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この世界には魔物がいる。
「陛下! 助けてください~!」
満月の夜空を一匹のドラゴンとそれにまたがる騎士が絶叫しながら飛んでいた。
彼はアルン。この国でただ一人の竜騎士だ。
そんな夜空を駆け回るドラゴンを、僕はボロ臭い城のバルコニーから見上げていた。
「アルン! 右からくるぞ!」
月の光に照らされて、黒い影が何体か空を飛んでいる。
彼らは魔物。
この世界に眠る数々の宝を求めて異界から侵略してきたらしい。
アルンは慌てて剣を構えると、ドラゴンの腹を蹴って方向転換させる。
「行け~! ロン吉きち~!」
なんとも間抜けな名前を呼びながら竜騎士は黒い影たちに斬りかかった。
アルンは次々と魔物を斬り殺し、ちりに変えていく。
声なき声をあげる魔物たちは、倒されると隠し持っていた僅かな金貨を地面に落としていった。
すべて倒し終わると夜空に平和が戻ってきた。
この日の襲撃はここまでらしい。
僕は急いでバルコニーを離れて、城の外へと飛び出した。
「陛下、今日は金貨が十枚も取れました! 明日はお肉が食べられますね」
ちょうど魔物の落とした金貨を拾い終わったらしいアルンがニコニコとそれを差し出してきた。
「馬鹿者! 金貨を飯に変えてどうするんだ。これで兵士や大工を雇い、城の守りを固めろ。赤い夜はそう遠くない」
赤い夜。
それは月が赤く染まり、魔物が大量発生する日のことだ。
前回の赤い夜に、僕の両親は魔物に殺され、城はボロボロ、兵士はこの馬鹿な竜騎士しか生き残らなかった。
しかしこの馬鹿な竜騎士は両親に託された純金の王冠を守りきり、僕に王位を継承させたのだ。
「さすが陛下! なんて賢いんだ!」
感動に目をうるませるアルンに思わずため息が出た。
「そんなところでいつまでも立っているな。寝室にいくぞ」
「はい!」
魔物の襲撃を受けてボロボロになった城内を二人で進み、最奥にある寝室へやってきた。
アルンは僕の上着を脱がせてクローゼットにしまうと、自分の上着も脱いで隣にしまった。
僕はベッドに座って彼を待った。
すぐにアルンは僕の足元に戻ってきて靴を脱がせ始める。
使い勝手ばかりを優先させた無骨なブーツを脱がせ、僕の足の甲にキスをした。
これは僕が「両親は毎日、寝る前に足にキスをしてくれていた」という嘘をついたときに、彼が代わりにやってあげようといって始まった習慣だ。
未だにこいつはそんなくだらない嘘を信じているのか、馬鹿め。
そしてアルンは僕を布団の中に入れ、自分もその隣に寝そべった。
もちろん剣はいつでも抜けるようにベッドの横に立て掛けてある。
これも僕が彼に「両親は毎日僕と一緒に眠ってくれていた」と嘘をついて始めさせた習慣だ。
「おやすみなさい、陛下」
アルンは僕の背中を優しく撫でて、やがて眠りについた。
今日もまた、無事に朝を迎えることができそうだ。
「陛下! 助けてください~!」
満月の夜空を一匹のドラゴンとそれにまたがる騎士が絶叫しながら飛んでいた。
彼はアルン。この国でただ一人の竜騎士だ。
そんな夜空を駆け回るドラゴンを、僕はボロ臭い城のバルコニーから見上げていた。
「アルン! 右からくるぞ!」
月の光に照らされて、黒い影が何体か空を飛んでいる。
彼らは魔物。
この世界に眠る数々の宝を求めて異界から侵略してきたらしい。
アルンは慌てて剣を構えると、ドラゴンの腹を蹴って方向転換させる。
「行け~! ロン吉きち~!」
なんとも間抜けな名前を呼びながら竜騎士は黒い影たちに斬りかかった。
アルンは次々と魔物を斬り殺し、ちりに変えていく。
声なき声をあげる魔物たちは、倒されると隠し持っていた僅かな金貨を地面に落としていった。
すべて倒し終わると夜空に平和が戻ってきた。
この日の襲撃はここまでらしい。
僕は急いでバルコニーを離れて、城の外へと飛び出した。
「陛下、今日は金貨が十枚も取れました! 明日はお肉が食べられますね」
ちょうど魔物の落とした金貨を拾い終わったらしいアルンがニコニコとそれを差し出してきた。
「馬鹿者! 金貨を飯に変えてどうするんだ。これで兵士や大工を雇い、城の守りを固めろ。赤い夜はそう遠くない」
赤い夜。
それは月が赤く染まり、魔物が大量発生する日のことだ。
前回の赤い夜に、僕の両親は魔物に殺され、城はボロボロ、兵士はこの馬鹿な竜騎士しか生き残らなかった。
しかしこの馬鹿な竜騎士は両親に託された純金の王冠を守りきり、僕に王位を継承させたのだ。
「さすが陛下! なんて賢いんだ!」
感動に目をうるませるアルンに思わずため息が出た。
「そんなところでいつまでも立っているな。寝室にいくぞ」
「はい!」
魔物の襲撃を受けてボロボロになった城内を二人で進み、最奥にある寝室へやってきた。
アルンは僕の上着を脱がせてクローゼットにしまうと、自分の上着も脱いで隣にしまった。
僕はベッドに座って彼を待った。
すぐにアルンは僕の足元に戻ってきて靴を脱がせ始める。
使い勝手ばかりを優先させた無骨なブーツを脱がせ、僕の足の甲にキスをした。
これは僕が「両親は毎日、寝る前に足にキスをしてくれていた」という嘘をついたときに、彼が代わりにやってあげようといって始まった習慣だ。
未だにこいつはそんなくだらない嘘を信じているのか、馬鹿め。
そしてアルンは僕を布団の中に入れ、自分もその隣に寝そべった。
もちろん剣はいつでも抜けるようにベッドの横に立て掛けてある。
これも僕が彼に「両親は毎日僕と一緒に眠ってくれていた」と嘘をついて始めさせた習慣だ。
「おやすみなさい、陛下」
アルンは僕の背中を優しく撫でて、やがて眠りについた。
今日もまた、無事に朝を迎えることができそうだ。
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