6 / 81
第100層 灰霊宮殿 -アッシュパレス-
第6話 最下層
しおりを挟む
下り階段の前までやってきた。
「例えばさ、漫画とかアニメでボスの手前の部屋でこう、靄みたいなのが扉の前からふわ~って流れてくる描写あるじゃん? 気体が上から下へと流れてきて、おどろおどろしい、みたいな」
大体、ああいうボス部屋は見上げる位置にある。敵対者を見下す位置にあるのがボスの矜持のような、対等ではないのだという意思表示のようなものを視覚的に分からせる意味合いが強いのだろう。
「でもここ、逆なんだよね。下り階段なのに、靄のような……瘴気? 雰囲気? 下から、上がってきてるんだよね……」
上から下へと下りてくるよりも、下から上へと上ってくる方が怖いと感じたのは初めてだった。まるで足元の影から腕が伸びて僕を掴んで引き摺り込もうとしているような、そんな錯覚を感じている。
入ったらもう、生きては帰れないような、そんな恐怖がそこにはあった。
「……ま、まぁ覗くだけだから! 今後攻略する人の参考になればね……うん。例え、僕が死んだとしてもアーカイブは残るから」
恐怖にやられて少し弱気な発言が漏れ出てしまうと、コメント欄が励ましの言葉で埋まっていく。
「ありがとう。よし、チラっと見てみるか……!」
気を取り直して僕は奈落の底へと続くような階段へと踏み込んでいった。
【禍津世界樹の洞 第100層 深淵の玉座】
禍々しいとはまさにこのことだった。闇というものを形にして、それを加工して建物にしたらこんな感じだろうか。
第100層は玉座の間だ。等間隔に並んだ燭台に紫色の火が灯り、周囲を照らすが見えるのは黒光りする柱や壁の装飾ばかりだ。
建築様式なんか全然わからんが、凄さみたいなのだけは伝わってきた。
「これは……流石に怖い、かも」
チラ、とスマホ画面のコメント欄を見ると、僕と同じくビビっている奴が多かった。
『流石にまずい』
『引き返せ』
そんなコメントが多く見受けられる。だがここで引き下がってはストリーマーとしての名が廃る……ほど名は売れてないが、それでもここまで来て怖いから帰るじゃあ話にもならないだろう。
「できるだけ慎重に行きます。何かあったら帰る。ご安全に!」
『ご安全に!』
『ご安全に!』
『ご安全に!』
スマホをポケットに仕舞い、壁に手を添えながらそーっと爪先で床を突いてみる。
何も起こらない。
ゆっくりと足の裏を床につけ、階段から下りた。急に燭台が激しく燃え上がったりだとか、警報がなったりだとかは一切ない。多分だけどボスにある程度近付くことで戦闘が開始されるんじゃないかな。
「奥には行かずに、まずは端から見ていこうか……」
こんな場所だ。もしかしたら何かアイテムとかあるかもしれないし……なんて強欲さを隠しもせずに壁沿いに歩く。最奥にボスがいると仮定して、向かって左側の壁を目指して歩いて行く。
左手を壁に添えながらしばらく進むと、正面に壁が現れた。角に到着したらしい。真っ黒な壁は右方向へと伸びている。
添えていた手を、角を経由して正面の壁に添え直す。また左側に壁を据えながらゆっくりと進む。進み過ぎたらボスに出会ってしまう。右斜め前をチラチラ見ながら歩いて行く。
「こえー……でも足止まんねぇ……やべぇ……」
掠れて消え入りそうな声で独り言を呟きながら歩を進めていると、左手が段差に触れた。
「う……!?」
何かに触れてしまったのかと、咄嗟に手を離して一歩下がる。
ジーっと壁を見ていると四角い枠のような段差が壁から浮き出ていた。枠の中は周りの壁よりも少し深掘りされ、枠の傍に取っ手がついていた。
「ドア……だ……!」
ドアノブだった。回して開けるようなタイプじゃなくて、押し開くような形をしている。
「どうしよう……入る?」
スマホを取り出し、コメント欄を見る。
『入ってみようぜw』
『罠に気を付けろ!』
流れていくコメントは概ね入る指示を出していた。罠ってなんだよ……あれか? ドアノブに紐がついてて、引っ張ったら作動するとかそういう……でもこれ押戸だろ? うーん……。
「まぁ気を付ければ大丈夫か……よし、入ってみますわ」
指先でちょん、とドアノブを触ってみる。……うん、実はめちゃくちゃ熱いとか電気が流れてるとかはない。
そーっと握り込み、押し開く。……うん、罠もない。
軋むような音もなく開いた扉の向こうへ、俺は意を決して入っていった。
