架空の夢

笹森賢二

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#12 夕暮れ狂詩曲

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    ──走る。


 徐々に空の色が変わって行く。温度は僅かに下がったようだ。風は無い。少女が二人、走って行く。帰路だろう。ベンチに座る俺の前を通り過ぎる時に会釈をしてくれた。タバコの煙越しに会釈を返す。今日は良い日だったと、そう思えた。
(了・“序“)


「おい、奈々、あんまり遠くに行くなよ。」
「……父ちゃんは心配し過ぎなんだよ。」
 思うよりワンテンポ遅れて言葉が飛んで来る。ポニーテールが揺れる。振り返った眠たそうな目が俺を見る。また前を向いた青山奈々は自販機に駆けて行く。血の繋がりは、無いと言わないがかなり薄い。それでも今は俺の娘だ。
「智也は心配性だものね。」
 腰まで届きそうな長い黒髪が揺れる。涼しげな目は、睨んでいるようにしか見えない。当人が言うにはそんな心算はないらしい。幼馴染、だろうか。白河由衣と言う名のその女性は、傍から見れば俺の嫁で、奈々の母親に見えるらしい。
「……母ちゃん、何か飲も?」
 奈々もそう思っている。
「はいはい、何にしましょうか?」
 由衣はゆっくりと歩く。日々暮らすだけで四苦八苦している俺と違って余裕があるのだろう。振り返って手を伸ばしてくれる。
「ほら、智也も。」
「……ん、父ちゃんは炭酸?」
 ため息で応じる。二人を照らす赤い陽射しが妙に眩しく見えた。
(了・“家族”)


「兄様。」
「何だね妹様。」
「そう来ましたか、意外でした。」
「さよかい。で? なんだそれは。」
「最終決戦平気の裸エプロンですが、何か?」
「偶に君はとんでもない莫迦じゃないのかと思うよ。」
「はぁ、まぁ、兄様にしかしませんけど。」
「さよで。まぁ、扇情的ではあるよ、スープはコンソメが良いが。」
「ですか。ふふっ、紫は満足です。」
「ったく。」
(了・“馬鹿兄妹“)


 背が高く、身体能力も高い。長い髪を後頭部で結んでいる。目つきは悪いが性格は優しい部類だろう。名前は菊地原楓。今日も長いスカートを揺らせて歩いている。
「どうかしたのか?」
 言葉は、なぜか男じみたようなものを使う。
「いや? 他の連中は?」
 いつもは他に三人程居る友人達と帰る。
「用事だそうだ。」
「珍しいな。まぁ、良いか。」
 最近気を使われるようになった。理由は透けて見えるが、誰にも言えない。そう言う気の使われ方だった。
「さぁ、帰ろうか。」
 風の無い夕陽の中、肩を並べて歩く。夕陽に照らされた長い髪がやけに綺麗に見えた。
(了・“報われない物語”)


 部屋の壁に夕陽が当たって居る。もうそんな時間か。原稿用紙の上にペンを置いた。夕飯の支度はして居ないが、そろそろ届く頃だろう。庭を覗くと丁度良い頃合いだった。白いフリルだらけの半袖シャツに青いスカート。首には黒いチョーカー。ポニーテールを縛る赤い髪留めは私が買ったものだったか。両手で持って居る重そうなビニール袋の中には目当ての食べ物と酒が入って居るのだろう。合い鍵は渡してあるし、勝手に入って良いと伝えてある。
「もぉ、いい加減に買い物行ってよ、何も無いから急に言われてもコンビニ弁当しか用意できないじゃん。」
 怒っているらしいが、垂れ目がちな所為か怖くない。通った鼻筋の下に薄い紅を引いた唇が在る。身体の線は、全体が細く柔らかい。
「ボクの話聞いてる?」
「ああ、何時も済まないね。明日にでも食材を用意しておくよ。」
「ボクも連れてってよね、貴方に任せるとロクな事にならないから。」
 ぶつぶつと文句を言いながら弁当をレンジに放り込み、テーブルにカップ入りの野菜を並べ、ケトルに水と電源を入れる。
「報酬はクレープで良いかね?」
「約束だよ? 後、呑み過ぎはダメだからね。」
 小柄な身体が手際良く動く。即席の味噌汁も出来上がった。可愛らしいと思った。まぁ、彼は男だが。
(了・“親友”)


「隆一にしては気が利いてますね。」
 橘若葉は俺を見上げてそう言った。背が低い。髪も短く纏めている。目付きが少しだけ悪いように見えて、胸がでかい。
「どこを見てやがりましたか。」
 丁寧なのか粗暴なのか判らない言葉を使う。
「さてね。」
 いつまでもくっ付かない友人を二人きりにさせたくて若葉を誘った。もう一人は両親に預けた。
「で? 何を奢ってくれるんです?」
 そこまで考えて無かった。が。丁度公園にクレープ屋が来ていた。
「ブルーベリーかな。」
「ラズベリーが良いです。もぉ、いい加減好みぐらい覚えやがれです。」
 手を引かれた。妙に熱い。
「さ、早く行きますよ。」
 歩き出しながら頭を掻いた。夕陽が眩しい。お陰で互いに赤くなった顔は隠せているか。
(了・“二人”)


 もう夕暮れも終わる。薄暮を、紫に染まる空を過ぎて夜へ向かう。さぁ、俺も帰るとしようか。
(了・“結”)
 
 


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