」
理緒にとっての俺は、如何だろう。出来るだけ気を使うようにしているが、俺が感じるように理緒も楽しんでくれているのかは分からない。昨日もメール返さなかったしな。
「ありますよ、貴方は私に何でもして下さるのに、私は、」
どうやら認識に差があるようだった。
「今日だって晩飯作って肴も用意してくれただろ。呑まないのに話し相手もしてくれてるし、今日泊まっていったら、明日は洗濯と掃除もしてくれるんだろ?」
「それは、勿論そうですけど。」
「なら、それで十分だ。」
グラスの中身を飲み干した。理緒は甲斐甲斐しく新しいウイスキーの水割りを作り、グラスの周りの水滴を拭き取って俺の手元に置いてくれた。飲むまでもなく俺の好みの濃さになっているのだろうと分かる。
「こういうのも、中々してくれないものだと思うがな。」
理緒が少し身を引いた。納得はしていないようだ。
「でも、特別じゃないですよね?」
意味がよく分からなかった。
「貴方が私にしてくれる事は、凄く特別な事です。」
残念ながら何を指しているのか見当もつかなかった。
「私が我侭を言っても、貴方は笑ってそうしてくれるじゃないですか。」
頼まれても、特に理由がなければ断らない。頼られて嫌な気分にはならないからな。そもそも理緒はそれ程多くの我侭を言うタイプではない。
「夜中に寂しくなった時だって、ずっと電話してくれましたし。」
丁度翌日が休みだった夜の事か。それなら会いに行くと言ったのに、理緒は電話だけで良いと言ってくれた。
「泊まった次の日は、朝ご飯まで用意して下さって。」
理緒は朝弱いからな。その後に掃除と洗濯をしてくるのだから貸し借りは無い。
「今だって、真面目に私の話を聞いて下さっています。」
恋人なのだから当たり前だろう。だが、少しずつ何が言いたいのか分かってきた。
「なので、何でも良いので私に言って下さい。」
成程。不満がないのが不満なのか。何とも、贅沢な悩みだ。それならばと考えて、真っ先に思い浮かぶ事があった。俺は迷う事もせずに理緒の目を見る。
「なら、明日眼鏡を買いに行こう。」
理緒は露骨に嫌そうな顔をした。どうもその昔眼鏡が似合わないとからかわれたらしい。コンタクトレンズは目に物を入れるのが怖いそうだ。
「何でも聞いてくれるんだろ?」
「絶対に笑わないと約束して下さるなら。」
搾り出すような声に、思わず笑ってしまった。理緒は怒っているようだった。
「だから、似合う眼鏡を探しに行くんだよ。無かったら掛けなくて良い。」
「また、」
理緒は口をへの字に曲げ、俯いて言う。
「何だか私の為みたいです。」
「それで良いんだって。俺はお前が幸せならそれで良いんだ。」
テーブル越しに手を伸ばす。理緒は躊躇わずに、俺の掌に頬を寄せてくれた。
「貴方にも幸せになって欲しいんです。」
「馬鹿だな、俺は理緒と付き合い始めてからずっと幸せだよ。理緒のお陰でな。」
理緒は柔らかく目を閉じ、小さく何かを言った。聞き取れなかったけれど、それで良いんだと思えた。今度は少し酒も飲ませてみようかとか、そんな漠然とした未来を想像しながら、俺はまた自然に笑う事ができた。
ノイジー・ガール
──ひどく有り触れた着地点。
冬の長い日差しが差し込んでくる。その中で煙草を咥えたまま寝転がっていると穏やかな気分になれる。数少ない休日だ。やっぱりこんな風に使わないといけない。午前中はこうやってだらけて、午後になったら掃除でもしようか。買出しも済ませれば良い時間になりそうだが、偶には外で夕飯を済ますのも悪くない。そんな事を考えていると玄関の呼び鈴が鳴った。一気に気分が暗くなる。
「来たか。」
煙草を灰皿に預け、耳を塞ぐ。再び呼び鈴が鳴る。俺は無視をする。再び鳴る。無視をする。段々間隔が狭くなり、やがて唐突に鳴り止んだ。
「行ったか?」
続いて聞こえて来たのは携帯電話の着信音だった。往生際の悪い奴だ。無視を決め込んでしまっても良いのだろうが、それでは余りに可哀想に思えたので出てやる事にした。
