高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

文字の大きさ
5 / 81
第100層 灰霊宮殿 -アッシュパレス-

第5話 気付けばそこは底でした

しおりを挟む
【禍津世界樹の洞 第???層】


「んん……ぅん……やべ、寝てたか……?」

 いつの間にか瞼が下りていたことに気付いた。何だか変な夢を見ていたような気がするが、まったく思い出せない。

「どこだよここ……」

 周囲を見回そうとすると、ポケットからピロリーンという電子音が聞こえてくる。手を伸ばすとスマホが指に触れた。いつの間にかポケットに仕舞っていたみたいだ。

 ……いつの間に?

 ふと浮かんだ疑問に首を傾げる。そういえばさっきまでスマホで……そうだ、配信をしていたんだ!

 ピロリーンという音が連続して聞こえてくる。掴んだスマホの画面に目を通す。

【宇宙天津甘栗船 さんがサブスク登録しました】
【上は大火事下は中火事 さんがサブスク登録しました】
【ashino さんがサブスク登録しました】
【ゆうた さんがサブスク登録しました】
【素振りをするサプリ さんがサブスク登録しました】
【菅原河原 さんがサブスク登録しました】

「待て待て待て待て! 何が一体どうなってるんだ!?」

 コメント欄がサブスク登録しましたと通常のコメント、それと投げ銭コメントが入り乱れていた。

 現在の視聴者数は99385人。僕は何度も目をこすって数字を見直したが、数字は増える一方で、そろそろ10万人を越えそうだった。

「僕寝ちゃったみたいだけど、だからってこれは何がどうなってるんだ!?」

 すがるように僕はコメント欄をジッと目で追った。

『起きた!』
『起きたーーー良かった!』
『大丈夫?』
『将軍が寝落ちした後に一部のリスナーが凸して転移罠に放り込んだんだよ』
『転移罠にぶち込まれたぞ!』
『転移罠』
『どこか調べろ』
『#寝ろ月ノ将軍』

「寝ねーよ! なに、凸ぅ!? ちょっと整理させてくれ……」

 リスナーが爆速で書くコメントを目で追い、必要そうな情報だけを選び、数の多い意見を参考にして照らし合わせると、どうやら寝落ちした僕の元に一部のやんちゃなリスナーが凸してきたらしい。

 5層の安地には都市伝説があって、数ある上り階段のうち一つだけがどこに通じてるか分からない謎の階段とのことで、凸してきたリスナーが僕をそこに放り込んだらしい。

 周囲を見回すと、どうやらここも安地らしく、いくつか上り階段が見える。

 流石に肝が冷えた。ここが普通にダンジョンの通路だったら、今頃僕はモンスターの餌食になって死んでいただろう。

『探索者アプリのGPSで現在地調べろ』
『現在地どこ』

「あ、あぁ……えーっと、そういえば説明会の時に入れさせられたな……」

 配信画面をバックグラウンドに押しやり、使うことがなかったアプリを起ち上げて自分の探索者登録票のIDと多分これだというパスワードを入力する。

 するとマイページに飛ぶ。いくつかの機能があるが、その中から【GPS】をタップする。しばらく小さな砂時計がくるくるとその場で回転し……やがて、僕の現在地を表示した。


【禍津世界樹の洞 第99層 灰霊宮殿アッシュパレス 安全地帯】


 目にした文字が頭まで届かなかった。その事実が飲み込めなかった。

 転移罠が僕を飛ばした先は第99層なんていうとんでもない場所だった。

 叫びたかった。叫んで変わる現実なんて何もないが叫びたかった。

 でも何を? わああああって? そんなんじゃ何も解決はしない。何か、何かこの喉を焼くような感情を、ただ叫ぶんじゃなく、言葉にして吐き出したかった。

「お……」

 つっかえる声帯を無理矢理震わせ、俺は叫んだ。

「オイお前ら終わってるって!!!!!!!」

 叫んだ言葉は至極当然の正論であった。

『俺は悪くねぇ!』
『あいつらが勝手にやったことだぞ!』
『クリップしてあるから後で見て』
『俺はちゃんと通報したぞ』

 そんなコメントが下から上へと飛んでいく。駄目だ、なんかこう、目が滑る。早いコメントに慣れないので頭が痛くなってきた。

 スマホを再びポケットに突っ込み、立ち上がる。まずはどうにか状況を整理したかった。ここに来るまでの経緯は理解できたが、現在の僕の状況が分かっていない。

 まず、ここが99層ということは間違いない。GPSが表示している。先に進めば第100層だ。

 たしか高難易度ダンジョンというのはその殆どが100層目が最下層でラスボスだったりダンジョンを構成する核だったりがあるって話だ。

 そっと周囲を見ると、左奥の階段が下りになっていた。いつの間にかオートからマニュアルモードに戻っていた魔導カメラが、その階段を配信上に映し出す。

『あの先が最下層?』
『ラスボスがいるんだよな』
『行くのか? 将軍』

「行くわけないだろ……探索協会から支給された初期装備だぞ?」

 そうだ。初期装備なのだ。こんな装備でどうやってここから帰る?

 ここにとどまって、配信を通じて助けを求めるのもアリ、か?

 でも助けが来るまで凌げる食料なんてない。僕が持ってきたのは少々の水分と携帯食だ。だって、ちょっと探索して帰るつもりだったし……。

【先天性童貞 さんがサブスク登録しました】

「あぁ、そうだ。すっかり忘れてた。えっと、僕が寝落ちしてる間もいっぱいサブスク登録とか投げ銭とかしてもらったみたいで……ありがとうございます! 本来なら一人一人名前呼んでお礼言いたいんだけど、ちょっと流石に状況が状況なので割愛するね」

『まずは生きて帰らないとな』
『でないと俺達の投げ銭も使えないまま腐っていくぞ』

「そうだよ……配信で食っていくって決めてここに来たんだから、生きて帰らなきゃいけないんだよ……ちくしょう、こんなことになるなんて思いもしなかった!」

 だが、こんなことになったからこそこうしてサブスク登録や投げ銭が増えているとも言える。この追い詰められた状況が、金を生んでいるのはまぎれもない事実だ。

 だからこそ、素直にこの状況を恨むことができなかった。だって、帰れさえすれば多額の金が僕の懐に入ってくるのだ。とりあえず確定申告のことは考えたくない。

 これからもっとやばいところを映せば金に……いやいや、そんな命懸けの配信なんてするつもりはない。

 しかし……。

「よし、決めた。僕はこれから地上を目指す。その様子は24時間ずっと配信する。魔導カメラだからバッテリーはモンスターを倒したら得られる魔力石で補充できる。もちろん、予備もある」

 最深部だからモンスターを倒すのは難しいかもしれないが、宝箱の中身は良い物である可能性が高い。そこから魔力石が見つかればゴブリンのビー玉サイズよりも何倍も補充できるはずだ。

「配信アーカイブが消える前に枠は立て直すから、見れるタイミングで見てくれ」

 俺は魔導カメラを掴み、自分の顔の真正面に持ってくる。

「これから始まるのは高難易度ダンジョン【禍津世界樹の洞】を最深部から逆攻略していく24時間配信だ!」

『うおおおおおおおおおお!!!!!』
『うおおおおおおおおおおおおおお』
『ツベッターに拡散しろ!!!』
『頑張れーーーーーー!!!!』

 ポケットから取り出したコメント欄を見てから、再びカメラに深く感謝の意を込めて一礼する。

「まずは……ちょっと最下層、覗いて行かん?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...