高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

文字の大きさ
70 / 81
第60層 悪辣湖沼地帯 -シニスター-

第70話 ファンサが招いた危機

しおりを挟む
 伸びていた木の陰が僕の足を踏みつけた。いつの間にか結構な時間が過ぎたようで、スマホの画面に表示されたコメント欄には定点配信に対する不平不満が溢れかえっていた。

「状況は把握してるだろ。あんまり強い言葉使う奴はBANするからな」

『暇』
『つまらん』
『早く攻め込め』

「攻め込んでどうすんだよ、アホか。仲間だって伝えに来てるんだぞ」

 この『シニスター湖沼地帯』は殺伐とした戦場である。常に互いの部族の存亡を賭けた戦いを繰り返し、諸行無常の日々を送っている。その中で出会ったベノムエルフという毒に特化したダークエルフの派生種族の少女、シキミ。そのシキミを追っていたバイオウルフのボス、アルファ。そのアルファをシキミと共にいた外部の人間である僕が始末した結果、バイオウルフはベノムエルフの軍門に下るという選択をした。

 実際、その選択をした二代目である先代の息子、現アルファは僕という脅威に種族を滅ぼされるよりは……という打算もあってか、シキミの元に頭を垂れたはずだったがいつの間にかシキミの持つ愛らしさというか、距離の近さにやられたのか、すぐに懐いているようだった。これはもしかしたらアルファ自体が、戦いが好きな性格ではなかったからなのかもしれない。待ちぼうけの雑談として聞いていたが、あの夜襲の際は先代こそ牙を剥き出しにしていたが、アルファ自体は陰に隠れて他の者が飛び掛からないように動いていたらしい。

 これが事実なら、今のバイオウルフ族は心穏やかに他種族と接することができるはずだ。周囲を見回すが、アルファ以外のバイオウルフ達も地面に寝そべっていたり、赤と紫のでかい蝶を追い掛けて殺していたりと平和そのものだった。きっとボスの意向に影響を受けるのかもしれない。穏やかな者がボスなら穏やかになり、獰猛な者がボスなら獰猛になるのだろう。

 ボスが穏やかだから、こうして人懐っこいバイオウルフが僕に体を寄せて寝転がったりもする。撫でる背中は大きく、毛並みは艶々で撫でていて全然飽きない。おっきいワンコ……めちゃくちゃ癒しです。

「これ何ぞ?」
「ん? あぁ、これは魔導カメラって言ってな。僕達が戦ったり旅してるのを映してる機械だ」

 あんまりに暇だったのだろう。ヴァネッサが魔導カメラを指差して尋ねてきた。そういえばこのダンジョンに入って自主的にカメラに興味を持ったのはヴァネッサが初めてかもしれない。アイザは目で追うことはあったが触れることはなかったし、八咫は……どうだったかな。そんなに前じゃないのに思い出せない。

「ふーん。映して誰が見るの?」
「色んな人。今は……そうだな。4万人が見てる」

 スマホを取り出して視聴者数を確認すると4万人近い人間が見ていると表示されている。コメント欄はヴァネッサを呼ぶ声で溢れていた。

「これ読めるか?」
「わからんね」
「この文字、これな、ヴァネッサって読むんだけど、見てる人達がお前を呼んでるんだよ」
「なんで?」
「相手してほしいんじゃないか?」
「ほーん」

 ててて、とカメラから離れたヴァネッサはびしっとポーズを決める。すると竜巻が発生する。草や木が竜巻に吸い込まれまいと踏ん張るように激しく揺れる。しかしそれも束の間。内側から膨らんで弾けた竜巻の中から白髪ベリーショートの妖艶な女性が現れた。

「ふーはっはっはー! 4万人共、崇めろ! 奉れ! 媚び諂え! 我が名はヴァネッサ! 天地を統べる色欲の女王であるぞ!」

 コメント欄は雄たけびを上げるリスナーで溢れかえり、僕達の周囲は殺気で埋め尽くされていた。

「いきなり変身する奴があるか! せっかく敵意がないですよってアピールしてたのに!」
「私様もアピールしただけじゃし! シキミの里の人数がどんなもんか分からんけれど4万人にアピールした方が絶対得じゃし!」
「身も蓋もないことを言うな!」

 シキミの里の人間が僕達の周囲に隠れて様子を見ていることには気付いていた。だからこそ何もせず大人しくしていた。敵意なんてこれっぽっちもないですよとワンコ達と戯れることも忘れずにしていた。

 しかしヴァネッサのファンサによって敵意ありと捉えられてしまった。ここからでも入れる保険があったら入りたい。とにかく僕達は必死に敵意がないとアピールする為に武器だけは取り出さないようにして周囲の警戒だけは続けていた。

「駄目です将三郎さん、気配が近付いてきます」
「くぅ……シキミ、早く戻ってきてくれ……!」
「はーい、戻ったでござるよ~」
「わぁ!?」

 急に僕の目の前にシキミが現れて思わず飛び上がってしまった。忍者怖い。でも助かった、シキミが出てきた途端に周りを囲んでいた気配が退いていった。

「そんなに怖がられたら拙者、傷付いちゃう……」
「わ、悪い悪い、ちょっとそこの馬鹿がやらかして慌てたから」
「私様は馬鹿じゃないでござる!」
「うるさい馬鹿、大人しくしてろ!」

 ポカンと一発やりたいところだが炎上してしまうのでどうにか拳を解いてポケットに突っ込んだ。
 危うくヴァネッサのせいでとんでもないことになるところだった。タイミング良く帰ってきてくれたシキミのお陰で難を逃れることができたが、本当に危ないところだった。

 見張り達が戻って変な報告をしたらという不安はまだあるが、戻ってきたシキミからは落胆したような様子は感じられない。交渉は上手くいったようである。

「じゃあ許可が下りたので案内するでござるよ。足元に気を付けてついてくるでござるよ~」
「確かに転びやすそうな地形ですね。天然の要塞って感じですし」
「ううん、アイザ殿、そうじゃないでござる」

 シキミの言葉に首を傾げるアイザ。僕も首を傾げた。ヴァネッサは何も分かってない顔をし、八咫は傾いた僕の頭の上で器用に寝ている。

「そこら中に罠が仕掛けてあるので気を付けてって意味でござる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...