「なんだ?」
「お出かけしてるんですか?」
「いや? 今起きたトコ。」
どうせ気付いているのだろうが、そいつは二つ三つ小言を並べただけだった。つまり俺とそいつはそう云う関係だ。傍から見れば恋人同士に見えるらしいが、当人同士は大して互いを意識していない。こいつは腐れ縁をこじらせ世話を焼いているだけで、俺は疎ましく思うだけで感謝さえしていない。確かに見た目は可愛いが、今更何かを感じる事は無い。妹のようなものだ。部屋に上げてやるとそいつは当然のように冷蔵庫を開き、中を確認した。
「また卵を切らしてるんですか。」
長い髪がゆらゆらと揺れている。
「あ? もうねぇのか?」
「ええ。」
確認してみると本当に無かった。それどころか色々と足りていない。
「朝ご飯はもう食べましたか?」
「未だだ。」
「では、あるもので作りますので、終わったら買い物に行きましょう。」
ついでに昼飯を食べて、午後も時間を潰して帰ってくる事になりそうだ。そういえば先週の休みもそうやって潰れたんだったな。我ながら全く進歩していない。
「何か予定でもありましたか?」
しれっと訊いてくる。気になるなら来る前にメールの一通でも欲しいもんだが、無理だな、こいつじゃ。
「別に。何もねぇよ。」
「相変わらず暇な人ですねぇ。」
右手で口元を隠して小さく笑う。友人に言わせればたまらない仕草らしいのだが、見慣れた俺にはその意味が理解できない。
「お前こそ他にやる事ねぇのかよ。」
「特にありませんよ。」
誰に頼まれた訳でもないのに、こいつは他の奴の誘いを断ってここに来ているらしい。言い寄る男は多いそうだから、恐らく防波堤に使っているのだろう。それにしても暇な奴だとは思う。
「友達、居ない訳じゃないだろ?」
「ええ。でもそっちは平日の夜や土曜で事足りますから。」
言葉の端に一抹の不安を覚えながら煙草を咥える。でも、まぁ、実際はそんなところか。日曜くらい自分の為に使うだろう。否、それなら家に居ろよ。
「また難しい顔して、どうせ良い考えは浮かびませんよ?」
頭を掻く。それは確か中学の頃から言われ続けている事だと思う。
「さぁ、冷めちゃう前に食べて下さい。」
テーブルの上にはいつの間にか朝食が並んでいた。焼いたトースト、一枚残っていたハムとキャベツとトマトのサラダ、買い置きのコーンスープ。本当は玉子スープでも作りたかったのだろう。
「ああ、お前は?」
「今何時だと思ってるんですか。とっくに済ませましたよ。」
時計の針は九時を回った辺りだった。日曜だというのにせっかちな奴だ。
「毎回思うんだが。」
「はい?」
「見られながらだと食いづらい。」
向かいに座ったそいつは頬杖を着き、何か複雑そうな表情をした。
「それだともっと早く来ちゃいますけど。」
「別に良いよ。」
「でも、寝てるじゃないですか。」
毎回起きてはいる、とは言えなかった。
「それかもっと遅く来るか飯を作らないか、どれか選べ。」
多少の面倒を避ける為により多くの面倒を引き寄せた気がした。いつもの事か。俺は余り人間が向いているタイプではない。
「では、七時くらいに、と言うかそれならいっそ土曜の夜から居た方が楽なんですが。」
自ら掘ってしまった墓穴に嵌まり込み、見上げる空は大層気分が悪いものだった。
「何でそうなるんだよ。」
「二人分の食材がある保障がありませんし、何よりそれなら洗濯とかも済ませたいです。」
前日に買い出しをしてからここへ来て、朝から洗濯機を回し、食事が済んだらそのまま掃除、と言いたいのだろう。こいつの事だからついでに昼飯やら夕飯の仕込みまでしそうだ。
「お前、疲れないか?」
「はぁ、特には。貴方こそ休みだからとだらけてしまって、週明け大変じゃないですか?」
どうやら俺とこいつの間には生涯埋まる事の無い深い深い溝があるらしい。埋める気がないのも事実だが。
「折り目正しい生活は息苦しいんだよ。」
