アイロニー・セレナーデ

笹森賢二

文字の大きさ
10 / 11

#10 セピア

しおりを挟む
 
 
   ──黄金の風景。
 
 
 
 写真にすら残って居ない。けれど、記憶には残って居る。もう何度文字にしたのか覚えて居ない。あの夕暮れの黄金の色。広い々々アスファルトの平原に残された日。きっと、あの時に僕は死んだ。亡霊の日々は其処から始まった。


 思い出すのは余り好いて居ない。僕は殺した。母を、祖母を、他にも数え切れない人を。何もかも、セピア色に染まって消えて仕舞ったけれど。僕が死ぬ前に少しだけ喋ろうか。此の碌に見えなく成った眼が、本当に見え無く成って仕舞う前に。


 喋りが巧い男が居た。ふわり、寄り添う女性が居た。なら、其れで充分だろう。


 青い服の少女が居た。巧い言葉は伝えられ無かった。弱い雨が降って居た。湖は綺麗で、其れだけ、霧は、掛かって居なかったか。


 唄歌いが居た。何をしたのだったか、薄れた記憶には残って居ない。其れでも最後に触れた手の感触だけは覚えて居る。


 機械屋。漆原啓介の原型。未だに彼の機械に頼って居る。其れも長くないか。後は莫迦共に無理矢理買わされた小さな機械に任そう。


 赤い服の少女。僕がもっと気を使えば良かったのかな。まぁ、無理か。物語りの中に閉じ込めて置こう。


 終わる世界に妙な女が居た。染めた髪を刈り上げて、残った嬢頭部の髪だけを靡かせて居る。毎回変わる色を少しだけ愉しみにして居た。文字を書けと言った癖に何の形にも成らなかった。死ぬ理由は、最後と賭けた其れが外れたからか。いや、そもそもか。もう指はまともに動かない。終わりが、近い。


 文字打ちも止めて立ち上がる。窓の外を眺める。田畑、木々、漸く建設に着手した整地。少し笑った。世間はもう春を終えて、夏に成る。其処に僕は要らないだろう。
(了)
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...