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第1章 始動の翼
廻り出す世界1
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4月15日の土曜日、14時30分。
「よっしゃ着いたぞ…!!!」
苦行に打ち勝った喜びを、やや掠れた声で叫んだ。
「このぐらいの山登りでへばってちゃ、人生思いやられるな。」
「うるせぇ…登山家になる訳でもなし、山登りでバテようが関係ねぇよ…!」
深呼吸に勤しみながら、精一杯の減らず口を叩く。
一日千秋の想いで待ち焦がれていた樹王山への進行は、楽ではなかった。
標高そのものはさして高くなくとも、道は急で足場も悪く、体力を減らされるばかり。一度は滑落しかけた場面さえあった。
勿論、翼を広げて空を飛べば無用の労苦であったが、幾らも登山客の目がある道中では、とても実行できた芸当ではない。
結局、馬鹿正直に山登りを続け、こうして頂に到着したのだった。
ガイドブックや掲示板で『憩いの広場』と名付けられている、中腹と見紛う箇所にあった芝生が、こちらにも確認できる。大量の樹木が周辺を飾り立てているのも、登山道との共通項だった。
大きな差異は、中央にただ1本だけ、天を衝かんばかりの大木が根差している点だ。
この姿が目に入らぬかと聴こえて来そうな、威風堂々とした佇まいを見せ付ける、それこそ。
樹王と呼ばれる、この山の象徴だった。
「おお…!滅茶苦茶でけぇな…!!」
樹王への第一印象は、単純を極める一言に尽きた。
痛みを覚えるほど首を曲げて見上げても、頂上を視界に捉えられない。
誰かが手を加えている様子はなく、根も幹も枝も葉もありふれた樹と変わらない色合いだが、一方では研磨をされたのかと思うまでの輝きも感じさせる。
雄大さと美麗さを両立した立ち姿は、自然が生んだ芸術と称えるに相応しかった。
「噂じゃ、大気圏に届くかもとか言われてるらしいぞ。」
「いや、それは尾ひれ付きすぎだろ。大気圏まで植物が伸びてたら、世界中で騒がれるわ。」
「はは、そりゃそうだ。でも、馬鹿みたいなでかさは間違いないな。本当、圧巻って感じだよ。」
「それは納得…。」
すぐさま流言と見破れる噂を適当に聞き流しながらも、眼前で大いに迫力を示す樹王には、ただただ圧倒されるばかりだった。
「さて、樹王の実だけど…根元に転がってたりはしないみたいだな。」
「…じゃ、今度はウドの大木相手に木登りしなきゃならんのか…。」
ようやく蟻地獄から抜け出した矢先、別の蟻地獄に囚われた様な陰鬱さに襲われる。
元々木登りなどできる身ではないのに、体力を浪費している状態で、挙句に頂上を捕捉するのも難儀な巨木をよじ登れとは。
「いや、今の内なら空飛んで大丈夫だよ。他に人いないし。」
「けど、さっきの広場には結構いるじゃねぇか…絶対ばれるぜ。」
「ここから広場までどれだけ距離があると思ってるんだ。まともに見える訳ないし、もし見えたところで、本物の鳥と思われてスルーされるって。」
眼下を指し示す兄の右手に導かれて憩いの広場を見やると、確かに人がいるのは分かるが、老若男女の区別すら苦心する程、像は不鮮明。
見晴らしの良い地点に立ってもこの調子なら、数多の木々が視界を遮る広場からでは、頂上の様子などほとんど悟られるまい。
「超特急で実を採って帰って来れば良い。そうすれば、人間から羽が生えてるなんてばれる暇もないよ。」
「…よし!なら、行ってみるか!」
樹王の頂が位置する遥か上空を瞳に映し、飛び立つ構えを取った瞬間。
「あ、兄ちゃんの分も忘れるなよ。」
怠惰な声に脱力し、足を滑らせた。
「いや自分で行けよ!!てめぇだって飛べるだろうが!!」
呆れと怒りに、声を荒げる。
俺と異なり嘴を持たない兄は、傍目には普通の人間としか思われないが、背中に翼が生えている。
つまり、この男も、れっきとした変異種なのである。