「貴方らしいです。」
とりあえず用意された朝食を腹に押し込み、タイミング良く出された珈琲を啜った。あいつはさっさと食器を下げて洗っていた。恐らく珈琲を飲み終える頃には済んでしまっている。そしてだらだらと歯を磨く俺にちゃんと髪の毛を直せと言うのだろう。
「なぁ。」
「何ですか?」
食器を重ねる音が聞こえた。
「お前、疲れないか?」
「何度同じ事を聞くんですか。そう思うなら少しぐらい労わって下さいよ。」
そう言われても何をすれば良いのか皆目見当もつかない。俺が頼んでやって貰っている事ではないのだ。
「何をして欲しいんだよ。」
エプロンで手を拭きながらそいつは少し驚いたような顔をしていた。
「やってくれるんですか?」
「だから、何をだよ。」
エプロンを外し、そいつは俺の目の前に立った。
「キスして下さい。それで良いです。」
俺は危うく珈琲を噴き出しそうになりながら、なんとか持ち直してしかめっ面を作った。
「お前、」
「労わってくれるんじゃないんですか? それに、それ程高いものではないでしょう?」
ならば要らないだろう。とは言えなかった。そいつは頬を薄紅に染め、外したエプロンを握り締めていた。それで何も感じないほど冷たい血は流れていない。
「分かった、分かったよ。」
本当は、全部知っていたのだろうな。見たくなかったのか。変わりたくなかったのか。両方か。何もかも俺には似合わないと知っている。でも、だから、なんでこいつは。
「好きだからやってるんです。何回も言ったじゃないですか。だから、ちょっとで良いので応えてくれると嬉しいです。」
それは多少曖昧な表現だろう。俺はしかめっ面を近づけ、そいつは目を閉じた。触れていたのは、恐らく一瞬だったと思う。その熱が唇に残っているうちに、何か新しい言葉が見つかれば良いのにと思った。
鳴り止まぬ声
──麦藁帽子と淡い記憶。
降り注ぐ陽射しで全てがオレンジ色を帯びたように思えた。否、少し違っているか。それはオレンジ色ではなく黄色に近い。それも現在にある色ではない。私の記憶の奥底に眠っていて、夏の陽射しを浴びて目を覚ます。一度記憶の箱から溢れだしたその色は即座に私の視界の全てに溶け込んでしまう。しかし私の胸はその色が鮮明になる程に沈んでゆく。もう二度と取り戻す事の出来ない夏が、触れる事の出来ない少女が、見る事の出来ない太陽を追う花が、私の現在を引き裂いてゆく。
その日私は縁側に座って煙草を吹かしていた。じりじりと競り上がってくるような熱と湿気が酷く不快で、蝉の声も鬱陶しかった。唯風鈴の音だけがやけに心地よく響いていたのを覚えている。その少女は、相も変わらず唐突に私の前に現れた。麦藁帽子の下には黒い髪と日焼けしたあどけない顔。真っ白なワンピースが妙に眩しかった。
「今日は。」
声に抑揚がない。花の様な笑顔との差に面食らう人も多いらしい。私はもう慣れていた。その少女の事は幼い頃からの馴染みだ。流石に背中の黒子の数は知らないが、表面的な事ならばある程度分かっている。
「今日はお願いがあって来ました。」
それは大したお願いではなかった。近くに向日葵を植えている畑があって、一本貰いに行くのを手伝って欲しいとの事だった。常々忙しくしている訳ではない私は承諾し、ナイフと小型の折り畳める鋸を持って太陽の下へと這い出た。少女は変わらぬ笑みを湛えたまま、私の手を引いて歩く。
いつからだろう。
私が十歳の時、少女は産声を上げた。家が隣同士だった所為か、親同士の仲が良かった所為か、私達は同じ場所に置かれる事が多かった。食事を共にする事もあったし、留守中の世話を頼まれる事もあった。その頃、繋いだ手は暖かく、私を兄と呼ぶ声は無邪気だった。
いつからだろう。
香り立つほど美しく成長した少女は、やがて私に恋と思しき感情を預けるようになった。私は唯困惑した。感情の種類は知っている。それが一体何に根差し、何が故にその葉を伸ばすのか、ある程度は分かっている心算だ。
