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第11話 勤務45日目:退職の前夜、静かに交わされた約束と涙
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由香里さんが退職すると聞いた時、一瞬「水臭い」と思った。
でも、彼女の立場になって考えれば、言い出せなかった気持ちも分かる気がして、僕は責めなかった。
それよりも、元気でお母さんを看てほしい――その思いが強かった。
だから僕は、由香里さんが辞めるなら、この自然食品店に留まる意味はないと感じて、僕も辞めることを伝えた。
由香里さんは「せっかくいろいろ覚えたんだし、新しい店長が来たら助かるから、一緒にやってほしい」と言ってくれた。
でも僕は、「由香里さんがいないなら、続ける意味がない」と頑なに答えた。
彼女は少し黙った後、静かに頷いてくれた。
仕事が終わった後、スーパーでお弁当を買って、僕のアパートへ。
食事を済ませた後、一緒に風呂に入り、湯船に浸かった。
何だか涙がこみ上げてきて、由香里さんは僕の首に腕を回し、そっとキスをしてくれた。
唇を離した彼女の目にも、涙が溜まっていた。
「和也君、ごめんね」と、優しく言った。
風呂から出て、バスタオルで拭き合いながら、僕たちはベッドへ。
でもその夜は、抱き合うことよりも、腕枕で思い出を語り合う時間が大切だった。
僕は一つだけ、由香里さんに訊いた。
「僕が他の会社に正社員で就職しても、会いたくなったら行ってもいいですか?」
由香里さんは目を赤くしながら、「待ってるから。いつでも来て」と答えてくれた。
彼女の部屋の荷物はすでにトラックで実家へ向かっていて、旅人のように最低限の荷物だけを持って、僕の部屋に来てくれた最後の夜だった。
僕は、もう会えないかもしれない由香里さんの姿を脳裏に焼き付けようとしていた。
彼女の匂い、声、笑顔――すべてを記憶に留めておきたかった。
「和也君……ありがとう」
その言葉に、僕は胸がいっぱいになった。
由香里さんは、少し豪快に笑って「こんな年上姉さんと付き合ってくれて、ありがとうね」と言った。
その笑いは、何かが吹っ切れたようで、今まで見たことのない彼女の表情だった。
そして、いつの間にか朝まで眠っていた。
翌朝、由香里さんが初めて焼き魚と味噌汁、出汁巻き玉子の朝食を作ってくれた。
涙が出るほど美味しかった。
食後にお茶を飲みながら、由香里さんは微笑んで「行ってらっしゃい。最後の仕事、頑張ってね」と言い、僕の肩と腕をポンポンと叩いた。
一緒にアパートを出て、階段を下り、道路に出たところで僕は振り返った。
由香里さんは満面の笑みで手を振っていた。
「さようなら」と言わない演出が、かえって胸に響いた。
手を振った後、一礼してスーパーに向かって歩いていく彼女の背中を見ながら、僕もその日を最後に僕は自然食品店を辞めた。
電車の中から、由香里さんがLINEをくれた。
「涙が溢れて、必死で我慢したよ」
その一文が、僕の胸に深く残った。
つづく。
でも、彼女の立場になって考えれば、言い出せなかった気持ちも分かる気がして、僕は責めなかった。
それよりも、元気でお母さんを看てほしい――その思いが強かった。
だから僕は、由香里さんが辞めるなら、この自然食品店に留まる意味はないと感じて、僕も辞めることを伝えた。
由香里さんは「せっかくいろいろ覚えたんだし、新しい店長が来たら助かるから、一緒にやってほしい」と言ってくれた。
でも僕は、「由香里さんがいないなら、続ける意味がない」と頑なに答えた。
彼女は少し黙った後、静かに頷いてくれた。
仕事が終わった後、スーパーでお弁当を買って、僕のアパートへ。
食事を済ませた後、一緒に風呂に入り、湯船に浸かった。
何だか涙がこみ上げてきて、由香里さんは僕の首に腕を回し、そっとキスをしてくれた。
唇を離した彼女の目にも、涙が溜まっていた。
「和也君、ごめんね」と、優しく言った。
風呂から出て、バスタオルで拭き合いながら、僕たちはベッドへ。
でもその夜は、抱き合うことよりも、腕枕で思い出を語り合う時間が大切だった。
僕は一つだけ、由香里さんに訊いた。
「僕が他の会社に正社員で就職しても、会いたくなったら行ってもいいですか?」
由香里さんは目を赤くしながら、「待ってるから。いつでも来て」と答えてくれた。
彼女の部屋の荷物はすでにトラックで実家へ向かっていて、旅人のように最低限の荷物だけを持って、僕の部屋に来てくれた最後の夜だった。
僕は、もう会えないかもしれない由香里さんの姿を脳裏に焼き付けようとしていた。
彼女の匂い、声、笑顔――すべてを記憶に留めておきたかった。
「和也君……ありがとう」
その言葉に、僕は胸がいっぱいになった。
由香里さんは、少し豪快に笑って「こんな年上姉さんと付き合ってくれて、ありがとうね」と言った。
その笑いは、何かが吹っ切れたようで、今まで見たことのない彼女の表情だった。
そして、いつの間にか朝まで眠っていた。
翌朝、由香里さんが初めて焼き魚と味噌汁、出汁巻き玉子の朝食を作ってくれた。
涙が出るほど美味しかった。
食後にお茶を飲みながら、由香里さんは微笑んで「行ってらっしゃい。最後の仕事、頑張ってね」と言い、僕の肩と腕をポンポンと叩いた。
一緒にアパートを出て、階段を下り、道路に出たところで僕は振り返った。
由香里さんは満面の笑みで手を振っていた。
「さようなら」と言わない演出が、かえって胸に響いた。
手を振った後、一礼してスーパーに向かって歩いていく彼女の背中を見ながら、僕もその日を最後に僕は自然食品店を辞めた。
電車の中から、由香里さんがLINEをくれた。
「涙が溢れて、必死で我慢したよ」
その一文が、僕の胸に深く残った。
つづく。
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