俺とほぼ同時期、約1年前にかような変身を遂げた兄だが、無論その理由は闇の中。
以来、多忙なアルバイト生活の合間を縫ってまで、普通の人間に戻るための情報収集に進んで取り組んでいた。
その動機は、羽があろうと人目につく所では飛べないし服を着るにも邪魔だからどうにかして無くしてしまいたいという、日頃の愚痴で明らかなのだが。
「嫌だ、めんどい。」
いよいよ悲願が叶うか否かの大舞台になると、この態度だった。
「この怠け者が…晩飯抜きにされてぇのか!!」
「そうか、晩飯抜きか。それは困ったな。…ところで風刃君、あの本が見つかったのは誰のお陰だったかな?」
「分かったよ、行きゃいいんだろ!!!」
いいように使われたくないと脅し文句をぶつけてみたものの、結局はこちらが負かされる。
恩着せがましい態度は実に不愉快だが、此度の有力情報を掴んだのは、紛れもなく兄。
その恩は仇で返す訳にも行かず、渋々従うしかなかった。
「あ、一番美味そうなの採って来いよ。」
「はいよ、了解致しました!!」
芝生の上に寝転がりながらさらに煩わしく注文をつけて来る兄に、脳内の血管を破裂させながら応答する。
わざと途中で実を痛めつけてやろうかと陰湿な企みを描きつつ、今度こそ樹王の頂上へ飛び立とうとした時。
大砲から弾丸を発射したかのような、鈍くも大きな音が響いた。
「うわっ!」
「何だ!?」
山全体を激しく振動させた轟音に兄が瞬時に立ち上がり、俺は僅かに浮かせた身体を思わず着地させた。
その直後にも、同じ音が更に数回鳴り響く。
「もしかして、地震か…!?」
「いや、地震ならこんな揺れ方じゃないだろ…。」
「じゃ、今の揺れは―」
―うわああああーーーーーーーーー!!!!
―きゃああああーーーーーーーーー!!!!
―助けてーーーーーーーーーーーー!!!!
悲鳴の出所を探ると、憩いの広場にいた数多の人間が、何かから逃げ出しているのが見て取れる。
「…何だか穏やかじゃねぇな…どうする?」
「…とりあえず、行ってみよう。」
「よし…!」
すぐさま兄弟揃って翼を広げ、飛翔した。
「よっしゃ着いたぞ…!!!」
苦行に打ち勝った喜びを、やや掠れた声で叫んだ。
「このぐらいの山登りでへばってちゃ、人生思いやられるな。」
「うるせぇ…登山家になる訳でもなし、山登りでバテようが関係ねぇよ…!」
深呼吸に勤しみながら、精一杯の減らず口を叩く。
一日千秋の想いで待ち焦がれていた樹王山への進行は、楽ではなかった。
標高そのものはさして高くなくとも、道は急で足場も悪く、体力を減らされるばかり。一度は滑落しかけた場面さえあった。
勿論、翼を広げて空を飛べば無用の労苦であったが、幾らも登山客の目がある道中では、とても実行できた芸当ではない。
結局、馬鹿正直に山登りを続け、こうして頂に到着したのだった。
ガイドブックや掲示板で『憩いの広場』と名付けられている、中腹と見紛う箇所にあった芝生が、こちらにも確認できる。大量の樹木が周辺を飾り立てているのも、登山道との共通項だった。
大きな差異は、中央にただ1本だけ、天を衝かんばかりの大木が根差している点だ。
この姿が目に入らぬかと聴こえて来そうな、威風堂々とした佇まいを見せ付ける、それこそ。
樹王と呼ばれる、この山の象徴だった。
「おお…!滅茶苦茶でけぇな…!!」
樹王への第一印象は、単純を極める一言に尽きた。
痛みを覚えるほど首を曲げて見上げても、頂上を視界に捉えられない。
誰かが手を加えている様子はなく、根も幹も枝も葉もありふれた樹と変わらない色合いだが、一方では研磨をされたのかと思うまでの輝きも感じさせる。
雄大さと美麗さを両立した立ち姿は、自然が生んだ芸術と称えるに相応しかった。
「噂じゃ、大気圏に届くかもとか言われてるらしいぞ。」
「いや、それは尾ひれ付きすぎだろ。大気圏まで植物が伸びてたら、世界中で騒がれるわ。」
「はは、そりゃそうだ。でも、馬鹿みたいなでかさは間違いないな。本当、圧巻って感じだよ。」