いつからだろう。
少女は私を兄と呼ばなくなった。その想いに応えてやる事はできないと、何度告げても分かってはくれなかった。美しく花開いた少女と、蕾を膨らませる事さえできずに枯れてしまった私では、余りにも不釣り合いだ。
それなのに、嗚呼、いつから私は、繋いだ手にこれ程強く熱を覚えるようになったのだろう。
「この先です。」
短い坂の先を見ながら少女は言った。その手が少し震えている事に気付いていた私は、否、初めから全てを知っていた私は、少女を引き留めた。
「今日が最後なのだろう?」
「知っていましたか。」
明日、少女はこの小さな町を出て行く。親御さんの仕事の都合だそうだ。会いに行けない距離ではない。いっその事、私も居を移すという手段も、難しい事ではない。実際、親御さんはそう言ってくれた。最早天涯孤独となった私の心を案じてくれたのだろう。それでも私は、だから私は、枯れた身が朽ちるならばこの場所が丁度良いのだと、そう思えてしまった。
「結局最後まで、枯れてしまったらしい貴方の新しい芽を見つける事はできませんでした。」
私は土を見ていた。
「でも、思うんです。貴方と十七年一緒に居た私にできないなら、きっとそれができる人は誰も居ないんじゃないかって。」
「私は、」
「それに、実はもう芽は出ていて、育つまでに時間がかかっているだけかも知れませんし。」
どうやら見抜かれていたようだ。
「なので、賭けをしましょう。私は大学に行って、卒業したらここへ帰って来ます。それまでに、私の今の気持ちが変わっていなければ、貴方の今の気持ちが変わって、私を受け入れてくれるなら、その時は。」
そうやって零れ落ちたその涙を拭う事ができなかった。少女は手の甲で涙を拭い、再び私の手を引いた。坂を登り切ると直ぐに咲き誇る向日葵が見えた。私の手を離し、向日葵に駆け寄って行く少女と、風景に、陽射しに、花に散りばめられた色は、その時から私の胸に焼き付いて離れなくなった。
そして迎えた少女の居ない五度目の春は、何事もなく過ぎ去って行った。幸せにやっているのだろう。それならば、それで良い。時が流れれば人は変わる。その変化によって幸せになれるのならば、それは受け入れるべき変化だ。どんな感情も、どんな想いも、どんな人も、不変である事はできない。少しずつ変わってゆき、やがて老い、最後は土に還るのだ。それが、本当だ。
私は小さくため息を吐き、縁側に立った。巡る季節は私を少し豊かにし、私の心を貧しく変えた。有りがちな変化だろう。不幸ではない。全てはそうあるべきだ。
そんな風に愚かな事ばかり考えているからだろうか。その麦藁帽子が私の頭を叩くまで、私はあの日と同じ真っ白なワンピースに気が付かなかった。
君にふれるだけで
──退屈で幸せな夜。
「お話があります。」
突然そう言われた俺は傾けかけていたグラスをどうしようかと迷ってしまった。水割りのウイスキーはもう一口で飲める程しか残っていない。高々その程度のアルコールを呑むのを惜しんで機嫌を損ねる事も無いかと思いグラスから手を離した。目の前で真剣な顔をしている奴をそれくらいは思っている。
「ああ、飲んでしまってからでも構いませんよ」
高槻理緒という名前のそいつは長い髪に指を当てながらそう言った。目が悪い癖に眼鏡を掛けていない所為でいつも目を凝らしていて、それが不機嫌そうに見える。
「否、良いよ。改まってどうした?」
俺はその目を見る。
「そうですか。有難うございます。」
理緒は一つ大きく息を吸って、言う。
「実は、お返しがしたいのです。」
とりあえず考えてみる。確かに昨日はメールの返事を送る前に眠ってしまったが、それはちゃんと起きてから謝ったし、他に何かお返しをされるような事はしていない筈だ。
「俺、何かしたか?」
「いいえ、そうではありません。貴方は常々良くしてくれています。今朝だって折角の週末だというのに朝から丁寧な謝罪のメールを下さいましたし。」
