「桜の下の禁じられたメロディ」

第5章: 卒業への軌跡 - それぞれの道へ

話１５：心の緩みと危機

12月、冬の寒さが深まり、受験日が迫ってきた。奏、椎名、香奈、美雪の4人はそれぞれに緊張と期待が交錯する中、受験勉強に追い込みをかけていた。

奏はアート教室の活動を一時休止し、受験勉強に集中していた。アートへの情熱は心のどこかで燃え続けていたが、現実の厳しさに直面していた。図書館での勉強、自宅での復習、そして椎名と一緒に過ごす時間。奏は時間の使い方に一層気を配り、一秒一秒を大切にしていた。

椎名もまた、国立大学を目指す厳しさに直面しながら、勉強に没頭していた。しかし、奏との関係を大切に思う気持ちは変わらず、二人での勉強時間はお互いにとって最大の癒しとなっていた。

香奈は料理教室の先生との特訓を続けながら、料理に関する専門学校の入試に向けて努力を重ねていた。コンテストでの経験は彼女に大きな自信と学びを与え、さらなる高みを目指す原動力となっていた。

美雪は医学部入試の難しさに直面しつつも、不屈の意志で毎日の勉強に打ち込んでいた。香奈との時間は限られていたが、お互いの支え合いが二人の関係をより強固なものにしていた。

勉強、将来への夢、そしてお互いへの思い。4人それぞれが、自分の道を切り開くために、静かなる闘いを続けていた。そして、その戦いは、過酷で、時には寂しく、時には切ないものだった。

この冬、彼女たちの青春は、受験という名の試練を乗り越え、新たな一歩を踏み出す準備をしていた。

奏は勉強に集中しようとするものの、心のどこかでアートへの情熱がくすぶり続け、完全には集中できていない状態だった。そんな中、ふとした気分転換にとコンビニへ向かうことにした。

コンビニの明るい灯りの下、奏は必要なものを手早く選び、レジで会計を済ませる。冬の寒さが身にしみる中、自宅に戻る道を歩き始めたそのとき、奏の周囲に微妙な緊張感が漂い始める。普段と変わらないはずの道だったが、何かが違うような感覚が奏を襲う。

歩を進めるごとに、その感覚はより明確なものになり、奏の心はふとした危険を感じ取る。しかし具体的に何が危険なのかは、まだ奏には分からない。ただ漠然とした不安が確実に包み込んでいた。

奏が足早に帰路を急ぐ中、その不安は次第に強い警鐘となり、彼女の感覚を研ぎ澄ませていた。それでも、具体的な危険の形は見えず、ただ無形の重圧が彼女を包む。そんな中、大通りに差し掛かった瞬間、事態は急転する。

奏の耳に、車のエンジン音が異様に大きく響き、その異変に背筋が凍る。直感的に危険を感じ取った奏は、反射的に体をよけようとするものの、時間はもう残されていなかった。一瞬の間に、飲酒運転と思われる車が、奏の方向に暴走してきたのだ。

奏の世界は一瞬で静止し、光と音が渦巻く中で、彼女の意識は現実から切り離される。衝撃と共に、奏の体は無様に吹き飛ばされ、冷たいアスファルトの上に叩きつけられる。

周囲にいた人々は一瞬凍りつき、その後慌てて奏の元に駆け寄る。誰かが救急車を呼び、また別の誰かがパトカーに通報する。現場は混乱と緊張で包まれ、夜の闇を照らす赤と青の光が交錯する。

救急車のサイレンとパトカーのサイレンが鳴り響き、人々の声が重なり合いながらも、奏の意識は遠ざかる。ゆっくりと目を閉じ、彼女の心はただ椎名との思い出に包まれていた。痛みも、恐怖も、そして現実も、すべてが遠い世界の出来事のように感じられる。

奏の受験、彼女のアートへの情熱、そして何よりも、奏と椎名の未来。この事故は、これらすべてにどのような影響を及ぼすのか。奏の運命は、一体どのような道を辿るのか。それはまだ誰にも分からない。