「例えばさ、漫画とかアニメでボスの手前の部屋でこう、靄みたいなのが扉の前からふわ~って流れてくる描写あるじゃん? 気体が上から下へと流れてきて、おどろおどろしい、みたいな」
大体、ああいうボス部屋は見上げる位置にある。敵対者を見下す位置にあるのがボスの矜持のような、対等ではないのだという意思表示のようなものを視覚的に分からせる意味合いが強いのだろう。
「でもここ、逆なんだよね。下り階段なのに、靄のような……瘴気? 雰囲気? 下から、上がってきてるんだよね……」
上から下へと下りてくるよりも、下から上へと上ってくる方が怖いと感じたのは初めてだった。まるで足元の影から腕が伸びて僕を掴んで引き摺り込もうとしているような、そんな錯覚を感じている。
入ったらもう、生きては帰れないような、そんな恐怖がそこにはあった。
「……ま、まぁ覗くだけだから! 今後攻略する人の参考になればね……うん。例え、僕が死んだとしてもアーカイブは残るから」
恐怖にやられて少し弱気な発言が漏れ出てしまうと、コメント欄が励ましの言葉で埋まっていく。
「ありがとう。よし、チラっと見てみるか……!」
気を取り直して僕は奈落の底へと続くような階段へと踏み込んでいった。
【禍津世界樹の洞 第100層 深淵の玉座】
禍々しいとはまさにこのことだった。闇というものを形にして、それを加工して建物にしたらこんな感じだろうか。
第100層は玉座の間だ。等間隔に並んだ燭台に紫色の火が灯り、周囲を照らすが見えるのは黒光りする柱や壁の装飾ばかりだ。
建築様式なんか全然わからんが、凄さみたいなのだけは伝わってきた。
「これは……流石に怖い、かも」
チラ、とスマホ画面のコメント欄を見ると、僕と同じくビビっている奴が多かった。
『流石にまずい』
『引き返せ』
そんなコメントが多く見受けられる。だがここで引き下がってはストリーマーとしての名が廃る……ほど名は売れてないが、それでもここまで来て怖いから帰るじゃあ話にもならないだろう。
「できるだけ慎重に行きます。何かあったら帰る。ご安全に!」
『ご安全に!』
『ご安全に!』
『ご安全に!』
スマホをポケットに仕舞い、壁に手を添えながらそーっと爪先で床を突いてみる。
何も起こらない。
ゆっくりと足の裏を床につけ、階段から下りた。急に燭台が激しく燃え上がったりだとか、警報がなったりだとかは一切ない。多分だけどボスにある程度近付くことで戦闘が開始されるんじゃないかな。
「奥には行かずに、まずは端から見ていこうか……」
こんな場所だ。もしかしたら何かアイテムとかあるかもしれないし……なんて強欲さを隠しもせずに壁沿いに歩く。最奥にボスがいると仮定して、向かって左側の壁を目指して歩いて行く。
左手を壁に添えながらしばらく進むと、正面に壁が現れた。角に到着したらしい。真っ黒な壁は右方向へと伸びている。
添えていた手を、角を経由して正面の壁に添え直す。また左側に壁を据えながらゆっくりと進む。進み過ぎたらボスに出会ってしまう。右斜め前をチラチラ見ながら歩いて行く。
「こえー……でも足止まんねぇ……やべぇ……」
掠れて消え入りそうな声で独り言を呟きながら歩を進めていると、左手が段差に触れた。
「う……!?」
何かに触れてしまったのかと、咄嗟に手を離して一歩下がる。
ジーっと壁を見ていると四角い枠のような段差が壁から浮き出ていた。枠の中は周りの壁よりも少し深掘りされ、枠の傍に取っ手がついていた。
「ドア……だ……!」
ドアノブだった。回して開けるようなタイプじゃなくて、押し開くような形をしている。
「どうしよう……入る?」
スマホを取り出し、コメント欄を見る。
『入ってみようぜw』
『罠に気を付けろ!』
流れていくコメントは概ね入る指示を出していた。罠ってなんだよ……あれか? ドアノブに紐がついてて、引っ張ったら作動するとかそういう……でもこれ押戸だろ? うーん……。
「まぁ気を付ければ大丈夫か……よし、入ってみますわ」
指先でちょん、とドアノブを触ってみる。……うん、実はめちゃくちゃ熱いとか電気が流れてるとかはない。
そーっと握り込み、押し開く。……うん、罠もない。
軋むような音もなく開いた扉の向こうへ、俺は意を決して入っていった。
0
あなたにおすすめの小説
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる