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#10 セピア
しおりを挟む──黄金の風景。
写真にすら残って居ない。けれど、記憶には残って居る。もう何度文字にしたのか覚えて居ない。あの夕暮れの黄金の色。広い々々アスファルトの平原に残された日。きっと、あの時に僕は死んだ。亡霊の日々は其処から始まった。
思い出すのは余り好いて居ない。僕は殺した。母を、祖母を、他にも数え切れない人を。何もかも、セピア色に染まって消えて仕舞ったけれど。僕が死ぬ前に少しだけ喋ろうか。此の碌に見えなく成った眼が、本当に見え無く成って仕舞う前に。
喋りが巧い男が居た。ふわり、寄り添う女性が居た。なら、其れで充分だろう。
青い服の少女が居た。巧い言葉は伝えられ無かった。弱い雨が降って居た。湖は綺麗で、其れだけ、霧は、掛かって居なかったか。
唄歌いが居た。何をしたのだったか、薄れた記憶には残って居ない。其れでも最後に触れた手の感触だけは覚えて居る。
機械屋。漆原啓介の原型。未だに彼の機械に頼って居る。其れも長くないか。後は莫迦共に無理矢理買わされた小さな機械に任そう。
赤い服の少女。僕がもっと気を使えば良かったのかな。まぁ、無理か。物語りの中に閉じ込めて置こう。
終わる世界に妙な女が居た。染めた髪を刈り上げて、残った嬢頭部の髪だけを靡かせて居る。毎回変わる色を少しだけ愉しみにして居た。文字を書けと言った癖に何の形にも成らなかった。死ぬ理由は、最後と賭けた其れが外れたからか。いや、そもそもか。もう指はまともに動かない。終わりが、近い。
文字打ちも止めて立ち上がる。窓の外を眺める。田畑、木々、漸く建設に着手した整地。少し笑った。世間はもう春を終えて、夏に成る。其処に僕は要らないだろう。
(了)
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