「桜の下の禁じられたメロディ」

第5章: 卒業への軌跡 - それぞれの道へ

話１３：奏の新たな道標

学園祭の余韻が残る中、奏は待ちに待った一次審査の結果を受け取った。その通知を手に、喜びを隠しきれない表情で椎名に駆け寄る。

「椎名！一次審査通ったよ！次は実物を持っていく二次審査だ！」奏の目は希望に満ち、輝いていた。

椎名も奏の喜びに共感し、優しい微笑みで応える。「奏、本当におめでとう。すごいね、あの努力が実を結んだんだ。」

放課後、奏と椎名は、次のステップである二次審査の準備に取り掛かる。作品は慎重に梱包され、二人の手によって丁寧に運び出される。夕日が二人の背中を照らし、新たな挑戦への期待と不安が入り混じった空気が漂う。

奏は作品を手にしながら、心の中で固く決意する。「この作品を通じて、自分のアートをもっと多くの人に伝えたい。そして、椎名との絆を深めたい...」その瞬間、奏の中に新しい希望の光が点灯する

学校を休んで、奏と椎名は選考会の会場に向かった。電車の中で、奏は椎名に感謝と心配の気持ちを伝える。「椎名、わざわざ学校を休んで来てくれてありがとう。でも、授業を休むことになってしまって...」

椎名は奏の不安をやわらげるように微笑み、静かな調子で返す。「大丈夫、今日は私にとっても大事な日だから。アートって、どこか魅力的だし、奏がそこにどんな思いを込めているのか、もっと知りたいんだ。」そして、少し照れくさそうに目を逸らしながら小さくつぶやく。「...それに、一緒にいたいから。」

会場に着くと、様々なアーティストの作品が並んでいる。奏と椎名はゆっくりと作品を見て回る。椎名は奏の作品に込められた情熱と、その作品が語る物語に心を動かされる。奏の横で、椎名の中にも新たな感覚が芽生え始めていた。

奏は自分の作品の前に立ち、深呼吸をする。そして椎名に向かって固く決意のこもった声で言う。「椎名、どんな結果が出ようと、これが自分の道だと信じて進むよ。だから、これからも一緒にいてほしい。」

二人の間に流れる静かな空気は、互いへの信頼と支え合う絆を感じさせるものだった。それは、選考会の会場でさらに深まることになる。

アートの審査結果が発表されたが、奏の作品は選ばれなかった。がっかりし、奏は肩を落とし、椎名も言葉を失う。そんな中、アート教室の先生が一人の男性を連れて近づいてきた。先生は奏に向かって励ますように言葉をかけた。「奏、残念だったけど、これからもチャレンジを続けるんだよね？」

奏は力強く頷き、「もちろんです。大学に進んだ後も、アートを続けます」と答えた。そのとき、先生の隣にいた男性が奏に話しかける。「君の作品、僕はとても良いと思ったんだ。でも、他の審査員の賛同を得られなくて、申し訳ない。」奏は、その言葉に男性が審査員だったことを悟り、驚いた。

男性は続けて、奏に提案する。「実は僕、美術大学の教授なんだ。君の才能、面白いと思うよ。もし興味があれば、うちの大学を受験してみないか？残念ながら推薦入学の期間は終わったけれど、一般入試であればまだチャンスはある。」

奏はその言葉に心が動かされる。そして男性から受け取った大学のパンフレットを手に取り、未来への新たな希望を感じ始めた。椎名も奏の隣で、新しい道が開けることを心から喜んでいた。

奏の目には、不安と期待が入り混じる中にも、明るい光が宿っていた。それは奏のアートへの情熱と、これからの人生に対する前向きな姿勢を映し出していた。そして椎名の温かい支えが、奏を強くし、新たな道へと進む勇気を与えていたのだった。