「否、当たり前だろう。すまんな、少し疲れてて。」
理緒は何かしらの葛藤を抱えているような表情の変え方をした。
「それです、むしろ貴方は常々お仕事を頑張っていらしてお疲れなのですから私が気を使うべきでした。御免なさい。」
突然謝られてしまった。
「お前のメールは面白いから、別にそれが苦痛になった事はないが。」
「そうでしたか、嬉しいです。あ、違います、また私ばかり喜んでしまって。」
頭を抱えて首を振る。見事な黒髪が蛍光灯の光を受けて煌いていた。素直に綺麗だな、と思った。
「と、兎に角ですね、ずっと私ばかりが良い思いをしていると思うのですよ!」
意味が全く分からなかった。理緒と俺は数年前に知り合い、数ヶ月前から恋人同士として付き合っている。不満は無い。理緒と話していると日頃の疲れを忘れられるし、時折飯を作ったり、掃除をしに来てくれている。今夜だって酒の相手をしてくれている。好いた相手が良妻だったという訳だ。これで不満を言っていたらばちが当たる。
「そんな事ないだろう。」
理緒にとっての俺は、如何だろう。出来るだけ気を使うようにしているが、俺が感じるように理緒も楽しんでくれているのかは分からない。昨日もメール返さなかったしな。
「ありますよ、貴方は私に何でもして下さるのに、私は、」
どうやら認識に差があるようだった。
「今日だって晩飯作って肴も用意してくれただろ。呑まないのに話し相手もしてくれてるし、今日泊まっていったら、明日は洗濯と掃除もしてくれるんだろ?」
「それは、勿論そうですけど。」
「なら、それで十分だ。」
グラスの中身を飲み干した。理緒は甲斐甲斐しく新しいウイスキーの水割りを作り、グラスの周りの水滴を拭き取って俺の手元に置いてくれた。飲むまでもなく俺の好みの濃さになっているのだろうと分かる。
「こういうのも、中々してくれないものだと思うがな。」
理緒が少し身を引いた。納得はしていないようだ。
「でも、特別じゃないですよね?」
意味がよく分からなかった。
「貴方が私にしてくれる事は、凄く特別な事です。」
残念ながら何を指しているのか見当もつかなかった。
「私が我侭を言っても、貴方は笑ってそうしてくれるじゃないですか。」
頼まれても、特に理由がなければ断らない。頼られて嫌な気分にはならないからな。そもそも理緒はそれ程多くの我侭を言うタイプではない。
「夜中に寂しくなった時だって、ずっと電話してくれましたし。」
丁度翌日が休みだった夜の事か。それなら会いに行くと言ったのに、理緒は電話だけで良いと言ってくれた。
「泊まった次の日は、朝ご飯まで用意して下さって。」
理緒は朝弱いからな。その後に掃除と洗濯をしてくるのだから貸し借りは無い。
「今だって、真面目に私の話を聞いて下さっています。」
恋人なのだから当たり前だろう。だが、少しずつ何が言いたいのか分かってきた。
「なので、何でも良いので私に言って下さい。」
成程。不満がないのが不満なのか。何とも、贅沢な悩みだ。それならばと考えて、真っ先に思い浮かぶ事があった。俺は迷う事もせずに理緒の目を見る。
「なら、明日眼鏡を買いに行こう。」
理緒は露骨に嫌そうな顔をした。どうもその昔眼鏡が似合わないとからかわれたらしい。コンタクトレンズは目に物を入れるのが怖いそうだ。
「何でも聞いてくれるんだろ?」
「絶対に笑わないと約束して下さるなら。」
搾り出すような声に、思わず笑ってしまった。理緒は怒っているようだった。
「だから、似合う眼鏡を探しに行くんだよ。無かったら掛けなくて良い。」
「また、」
理緒は口をへの字に曲げ、俯いて言う。
「何だか私の為みたいです。」
「それで良いんだって。俺はお前が幸せならそれで良いんだ。」
テーブル越しに手を伸ばす。理緒は躊躇わずに、俺の掌に頬を寄せてくれた。
「貴方にも幸せになって欲しいんです。」
「馬鹿だな、俺は理緒と付き合い始めてからずっと幸せだよ。理緒のお陰でな。」
