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【猫の日記念】黒猫王子と『猫を愛でる日』【後日談】
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「猫の日?」
テオがきょとんとして首を傾げた。
「そんなものがあったか?」
「異世界での風習ですよ」
エリオットが言う。
「私やルシィ様が前世で暮らしていた国では、猫という動物はずいぶんと可愛がられていたのです」
「まあ、猫が可愛いというのはわかるが……」
黒猫姿で膝に乗っている僕を撫でて、テオが言った。
「猫の日というのはどういう日なんだ。ネズミ捕りの感謝でもするのか」
「いえ。どちらかというと、ただひたすら猫を愛でる日ですね」
もし、この世界にもインターネットやSNSがあれば、猫の画像を流して褒め称え合うのだろうが……。
「愛でる……」
テオが呟く。なんだか釈然としないような顔をしている。
「俺はいつもルシィを愛でていると思うが?」
「そうですねぇ」
エリオットが苦笑する。
「確かにテオ様とルシィ様はいつも通りで良いのかもしれません」
***
「猫の日、ですか?」
いわくつきの侍従、リックが首を傾げた。
「そんな祝日がありましたっけ? 初めて聞く気がしますけど」
「この世界の風習じゃないよ」
そう言ってから、僕は顔をしかめた。
「おい、このクッキー、毒入りだな?」
「おや。気付かれてしまいましたか」
「お前な……わざわざこのためにクッキーを焼いたのか」
「毎回お茶では芸がないでしょう?」
困ったものだ。いくら僕に毒が効かないといっても、うっかり他の誰かが口にしたらどうする。
「捨てておけ。それから、お菓子は材料がもったいないからやめろ」
「そうですねぇ……この国は砂糖もあまり安くないですし……」
元々は僕の兄であるタルマール王国第一王子サディアス兄様の子飼いの影。それがこの男なのだが、毒で遊ぶという悪癖はどうにかならないかと思っている。僕が相手ならいい。ちょっとまずいだけで害は出ない。でもいつか、うっかり誰かを巻き込むかもしれない。それが怖い。
「リック。いたずらが過ぎるようなら兄様の所に送り返すからな?」
「それは勘弁してくださいよぅ」
「じゃあ、エリオットのおもちゃとしてお前を差し出そうか」
「それだけは……!」
リックの顔が真っ青になった。あの元勇者、うちの侍従に一体何をしたんだろうな?
***
「まあ。猫の日……ですか?」
兎獣人の侍女カタリナは嬉しそうに手を叩いた。
「素晴らしいですね。そんな日があるとは存じませんでしたが」
「この世界の風習じゃないからね」
「なるほど。神の国の行事でしたか」
「いや、神の国でもないけど……」
「何にせよ、喜ばしい日です。ルシアン様の日ですもの、盛大にお祝いしましょう!」
「だから、僕の日じゃなくて猫の日で……」
「早速獣人の里に行って、宴の用意をしなければ!」
あ、駄目だこれ。話聞いてない。
「里長やリジー様、ラス様にもお声をかけてまいります。盛大なお祭りにいたしますね!」
獣人の里で『神獣祭』が行われることが決まった瞬間であった。
***
猫の日当日……ということになった日。正確なところはわからない。微妙に日本とは暦が違うからだ。けれど騒いで遊べれば、人々にはそれが何日でもいいのだろう。獣人の里に招かれた僕は、そこにいる人物を見て一瞬フリーズした。
サディアス兄様だ。
足が不自由で国を出ることなどできなかったはずのサディアス兄様が、リジーに飲み物を勧められて笑っている。
どうしてここに。そう考えて、気付いた。
兄様が杖を持っていない。立食パーティなのに、座らずに、談笑している。そして、その隣にはエリオットがいた。勇者であり、凄腕の薬師であり、転移魔法の使い手でもある、テオの忠実な従者が。
「……兄様」
サディアス兄様が振り向いた。
「やあ、ルシアン。久しぶりだね。いろいろと大変だったそうじゃないか」
「はい……」
