「桜の下の禁じられたメロディ」

第5章: 卒業への軌跡 - それぞれの道へ

話18：共に支え合う絆

病院の待合室に先生が到着し、椎名、香奈、美雪と合流した。先生の表情は心配と疲労が混在していた。椎名は、先生に奏の状況を尋ねられ、「まだ詳しいことはわかりません。治療中とだけ聞いています」と答えた。

先生はうなずきながら、「命に別状はないと聞いているが、詳細がわからないのは気がかりだね」と言い、病院の静けさの中で不安を隠せない表情を浮かべた。

その時、香奈が先生に疑問を投げかけた。「先生、奏さんのご家族はなぜすぐにここへ来られないんですか？もしかして、奏さんと何かあったんですか？」

先生は一瞬言葉を失い、深いため息をついた後、真剣な表情で香奈に答えた。「奏さんは家族とは複雑な関係にあるんだ。今は詳しいことは言えないが、ただ、奏さんは今はひとりで頑張っているんだよ。だからこそ、私たちが支えてあげないとね。」

香奈は先生の言葉に心を打たれ、美雪も椎名も静かに頷いた。奏が孤独と闘いながらも夢に向かって努力している姿は、周りの人々にも強い影響を与えていた。それぞれの心には、奏へのさらなる支援の想いが高まっていった。

診察室から現れた医師の表情は、厳粛さと同時に、やや安堵の色も混じっていた。椎名、先生、香奈、美雪は息を呑み、医師の言葉に耳を傾けた。

「奏さんの状態ですが、予想より頭部に受けた衝撃が大きかったようです。現時点で意識は戻っていません。」医師の声は落ち着いてはいたが、その言葉の重さに、一同の心は重く沈んだ。

医師は続ける。「ただ、脳波検査の結果、重篤な脳の損傷や脳挫傷の兆候は見られませんでした。一時的な意識不明の状態にあると考えられます。しばらくは病院でしっかりと観察し、安静にしていただく必要があります。」

椎名は医師の言葉を聞きながら、奏の安全を願う心と、会えない焦りが交錯し、複雑な感情に包まれた。先生も、香奈も、美雪も、それぞれの心に奏への想いが深く刻まれていった。

医師は「今は待つしかありませんが、奏さんが戻ってくることを信じて、側で支えてあげてください」と優しく言い、再び診察室へと戻っていった。

病院の待合室は静かなる待機の時間が続き、奏の回復をただただ願うしかない状況に、一同はただ黙々と時間を過ごすしかなかった。

先生の車は病院の駐車場を静かに離れ、夜の街を走り始めた。車内では、病院の待合室と同じように重い沈黙が流れていた。それぞれの心には奏への思いや、先の見えない不安が渦巻いていた。

しばらく沈黙が続いた後、椎名の小さな声が車内に響いた。「先生、奏が目を覚ましたら、私たちが常にそばにいるって伝えてください。奏が、一人じゃないってこと、必ず感じてほしいんです。」

その言葉に、先生は優しく微笑んだ。「もちろんだよ。奏にはたくさんの人が支えているってこと、必ず伝えるよ。」

香奈と美雪も椎名の言葉に心を打たれ、声を合わせて「私たちも一緒にいるよ」と力強く言った。先生はそんな三人の絆に感じ入りながら、夜の道を車で静かに進めていった。

車内で交わされた言葉は、奏への深い愛と絆を象徴していた。それは、奏が目を覚ましたとき、きっと彼女の心に届くことだろう。夜は深く、街の灯りはぼんやりと車窓の外に流れていった。その中で、一同は奏の回復を心から願い、また新たな日の訪れを待っていた。