理緒は柔らかく目を閉じ、小さく何かを言った。聞き取れなかったけれど、それで良いんだと思えた。今度は少し酒も飲ませてみようかとか、そんな漠然とした未来を想像しながら、俺はまた自然に笑う事ができた。
ノイジー・ガール
──ひどく有り触れた着地点。
冬の長い日差しが差し込んでくる。その中で煙草を咥えたまま寝転がっていると穏やかな気分になれる。数少ない休日だ。やっぱりこんな風に使わないといけない。午前中はこうやってだらけて、午後になったら掃除でもしようか。買出しも済ませれば良い時間になりそうだが、偶には外で夕飯を済ますのも悪くない。そんな事を考えていると玄関の呼び鈴が鳴った。一気に気分が暗くなる。
「来たか。」
煙草を灰皿に預け、耳を塞ぐ。再び呼び鈴が鳴る。俺は無視をする。再び鳴る。無視をする。段々間隔が狭くなり、やがて唐突に鳴り止んだ。
「行ったか?」
続いて聞こえて来たのは携帯電話の着信音だった。往生際の悪い奴だ。無視を決め込んでしまっても良いのだろうが、それでは余りに可哀想に思えたので出てやる事にした。
「なんだ?」
「お出かけしてるんですか?」
「いや? 今起きたトコ。」
どうせ気付いているのだろうが、そいつは二つ三つ小言を並べただけだった。つまり俺とそいつはそう云う関係だ。傍から見れば恋人同士に見えるらしいが、当人同士は大して互いを意識していない。こいつは腐れ縁をこじらせ世話を焼いているだけで、俺は疎ましく思うだけで感謝さえしていない。確かに見た目は可愛いが、今更何かを感じる事は無い。妹のようなものだ。部屋に上げてやるとそいつは当然のように冷蔵庫を開き、中を確認した。
「また卵を切らしてるんですか。」
長い髪がゆらゆらと揺れている。
「あ? もうねぇのか?」
「ええ。」
確認してみると本当に無かった。それどころか色々と足りていない。
「朝ご飯はもう食べましたか?」
「未だだ。」
「では、あるもので作りますので、終わったら買い物に行きましょう。」
ついでに昼飯を食べて、午後も時間を潰して帰ってくる事になりそうだ。そういえば先週の休みもそうやって潰れたんだったな。我ながら全く進歩していない。
「何か予定でもありましたか?」
しれっと訊いてくる。気になるなら来る前にメールの一通でも欲しいもんだが、無理だな、こいつじゃ。
「別に。何もねぇよ。」
「相変わらず暇な人ですねぇ。」
右手で口元を隠して小さく笑う。友人に言わせればたまらない仕草らしいのだが、見慣れた俺にはその意味が理解できない。
「お前こそ他にやる事ねぇのかよ。」
「特にありませんよ。」
誰に頼まれた訳でもないのに、こいつは他の奴の誘いを断ってここに来ているらしい。言い寄る男は多いそうだから、恐らく防波堤に使っているのだろう。それにしても暇な奴だとは思う。
「友達、居ない訳じゃないだろ?」
「ええ。でもそっちは平日の夜や土曜で事足りますから。」
言葉の端に一抹の不安を覚えながら煙草を咥える。でも、まぁ、実際はそんなところか。日曜くらい自分の為に使うだろう。否、それなら家に居ろよ。
「また難しい顔して、どうせ良い考えは浮かびませんよ?」
頭を掻く。それは確か中学の頃から言われ続けている事だと思う。
「さぁ、冷めちゃう前に食べて下さい。」
テーブルの上にはいつの間にか朝食が並んでいた。焼いたトースト、一枚残っていたハムとキャベツとトマトのサラダ、買い置きのコーンスープ。本当は玉子スープでも作りたかったのだろう。
「ああ、お前は?」
「今何時だと思ってるんですか。とっくに済ませましたよ。」
時計の針は九時を回った辺りだった。日曜だというのにせっかちな奴だ。
「毎回思うんだが。」
「はい?」
「見られながらだと食いづらい。」
向かいに座ったそいつは頬杖を着き、何か複雑そうな表情をした。
「それだともっと早く来ちゃいますけど。」
「別に良いよ。」
「でも、寝てるじゃないですか。」