「それは納得…。」
すぐさま流言と見破れる噂を適当に聞き流しながらも、眼前で大いに迫力を示す樹王には、ただただ圧倒されるばかりだった。
「さて、樹王の実だけど…根元に転がってたりはしないみたいだな。」
「…じゃ、今度はウドの大木相手に木登りしなきゃならんのか…。」
ようやく蟻地獄から抜け出した矢先、別の蟻地獄に囚われた様な陰鬱さに襲われる。
元々木登りなどできる身ではないのに、体力を浪費している状態で、挙句に頂上を捕捉するのも難儀な巨木をよじ登れとは。
「いや、今の内なら空飛んで大丈夫だよ。他に人いないし。」
「けど、さっきの広場には結構いるじゃねぇか…絶対ばれるぜ。」
「ここから広場までどれだけ距離があると思ってるんだ。まともに見える訳ないし、もし見えたところで、本物の鳥と思われてスルーされるって。」
眼下を指し示す兄の右手に導かれて憩いの広場を見やると、確かに人がいるのは分かるが、老若男女の区別すら苦心する程、像は不鮮明。
見晴らしの良い地点に立ってもこの調子なら、数多の木々が視界を遮る広場からでは、頂上の様子などほとんど悟られるまい。
「超特急で実を採って帰って来れば良い。そうすれば、人間から羽が生えてるなんてばれる暇もないよ。」
「…よし!なら、行ってみるか!」
樹王の頂が位置する遥か上空を瞳に映し、飛び立つ構えを取った瞬間。
「あ、兄ちゃんの分も忘れるなよ。」
怠惰な声に脱力し、足を滑らせた。
「いや自分で行けよ!!てめぇだって飛べるだろうが!!」
呆れと怒りに、声を荒げる。
俺と異なり嘴を持たない兄は、傍目には普通の人間としか思われないが、背中に翼が生えている。
つまり、この男も、れっきとした変異種なのである。
俺とほぼ同時期、約1年前にかような変身を遂げた兄だが、無論その理由は闇の中。
以来、多忙なアルバイト生活の合間を縫ってまで、普通の人間に戻るための情報収集に進んで取り組んでいた。
その動機は、羽があろうと人目につく所では飛べないし服を着るにも邪魔だからどうにかして無くしてしまいたいという、日頃の愚痴で明らかなのだが。
「嫌だ、めんどい。」
いよいよ悲願が叶うか否かの大舞台になると、この態度だった。
「この怠け者が…晩飯抜きにされてぇのか!!」
「そうか、晩飯抜きか。それは困ったな。…ところで風刃君、あの本が見つかったのは誰のお陰だったかな?」
「分かったよ、行きゃいいんだろ!!!」
いいように使われたくないと脅し文句をぶつけてみたものの、結局はこちらが負かされる。
恩着せがましい態度は実に不愉快だが、此度の有力情報を掴んだのは、紛れもなく兄。
その恩は仇で返す訳にも行かず、渋々従うしかなかった。
「あ、一番美味そうなの採って来いよ。」
「はいよ、了解致しました!!」
芝生の上に寝転がりながらさらに煩わしく注文をつけて来る兄に、脳内の血管を破裂させながら応答する。
わざと途中で実を痛めつけてやろうかと陰湿な企みを描きつつ、今度こそ樹王の頂上へ飛び立とうとした時。
大砲から弾丸を発射したかのような、鈍くも大きな音が響いた。
「うわっ!」
「何だ!?」
山全体を激しく振動させた轟音に兄が瞬時に立ち上がり、俺は僅かに浮かせた身体を思わず着地させた。
その直後にも、同じ音が更に数回鳴り響く。
「もしかして、地震か…!?」
「いや、地震ならこんな揺れ方じゃないだろ…。」
「じゃ、今の揺れは―」
―うわああああーーーーーーーーー!!!!
―きゃああああーーーーーーーーー!!!!
―助けてーーーーーーーーーーーー!!!!
悲鳴の出所を探ると、憩いの広場にいた数多の人間が、何かから逃げ出しているのが見て取れる。
「…何だか穏やかじゃねぇな…どうする?」
「…とりあえず、行ってみよう。」
「よし…!」
すぐさま兄弟揃って翼を広げ、飛翔した。
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