確かに大変だった。男と政略結婚したかと思えばその相手が死にかけるし、ポンコツ女神からは勇者の使命を押し付けられそうになるし、夫を助けるために人間をやめる羽目になり、迷宮をひとつ壊し、獣人たちを庇護する立場になって、今では神の眷属――怒涛である。
でも。この人はそれをどこまで知っているのだろう。走ることもできない足で国にこもっていたはずで。その不自由さの代わりに飼っている『影』を僕の側に置いていたらしいけど。それだって迷宮の中まではついてきていなかった……と思うんだけど。
「リックは元気かい? 最近報告が滞っているから、どうしているのかと気にかかっているんだけどねぇ」
「リックなら、今は僕の侍従をしています」
「あいつが? そうか、仲良くなったならよかったよ」
「それより、兄様はどうしてここに」
「ああ、薬師殿が私の足を治してくれてね」
やっぱりエリオットか。まさかサディアス兄様の古傷まで治せるとは。
「おまけに転移魔法が使えるというし、今日が祭りだと聞いて連れてきてもらったんだ」
「それ、父上やラザラス兄様には……」
サディアス兄様が意味ありげに笑った。
「敵を油断させるには味方を騙すことも必要だろう?」
「兄様の足が治ったと知れば、父上は喜びますよ」
何せ優秀な第一王子だ。足のことがなければこの人が世継ぎだったはず。
「でもねぇ。それで今更次期国王を私にすると言い出したら面倒じゃないか。ラザラスは喜んで王太子を降りるだろうし……」
「面倒って」
「お前ならわかるだろう、ルシィ。牙も爪も隠しておいた方がいざという時には役に立つものさ」
祖国では能力をとことん隠し、結果『顔だけ王子』なんて呼ばれていた僕が、どうこういう資格はなさそうだった。
***
祭りは賑やかだった。獣人の里で行われたので人間の姿は少なかったけれど、何人か知り合いもいた。最近獣人たちに受け入れられてここで暮らすようになった人々だ。混血の子供もいる。獣耳のある子もない子も、等しく大事にされているのが喜ばしい。
「ここは良い場所になったな」
テオがしみじみと呟いた。
『そうだね。このまま人間と仲良く暮らしていけるといい』
テオは最近里で作られるようになった酒をちびちびと飲んで、養殖に成功した魚の塩焼きを食べていた。そしてその魚の身をほぐし、骨を取って、僕の前に置く。
僕は呆れて言った。
『ねぇ……僕も自由に食べたいんだけど』
テオが僕の頭を撫でる。
「諦めろ、今日は猫の日なのだろう?」
猫の姿で寝そべって、撫でられて、時々ブラッシングされて。それ自体には文句がない。ただ、目の前に御馳走があるのに、食べにくいことを除けば。
祝宴の席を見回すと、同じような『被害』に遭っているのは僕だけじゃなかった。猫獣人の何人かが獣化させられ、撫でまわされ、供物のように料理を置かれて、困ったような顔をしている。まあ……猫をたたえる日ではあるのだが。
あ。猫獣人のひとりが飽きたのか呆れたのか、皿をなぎ倒す勢いで席を立ち、木の上に登った。もうひとりがそれに続くように移動し、こちらは自分の番である狐獣人の膝に飛び乗った。自由だな。でも、猫だもんな。それが本来の姿ではある。
僕も自由にしていいのだろう。ただ、どうせなら。
僕は獣化を解いて人の姿になると、適当な酒杯を手に立ち上がった。
「ルシィ?」
「すぐに戻るよ」
僕が向かったのはサディアス兄様の隣。
「兄様。この里の料理はいかがです?」
「なんだ、ルシアン。置物にされるのに飽きたのかい」
「兄様とゆっくり飲み交わしたことが今までなかったなと思いまして」
「なるほどねぇ」
サディアス兄様が目を細めて僕を見た。
「本当にそれだけかな?」
ああ、やっぱりこの人は侮れない。
「どうです、この酒。悪くないでしょう」
「ああ。いい香りだし、飲みやすいね」
「タルマールにはあまりない酒だと思いませんか?」
タルマール王国で好まれるのはワインであるが、ここの里で作っているのはシードルに近いリンゴの酒だ。
「確かに珍しい。貴族たちは喜びそうだ。ご婦人方にも受け入れられるんじゃないかな。あまり強くもないし」
「兄様の『影』は、この国とタルマールを往復できますよね?」
「お前、私に酒を売りつけるのかい?」