毎回起きてはいる、とは言えなかった。
「それかもっと遅く来るか飯を作らないか、どれか選べ。」
多少の面倒を避ける為により多くの面倒を引き寄せた気がした。いつもの事か。俺は余り人間が向いているタイプではない。
「では、七時くらいに、と言うかそれならいっそ土曜の夜から居た方が楽なんですが。」
自ら掘ってしまった墓穴に嵌まり込み、見上げる空は大層気分が悪いものだった。
「何でそうなるんだよ。」
「二人分の食材がある保障がありませんし、何よりそれなら洗濯とかも済ませたいです。」
前日に買い出しをしてからここへ来て、朝から洗濯機を回し、食事が済んだらそのまま掃除、と言いたいのだろう。こいつの事だからついでに昼飯やら夕飯の仕込みまでしそうだ。
「お前、疲れないか?」
「はぁ、特には。貴方こそ休みだからとだらけてしまって、週明け大変じゃないですか?」
どうやら俺とこいつの間には生涯埋まる事の無い深い深い溝があるらしい。埋める気がないのも事実だが。
「折り目正しい生活は息苦しいんだよ。」
「貴方らしいです。」
とりあえず用意された朝食を腹に押し込み、タイミング良く出された珈琲を啜った。あいつはさっさと食器を下げて洗っていた。恐らく珈琲を飲み終える頃には済んでしまっている。そしてだらだらと歯を磨く俺にちゃんと髪の毛を直せと言うのだろう。
「なぁ。」
「何ですか?」
食器を重ねる音が聞こえた。
「お前、疲れないか?」
「何度同じ事を聞くんですか。そう思うなら少しぐらい労わって下さいよ。」
そう言われても何をすれば良いのか皆目見当もつかない。俺が頼んでやって貰っている事ではないのだ。
「何をして欲しいんだよ。」
エプロンで手を拭きながらそいつは少し驚いたような顔をしていた。
「やってくれるんですか?」
「だから、何をだよ。」
エプロンを外し、そいつは俺の目の前に立った。
「キスして下さい。それで良いです。」
俺は危うく珈琲を噴き出しそうになりながら、なんとか持ち直してしかめっ面を作った。
「お前、」
「労わってくれるんじゃないんですか? それに、それ程高いものではないでしょう?」
ならば要らないだろう。とは言えなかった。そいつは頬を薄紅に染め、外したエプロンを握り締めていた。それで何も感じないほど冷たい血は流れていない。
「分かった、分かったよ。」
本当は、全部知っていたのだろうな。見たくなかったのか。変わりたくなかったのか。両方か。何もかも俺には似合わないと知っている。でも、だから、なんでこいつは。
「好きだからやってるんです。何回も言ったじゃないですか。だから、ちょっとで良いので応えてくれると嬉しいです。」
それは多少曖昧な表現だろう。俺はしかめっ面を近づけ、そいつは目を閉じた。触れていたのは、恐らく一瞬だったと思う。その熱が唇に残っているうちに、何か新しい言葉が見つかれば良いのにと思った。
鳴り止まぬ声
──麦藁帽子と淡い記憶。
降り注ぐ陽射しで全てがオレンジ色を帯びたように思えた。否、少し違っているか。それはオレンジ色ではなく黄色に近い。それも現在にある色ではない。私の記憶の奥底に眠っていて、夏の陽射しを浴びて目を覚ます。一度記憶の箱から溢れだしたその色は即座に私の視界の全てに溶け込んでしまう。しかし私の胸はその色が鮮明になる程に沈んでゆく。もう二度と取り戻す事の出来ない夏が、触れる事の出来ない少女が、見る事の出来ない太陽を追う花が、私の現在を引き裂いてゆく。
その日私は縁側に座って煙草を吹かしていた。じりじりと競り上がってくるような熱と湿気が酷く不快で、蝉の声も鬱陶しかった。唯風鈴の音だけがやけに心地よく響いていたのを覚えている。その少女は、相も変わらず唐突に私の前に現れた。麦藁帽子の下には黒い髪と日焼けしたあどけない顔。真っ白なワンピースが妙に眩しかった。
「今日は。」
