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第12話:再会の街、届かなかった『ただいま』
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由香里さんが退職してからも、僕たちはLINEでのやり取りを続けていた。
近況を報告し合い、時には冗談を交えながら、距離はあっても心は繋がっているように感じていた。
再就職して間もなく、僕は由香里さんの住む清水市へ向かい、直接報告をした。懐かしさが込み上げ、その日は彼女の実家に泊めてもらった。
病床に伏していたお母さんの様子を気遣いながらも、由香里さんと過ごした夜は、静かで温かく、言葉にできないほど深い時間だった。
◇◆◇
それから三年が過ぎた。
僕は社内の女性と恋をして、そして失恋も経験した。
泣いたり笑ったり、そんな日々の中で、由香里さんもきっと僕の知らないところで、いろいろな出来事があったのだろう。
就職して四年目。
突然、清水市への出張命令が出た。
「お前、ちょっと出張してくれ」
課長の一言で、僕は三年ぶりに由香里さんの住む町へ向かった。
仕事は早々に片付け、夕方には由香里さんの実家を訪ねるつもりでいた。再会の期待に胸を膨らませながら。
けれど、彼女の家の前に停まっていたのは、見慣れない黒い高級車。後部ドアが開き、スーツ姿の紳士が降りてきて、インターフォンを鳴らした。
ドアが開き、由香里さんが満面の笑みでその男性を迎え入れた。
その様子を見届けるように、黒いレクサスは静かに走り去っていった。
僕はそのテールランプを見つめながら、しばらく彼女の家の前に佇んだ。
もう一度、玄関を見上げてから、僕は駅へと足を向けた。
あの日、退職の朝に「さようなら」を言わなかった由香里さん。
代わりにくれた「行ってらっしゃい」という言葉に、僕は「ただいま」と返したかった。
でもその言葉は、もう届かない場所にあるような気がして、胸の奥が静かに痛んだ。
― 了 ―
近況を報告し合い、時には冗談を交えながら、距離はあっても心は繋がっているように感じていた。
再就職して間もなく、僕は由香里さんの住む清水市へ向かい、直接報告をした。懐かしさが込み上げ、その日は彼女の実家に泊めてもらった。
病床に伏していたお母さんの様子を気遣いながらも、由香里さんと過ごした夜は、静かで温かく、言葉にできないほど深い時間だった。
◇◆◇
それから三年が過ぎた。
僕は社内の女性と恋をして、そして失恋も経験した。
泣いたり笑ったり、そんな日々の中で、由香里さんもきっと僕の知らないところで、いろいろな出来事があったのだろう。
就職して四年目。
突然、清水市への出張命令が出た。
「お前、ちょっと出張してくれ」
課長の一言で、僕は三年ぶりに由香里さんの住む町へ向かった。
仕事は早々に片付け、夕方には由香里さんの実家を訪ねるつもりでいた。再会の期待に胸を膨らませながら。
けれど、彼女の家の前に停まっていたのは、見慣れない黒い高級車。後部ドアが開き、スーツ姿の紳士が降りてきて、インターフォンを鳴らした。
ドアが開き、由香里さんが満面の笑みでその男性を迎え入れた。
その様子を見届けるように、黒いレクサスは静かに走り去っていった。
僕はそのテールランプを見つめながら、しばらく彼女の家の前に佇んだ。
もう一度、玄関を見上げてから、僕は駅へと足を向けた。
あの日、退職の朝に「さようなら」を言わなかった由香里さん。
代わりにくれた「行ってらっしゃい」という言葉に、僕は「ただいま」と返したかった。
でもその言葉は、もう届かない場所にあるような気がして、胸の奥が静かに痛んだ。
― 了 ―
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