「桜の下の禁じられたメロディ」

第5章: 卒業への軌跡 - それぞれの道へ

話１４：新しい光

11月、受験生にとって勉強に集中する大切な時期が訪れていた。奏はアートコンテストの一次審査、学園祭、そしてアートコンテストの二次審査と、忙しい日々を送っていた。その影響で、受験勉強がおろそかになり、少し焦りを感じていた。国立の美術大学を目指すためには、センター試験の点数が重要で、そこで足切りに遭ってしまえば、後の受験すら叶わない。奏は自分の現状を椎名に打ち明け、相談することにした。

椎名は奏の話を真剣に聞き、「一緒に頑張ろう。私も協力するから」と力強く答えた。椎名は奏のアートへの情熱を理解し、その道を進むためには受験勉強も大切であることを心から願っていた。奏は椎名の支えを感じ、改めて二人の強い絆を実感した。

その日から、奏と椎名は互いに支え合いながら勉強に取り組んだ。図書館で一緒に時間を過ごし、時には一緒に夜遅くまで勉強することもあった。二人の間には、勉強の大変さを共有することで生まれる、新たな絆と信頼が築かれていった。

奏は椎名の支えを胸に、勉強に挑む覚悟を決めた。センター試験に向けての時間は限られていたが、奏は自分の夢に向かって、一歩ずつ確かな足取りで前進していくことを誓った。

奏は図書館の静かな空間の中で受験勉強に励んでいた。周りは集中している学生たちの熱気で満ちており、奏もその流れに乗ろうと必死だった。しかし、ふとした瞬間、目に飛び込んできた本のタイトルに心が惹かれた。「アートと心の交差点」と書かれたその本は、奏の好奇心をくすぐるものだった。

少し読み始めると、本の内容は奏の心を強く捉え、まるで自分自身の心とアートへの情熱を照らし出す鏡のようだった。時が経つのを忘れ、奏はその本に没頭してしまう。

そのとき、椎名が静かに近づいてきた。「奏、何しているの？」と少し怒り気味に尋ねる。奏は我に返り、急いで本を閉じた。「ごめんごめん、ちょっと気になって…。さて、勉強の続きだね」と言いつつも、奏の心にはその本の内容が強く残っていた。

気になる気持ちを抑えきれず、奏は図書館でその本を借りることに決めた。手にした本を胸に、奏は新たなインスピレーションを得たかのように感じ、心の奥で小さな期待が芽生え始めていた。

しかし、その一方で、奏は自分の行動が椎名を心配させてしまっていることに気付き、複雑な思いを抱えながら図書館を後にした。自分のアートへの情熱と受験勉強の間で揺れ動く奏の心は、静かに次の一歩を踏み出す準備をしていた。

奏の部屋は夜の静けさに包まれていた。読書灯の下、借りてきた本を開くと、奏の心は再びそのページに吸い込まれるように没入した。本の中の言葉は、奏の内面に深く響き、彼女のアートに対する情熱と創造性を刺激する。

「アートと心の交差点」では、アートがただ形として存在するだけでなく、創作者の内面と深く関わり、観る人の心に直接語りかけるものであると語られていた。この新しい考え方は、奏にとって目から鱗の発見だった。それは彼女のアートに対する取り組み方に、新しい光を投げかけるものだった。

夜更けになり、部屋の中は静かで、読書灯の光だけが奏の存在を照らしていた。しかし、その静寂の中で、奏の心と思考は活発に動いていた。これまでの作品を振り返りながら、新たなアイデアが心の中で芽生え始める。

この本を通じて、奏は自分のアートに対する理解を深め、新しい創作の道を模索し始めた。しかし、この創造的な高揚感とは裏腹に、受験勉強に割くべき時間が削られていくことへの罪悪感も心の隅に潜んでいた。

奏は読書灯を消し、ベッドに横たわる。部屋は暗く静かだったが、奏の心は明るく燃えていた。明日からの受験勉強とアート作品への取り組みのバランスをどうとるか、その答えを模索しながら、奏は新たな一日を迎える準備をしていた。