現(うつつ)の夢

しらかわからし

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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年

第6-2話 風の寺子屋で出逢った日

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龍児は自身を名乗り麗よりも若くて小五で、東京に住んでいて、この夏休みを利用して母方の祖父母の家に遊びに来ていると説明した。

「この寺子屋、良く来るの?」と麗。

「あ、うん。だいたい毎日ね」 と龍児。

「じゃあ、また逢えるかもしれないね?」と麗。

 龍児の優しい笑顔に、麗は思わず真っ赤になった。麗は帰宅して直ぐに母親に龍児の事を話し、その後もずっと彼の事が頭から離れず、食事中もボーッとして、母親から「好きになるにはまだ早いんじゃない?」と笑われた。

 龍児は妖怪あやかしの子供だが、イケメンであり、スポーツ万能であり、頭脳明晰だった。それは綾香の算数の問題を見ただけでスラスラと答えを出すぐらいだ。

麗の部屋にポスターが張って逢って、当時の好きなアイドルグループの嵐の松本潤と大野智を足して二で割り、ちょっと不良がかった雰囲気を持ちあわせていながら、松本の甘いマスクのイケメンに変身していた。

 ただ麗にとっては、ずっと昔から知っているような、不思議な安心感や親近感を覚えていた。つまり龍児の魔術は相手の好きな容姿に幾らでも変える事が出来るという優れた特技を持ちあわせていたのだ。

 麗が小さい頃に憧れた従兄の良純にも、似ていた所為かもしれず、 従兄は麗より五歳上ですが、十代後半で落ち着いてしまった当時の彼でなく、幼稚園生だった麗が思いを寄せた小学生時代の従兄という感じだった。

 翌日、開館時刻を待ちかねるように、麗は勉強道具を抱え寺子屋に行った。麗は東京で叔母が買ってくれたお気に入りのフレアースカートを穿きブラウスを着て、髪もいつもより念入りにセットし自分でおかしくなるほど気合いを入れた。

 朝一番の寺子屋に、居るのは受験生ばかりだった。誰かが教室に入ってくる度、ハッとして入り口を見る麗を自分で失笑した。

「また会ったね?」と、優しく言った龍児が来たのは昼過ぎで彼の顔を見た瞬間、麗は心臓がドキドキして頬がカーッと熱くなるのが分かった。

 前日と同様、閲覧室で並んで読書してから、寺子屋脇のベンチで少し話した。 その後、龍児が、「少し歩こうか?」と言い出し二人で出掛けた。

(これはもしかしてデートなの?)と麗は自分に問い掛けながら、まるで雲の上を歩くようにフワフワした気分だった。

 日が傾いた頃、川縁の石橋の上に並んで腰掛けて様々な話をした。テンションが高かったのか、麗は驚くほど饒舌だった。龍児は穏やかな笑顔で、麗の取りとめもない話しを聞いていた。

普段は大人しくて引っ込み思案だから、もう少し淑やかに振る舞えばと恥ずかしくなったが、 彼ならどんな話も受け止めてくれそうに思え、更にこの機会を逃したらという焦りもあった。

「じゃあ俺、そろそろ帰るね」
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