「桜の下の禁じられたメロディ」

第5章: 卒業への軌跡 - それぞれの道へ

話１７：緊急の連絡網

椎名は息を切らせながら病院の入口に到着する。病院の冷たい空気が、椎名の熱い心を包み込む。途中、香奈にも状況を伝え、急ぐように言っておいた。香奈は美雪にも連絡を取り、3人で病院に集まることになっていた。

しかし、病院に着いてもすぐに奏に会うことはできない。治療が続いており、外からただ待つしかなかった。椎名は、先ほどの看護師に案内される。看護師は静かに質問する。「親御さんと連絡は取れますか？」しかし、椎名も奏の家庭の事情を知っている。奏は親と別に生活をしており、連絡先も知らない。

椎名はそれを説明するが、言葉がうまく出てこない。「奏は…親御さんとは…」と言葉を詰まらせる。看護師は椎名の状況を察し、優しく言葉をかける。「わかりました。今はこちらで最善を尽くしていますので、少しお待ちください。」

椎名は廊下のベンチに腰を下ろし、ただただ時間が過ぎるのを待つ。心の中は乱れ飛ぶ思いで満たされていた。奏の笑顔、奏と過ごした時間、そして今この瞬間、奏が病室の中でどんな思いでいるのか。椎名の心は奏に向かって叫んでいる。「奏、どうか無事でいて…」そして、その想いは病院の廊下を、静かに、しかし確かに満たしていた。

椎名と美雪は、病院の待合室で静かな緊張感を共有しながら座っていた。周囲には、他の患者や家族が心配そうに話し合っている。そんな中、看護師が再び近づき、椎名たちに声をかける。「保護者の方に連絡できるかたはいらっしゃいませんか？」

椎名は奏の家庭の事情を思い出し、少し言葉を詰まらせながら答える。「奏は、親御さんとは…離れて生活していて、私たちも連絡先は知りません。」

看護師は椎名の言葉を静かに聞き、「分かりました。では、奏さんの学校の先生に連絡を取っていただけますか？先生を通して保護者の方に連絡が取れるかもしれません。」

椎名は頷き、すぐにスマートフォンを取り出し、学校の先生に連絡を取ろうとする。一方、美雪も椎名を支えるように寄り添い、「大丈夫、奏は強い子だから。」と力強く言葉をかける。

椎名は先生に電話をかけ、事情を説明する。先生は驚きながらも「すぐに手配します。奏のご家族にも連絡を取りますので、少々お待ちください。」と返事をする。

電話を切った後、椎名と美雪は再び待合室のベンチに座る。周囲のざわめきが耳に入るが、二人の心は奏への想いでいっぱいだった。そして、二人の心の中では、無言の祈りが続いていた。

病院の待合室は、静かな緊張感とともに、時折聞こえる足音や会話が響いていた。椎名と美雪、そして後から合流した香奈は、奏の状態について何も知らされずに、ただただ時が経つのを待っていた。そんな中、椎名のスマートフォンが震え、学校の先生からの連絡が入る。

先生の声は心配と急ぎの感情が混じり合っていた。「奏さんのご家族には連絡が取れましたが、今すぐには来れないそうです。ですので、私が今から病院に向かいます。もう少しの間、奏さんをお願いできますか？」

椎名は、「はい、わかりました。先生、ありがとうございます」と返事をする。電話を切ると、香奈と美雪にもその内容を伝えた。

香奈は心配そうに「奏、大丈夫かな…」とつぶやく。美雪は、香奈の肩に手を置き、「心配しないで、奏は強いから。きっと大丈夫だよ」と励ます。

三人は静かにお互いの存在を感じながら、教師が到着するのを待ち続ける。それぞれの心の中では、奏への願いが静かに、しかし強く渦巻いていた。そして、その想いは、徐々に病院の静かな空気の中で一つになり、奏への無言の支えとなっていた。