声に抑揚がない。花の様な笑顔との差に面食らう人も多いらしい。私はもう慣れていた。その少女の事は幼い頃からの馴染みだ。流石に背中の黒子の数は知らないが、表面的な事ならばある程度分かっている。
「今日はお願いがあって来ました。」
それは大したお願いではなかった。近くに向日葵を植えている畑があって、一本貰いに行くのを手伝って欲しいとの事だった。常々忙しくしている訳ではない私は承諾し、ナイフと小型の折り畳める鋸を持って太陽の下へと這い出た。少女は変わらぬ笑みを湛えたまま、私の手を引いて歩く。
いつからだろう。
私が十歳の時、少女は産声を上げた。家が隣同士だった所為か、親同士の仲が良かった所為か、私達は同じ場所に置かれる事が多かった。食事を共にする事もあったし、留守中の世話を頼まれる事もあった。その頃、繋いだ手は暖かく、私を兄と呼ぶ声は無邪気だった。
いつからだろう。
香り立つほど美しく成長した少女は、やがて私に恋と思しき感情を預けるようになった。私は唯困惑した。感情の種類は知っている。それが一体何に根差し、何が故にその葉を伸ばすのか、ある程度は分かっている心算だ。
いつからだろう。
少女は私を兄と呼ばなくなった。その想いに応えてやる事はできないと、何度告げても分かってはくれなかった。美しく花開いた少女と、蕾を膨らませる事さえできずに枯れてしまった私では、余りにも不釣り合いだ。
それなのに、嗚呼、いつから私は、繋いだ手にこれ程強く熱を覚えるようになったのだろう。
「この先です。」
短い坂の先を見ながら少女は言った。その手が少し震えている事に気付いていた私は、否、初めから全てを知っていた私は、少女を引き留めた。
「今日が最後なのだろう?」
「知っていましたか。」
明日、少女はこの小さな町を出て行く。親御さんの仕事の都合だそうだ。会いに行けない距離ではない。いっその事、私も居を移すという手段も、難しい事ではない。実際、親御さんはそう言ってくれた。最早天涯孤独となった私の心を案じてくれたのだろう。それでも私は、だから私は、枯れた身が朽ちるならばこの場所が丁度良いのだと、そう思えてしまった。
「結局最後まで、枯れてしまったらしい貴方の新しい芽を見つける事はできませんでした。」
私は土を見ていた。
「でも、思うんです。貴方と十七年一緒に居た私にできないなら、きっとそれができる人は誰も居ないんじゃないかって。」
「私は、」
「それに、実はもう芽は出ていて、育つまでに時間がかかっているだけかも知れませんし。」
どうやら見抜かれていたようだ。
「なので、賭けをしましょう。私は大学に行って、卒業したらここへ帰って来ます。それまでに、私の今の気持ちが変わっていなければ、貴方の今の気持ちが変わって、私を受け入れてくれるなら、その時は。」
そうやって零れ落ちたその涙を拭う事ができなかった。少女は手の甲で涙を拭い、再び私の手を引いた。坂を登り切ると直ぐに咲き誇る向日葵が見えた。私の手を離し、向日葵に駆け寄って行く少女と、風景に、陽射しに、花に散りばめられた色は、その時から私の胸に焼き付いて離れなくなった。
そして迎えた少女の居ない五度目の春は、何事もなく過ぎ去って行った。幸せにやっているのだろう。それならば、それで良い。時が流れれば人は変わる。その変化によって幸せになれるのならば、それは受け入れるべき変化だ。どんな感情も、どんな想いも、どんな人も、不変である事はできない。少しずつ変わってゆき、やがて老い、最後は土に還るのだ。それが、本当だ。
私は小さくため息を吐き、縁側に立った。巡る季節は私を少し豊かにし、私の心を貧しく変えた。有りがちな変化だろう。不幸ではない。全てはそうあるべきだ。
そんな風に愚かな事ばかり考えているからだろうか。その麦藁帽子が私の頭を叩くまで、私はあの日と同じ真っ白なワンピースに気が付かなかった。
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