「いけませんか? せっかく国交も強化されたのですし……」
そもそも僕がテオに嫁ぐことになったのは二国間の友好の証とかいう理由があったはずだ。
「何本か土産に持って帰ってくださいよ。もし父上やラザラス兄様も気に入ってくださるようなら、追加を用意しますから」
「しかしね、そんなに多くは運べないぞ? 私の『影』は身軽さが身上なのだから……」
「兄様なら息のかかった商人くらいいるでしょう?」
サディアス兄様がため息をついた。
「まったく……何本用意できるんだ?」
「ひとまずは15本。希少価値で売り出して、少しずつ様子を見ましょう。評判が良ければこちらも量産体制を強化します」
「わかったよ。先に私が2本持ち帰るから、残りは……」
「あの」
エリオットが遠慮がちに口を挟んできた。
「その15本、サディアス様をお送りするついでに私が運びましょうか?」
「あ。そうか、その手が」
この勇者様、英雄として称えられることは嫌っているけど、能力は確かで、えげつない容量の収納魔法が使えるんだった。
とはいえ、毎回使い走りを頼むわけにもいかない。それをしたら勇者が商人になってしまう。なのでエリオットに頼るのは初回だけ、残りはサディアス兄様傘下の商会が動くことに決まった。
***
「サディアス殿とは何を話していたんだ?」
「ああ、商談を少しね」
僕の返事にテオが困惑の表情を浮かべた。
「久しぶりに兄上とお会いしたのだろう。それなのにすることが商談でいいのか」
「僕とサディアス兄様だから」
「ところで……」
テオがにやっと笑って僕の頬に触れた。
「『猫を愛でる日』はまだあと数時間あるようだが?」
「そうだね……でも、どうせなら」
僕はテオをベッドに座らせ、腿の上に乗った。
「たまには趣向を変えるのもいいんじゃない?」
一瞬、勘違いしたテオが顔を強張らせたけど……たっぷりと愛でて、愛でられて、とっても満足した『猫の日』だった。
テオがきょとんとして首を傾げた。
「そんなものがあったか?」
「異世界での風習ですよ」
エリオットが言う。
「私やルシィ様が前世で暮らしていた国では、猫という動物はずいぶんと可愛がられていたのです」
「まあ、猫が可愛いというのはわかるが……」
黒猫姿で膝に乗っている僕を撫でて、テオが言った。
「猫の日というのはどういう日なんだ。ネズミ捕りの感謝でもするのか」
「いえ。どちらかというと、ただひたすら猫を愛でる日ですね」
もし、この世界にもインターネットやSNSがあれば、猫の画像を流して褒め称え合うのだろうが……。
「愛でる……」
テオが呟く。なんだか釈然としないような顔をしている。
「俺はいつもルシィを愛でていると思うが?」
「そうですねぇ」
エリオットが苦笑する。
「確かにテオ様とルシィ様はいつも通りで良いのかもしれません」
***
「猫の日、ですか?」
いわくつきの侍従、リックが首を傾げた。
「そんな祝日がありましたっけ? 初めて聞く気がしますけど」
「この世界の風習じゃないよ」
そう言ってから、僕は顔をしかめた。
「おい、このクッキー、毒入りだな?」
「おや。気付かれてしまいましたか」
「お前な……わざわざこのためにクッキーを焼いたのか」
「毎回お茶では芸がないでしょう?」
困ったものだ。いくら僕に毒が効かないといっても、うっかり他の誰かが口にしたらどうする。
「捨てておけ。それから、お菓子は材料がもったいないからやめろ」
「そうですねぇ……この国は砂糖もあまり安くないですし……」
元々は僕の兄であるタルマール王国第一王子サディアス兄様の子飼いの影。それがこの男なのだが、毒で遊ぶという悪癖はどうにかならないかと思っている。僕が相手ならいい。ちょっとまずいだけで害は出ない。でもいつか、うっかり誰かを巻き込むかもしれない。それが怖い。
「リック。いたずらが過ぎるようなら兄様の所に送り返すからな?」
「それは勘弁してくださいよぅ」
「じゃあ、エリオットのおもちゃとしてお前を差し出そうか」
「それだけは……!」
リックの顔が真っ青になった。あの元勇者、うちの侍従に一体何をしたんだろうな?
