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#13 悪魔
しおりを挟む──午後。
其れは死へと加速した。私の声など、言葉など、まるで聞こえて居ないと言って居るかのように。仕方が無いと誰かが言った。微かに笑って居た。他人事なのだろう。自分は正しく人間の一生を全うする。そう思って居たのだろう。
其れが君を壊してしまった。
君は一生は伸び縮みのするモノだと言って居た。他の誰も理解しなかった。君は自らの一生を縮めて他人の一生を伸ばした。与え合えば、或いは君の一生だって人並みになったのかも知れない。
「結局、奪われるだけ奪われただけじゃないか。其れで君は満足なのか?」
夏の日差しの中、其れでも冷たい石に問い掛ける。当然応えなんて無い。想像するだけだ。君ならば何と言うだろう。何も言わないか。そんな人だったな。
「君に言っても無駄か。まぁ、そうだろうね。」
陽に曝された石に水をかけてやる。甘い菓子を置いて、線香に火を灯す。手を合わせて数秒。菓子は持ち帰らずその場で食べるか、供えない規則だった。持ち帰るのは無粋らしい。供えたままでは烏が寄るらしい。
溜め息を吐いた。
「なら、お前が食べ易いように、ゴミを払って置けば良いと思うがね?」
一羽。烏が降りて居た。周りには誰も居ない。小さく千切って放ってやる。咥えて飛んで行った。欲の無い奴だ。食欲が無いのか。どちらでも良い。仕方なく食べようとしたら猫が鳴いた。良いよ。食べな。
きっと、君ならそう言うし、抱き上げて。そう云えば面倒な手続きはあったがペット可だと言って居たか。
「彼と違って君一人だけだが、来るかい? 三食と寝床は保証するよ。」
猫は菓子を食べると去って行った。上手くはいかないものだ。君は何度繰り返したのだろう。私は、何度試せるだろう。
周囲には夏の陽射しと風があった。
君ならばどんな形容をするだろう。
今更如何でも良いか。
茶色に髪を染めるのは止めた。ショートカットも止めた。肩までは伸びたよ。少しは女の子らしい格好にして居る心算だけれど、如何かな。君は笑うかも知れない。口調は変えられない。君が無数に残して呉れた物語の中の、登場人物の中で一番好きなんだ。当然、其れは私をモデルにして呉れた所為だろうけれど。
「さて。猫には逃げられてしまった。何をしようか。」
空を見上げながら呟いてみる。君の小説の中みたいに。少し笑った。どうだ、莫迦みたいだろう。君が死んだ所為だ。
「また来るよ。」
呟いて、顔が引きつった。其れは、其の台詞は。
「確かに、墓にカーネーションを添える気持ちまでは分からないな。」
いっそ胸を引き裂けば楽になるだろうか。君は嫌がるだろうな。自分の首は吊り下げたクセに。嗚呼、でも、そうだね、何時かの私が胸を引き裂いて心臓を捧げれば、君が死なずに済むのなら。
「もし、は意味ないね。はぁ、帰るか。」
すっかり独り言が癖になってしまった。鳴き声が聞こえた。振り返るとその子が居た。
「何だよ、私と暮らすのは厭なんだろう?」
しゃがんで見るとゆっくり歩み寄って来た。暫く様子を見て居るとすり寄って来た。
「うん。良いよ。行こうか。汚い部屋ではないから大丈夫だよ。」
私は君程他人に何かを与えられないし、きっと君よりも優しくない。君が天使なら、私は少しテイの良い悪魔にしかなれない。
「胸も薄いしなぁ。」
呟いてみると猫は退屈そうに鳴いた。何だか、君に似ている。呆れて溜め息を吐いているようだ。
見上げれば少しだけ暮れかけた紫が混ざったような青い空。吹くのは湿気を帯びた夏の熱を帯びた風。
ふむ。良いだろう。
どこまで行けるか分からないが、少しぐらいは私が持って行けそうだ。足元で猫が鳴いた。体が小さい。よく見れば小さな傷が沢山ある。
「ああ、済まないね、おいで、明日にでも医者に診てもらおう。」
抱き上げる。温かい。一度さえ抱けなかった君も同じなのだろうか。赤に変わり始めた陽の中でそう思った。
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