***
「まあ。猫の日……ですか?」
兎獣人の侍女カタリナは嬉しそうに手を叩いた。
「素晴らしいですね。そんな日があるとは存じませんでしたが」
「この世界の風習じゃないからね」
「なるほど。神の国の行事でしたか」
「いや、神の国でもないけど……」
「何にせよ、喜ばしい日です。ルシアン様の日ですもの、盛大にお祝いしましょう!」
「だから、僕の日じゃなくて猫の日で……」
「早速獣人の里に行って、宴の用意をしなければ!」
あ、駄目だこれ。話聞いてない。
「里長やリジー様、ラス様にもお声をかけてまいります。盛大なお祭りにいたしますね!」
獣人の里で『神獣祭』が行われることが決まった瞬間であった。
***
猫の日当日……ということになった日。正確なところはわからない。微妙に日本とは暦が違うからだ。けれど騒いで遊べれば、人々にはそれが何日でもいいのだろう。獣人の里に招かれた僕は、そこにいる人物を見て一瞬フリーズした。
サディアス兄様だ。
足が不自由で国を出ることなどできなかったはずのサディアス兄様が、リジーに飲み物を勧められて笑っている。
どうしてここに。そう考えて、気付いた。
兄様が杖を持っていない。立食パーティなのに、座らずに、談笑している。そして、その隣にはエリオットがいた。勇者であり、凄腕の薬師であり、転移魔法の使い手でもある、テオの忠実な従者が。
「……兄様」
サディアス兄様が振り向いた。
「やあ、ルシアン。久しぶりだね。いろいろと大変だったそうじゃないか」
「はい……」
確かに大変だった。男と政略結婚したかと思えばその相手が死にかけるし、ポンコツ女神からは勇者の使命を押し付けられそうになるし、夫を助けるために人間をやめる羽目になり、迷宮をひとつ壊し、獣人たちを庇護する立場になって、今では神の眷属――怒涛である。
でも。この人はそれをどこまで知っているのだろう。走ることもできない足で国にこもっていたはずで。その不自由さの代わりに飼っている『影』を僕の側に置いていたらしいけど。それだって迷宮の中まではついてきていなかった……と思うんだけど。
「リックは元気かい? 最近報告が滞っているから、どうしているのかと気にかかっているんだけどねぇ」
「リックなら、今は僕の侍従をしています」
「あいつが? そうか、仲良くなったならよかったよ」
「それより、兄様はどうしてここに」
「ああ、薬師殿が私の足を治してくれてね」
やっぱりエリオットか。まさかサディアス兄様の古傷まで治せるとは。
「おまけに転移魔法が使えるというし、今日が祭りだと聞いて連れてきてもらったんだ」
「それ、父上やラザラス兄様には……」
サディアス兄様が意味ありげに笑った。
「敵を油断させるには味方を騙すことも必要だろう?」
「兄様の足が治ったと知れば、父上は喜びますよ」
何せ優秀な第一王子だ。足のことがなければこの人が世継ぎだったはず。
「でもねぇ。それで今更次期国王を私にすると言い出したら面倒じゃないか。ラザラスは喜んで王太子を降りるだろうし……」
「面倒って」
「お前ならわかるだろう、ルシィ。牙も爪も隠しておいた方がいざという時には役に立つものさ」
祖国では能力をとことん隠し、結果『顔だけ王子』なんて呼ばれていた僕が、どうこういう資格はなさそうだった。
***
祭りは賑やかだった。獣人の里で行われたので人間の姿は少なかったけれど、何人か知り合いもいた。最近獣人たちに受け入れられてここで暮らすようになった人々だ。混血の子供もいる。獣耳のある子もない子も、等しく大事にされているのが喜ばしい。
「ここは良い場所になったな」
テオがしみじみと呟いた。
『そうだね。このまま人間と仲良く暮らしていけるといい』
テオは最近里で作られるようになった酒をちびちびと飲んで、養殖に成功した魚の塩焼きを食べていた。そしてその魚の身をほぐし、骨を取って、僕の前に置く。
僕は呆れて言った。
『ねぇ……僕も自由に食べたいんだけど』
テオが僕の頭を撫でる。
「諦めろ、今日は猫の日なのだろう?」
猫の姿で寝そべって、撫でられて、時々ブラッシングされて。それ自体には文句がない。ただ、目の前に御馳走があるのに、食べにくいことを除けば。
祝宴の席を見回すと、同じような『被害』に遭っているのは僕だけじゃなかった。猫獣人の何人かが獣化させられ、撫でまわされ、供物のように料理を置かれて、困ったような顔をしている。まあ……猫をたたえる日ではあるのだが。
あ。猫獣人のひとりが飽きたのか呆れたのか、皿をなぎ倒す勢いで席を立ち、木の上に登った。もうひとりがそれに続くように移動し、こちらは自分の番である狐獣人の膝に飛び乗った。自由だな。でも、猫だもんな。それが本来の姿ではある。
僕も自由にしていいのだろう。ただ、どうせなら。
僕は獣化を解いて人の姿になると、適当な酒杯を手に立ち上がった。
「ルシィ?」
「すぐに戻るよ」
僕が向かったのはサディアス兄様の隣。
「兄様。この里の料理はいかがです?」
「なんだ、ルシアン。置物にされるのに飽きたのかい」
「兄様とゆっくり飲み交わしたことが今までなかったなと思いまして」
「なるほどねぇ」
サディアス兄様が目を細めて僕を見た。
「本当にそれだけかな?」
ああ、やっぱりこの人は侮れない。
「どうです、この酒。悪くないでしょう」
「ああ。いい香りだし、飲みやすいね」
「タルマールにはあまりない酒だと思いませんか?」
タルマール王国で好まれるのはワインであるが、ここの里で作っているのはシードルに近いリンゴの酒だ。
「確かに珍しい。貴族たちは喜びそうだ。ご婦人方にも受け入れられるんじゃないかな。あまり強くもないし」
「兄様の『影』は、この国とタルマールを往復できますよね?」
「お前、私に酒を売りつけるのかい?」
「いけませんか? せっかく国交も強化されたのですし……」
そもそも僕がテオに嫁ぐことになったのは二国間の友好の証とかいう理由があったはずだ。
「何本か土産に持って帰ってくださいよ。もし父上やラザラス兄様も気に入ってくださるようなら、追加を用意しますから」
「しかしね、そんなに多くは運べないぞ? 私の『影』は身軽さが身上なのだから……」
「兄様なら息のかかった商人くらいいるでしょう?」
サディアス兄様がため息をついた。
「まったく……何本用意できるんだ?」
「ひとまずは15本。希少価値で売り出して、少しずつ様子を見ましょう。評判が良ければこちらも量産体制を強化します」
「わかったよ。先に私が2本持ち帰るから、残りは……」
「あの」
エリオットが遠慮がちに口を挟んできた。
「その15本、サディアス様をお送りするついでに私が運びましょうか?」
「あ。そうか、その手が」
この勇者様、英雄として称えられることは嫌っているけど、能力は確かで、えげつない容量の収納魔法が使えるんだった。
とはいえ、毎回使い走りを頼むわけにもいかない。それをしたら勇者が商人になってしまう。なのでエリオットに頼るのは初回だけ、残りはサディアス兄様傘下の商会が動くことに決まった。
***
「サディアス殿とは何を話していたんだ?」
「ああ、商談を少しね」
僕の返事にテオが困惑の表情を浮かべた。
「久しぶりに兄上とお会いしたのだろう。それなのにすることが商談でいいのか」
「僕とサディアス兄様だから」
「ところで……」
テオがにやっと笑って僕の頬に触れた。
「『猫を愛でる日』はまだあと数時間あるようだが?」
「そうだね……でも、どうせなら」
僕はテオをベッドに座らせ、腿の上に乗った。
「たまには趣向を変えるのもいいんじゃない?」
一瞬、勘違いしたテオが顔を強張らせたけど……たっぷりと愛でて、愛でられて、とっても満足した『猫の日』だった。
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