現(うつつ)の夢

しらかわからし

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第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

第17話:業界の裏側と支配人の思い

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龍児は、女性との関係にお金を払うことに抵抗があった。周囲には親しくしてくれる女性が多く、特別な言葉を交わさずとも自然と距離が縮まることが多かったため、わざわざ対価を払ってまで関係を築く必要性を感じていなかった。

そんな龍児に、ある日風俗店の支配人が声をかけてきた。「龍児、この業界で働くなら、現場を体験しておかないとダメだぞ」。支配人の言葉は、業界の仕組みを理解するための助言だったが、龍児は少し戸惑った。彼は風俗業界でキャリアを積むつもりはなく、社長のもとで誠実に働ければそれで十分だと思っていた。

それでも、支配人が費用を負担してくれるということで、龍児は一度だけ同行することにした。訪れたのは、当時「トルコ」と呼ばれていた店舗。現在で言うところのイメージクラブに近く、客の空想や願望をテーマにした接客スタイルが特徴だった。

店内には、看護師や女子高生、オフィスレディ、ウェイトレスなど、さまざまな制服が用意されており、客は好みの衣装とシチュエーションを選び、スタッフと会話や演技を楽しむ。龍児は、こうした演出が単なる娯楽ではなく、客の心の奥にある願望や癒しを形にする場なのだと感じた。

龍児が選んだのは、年齢が高めのスタッフだった。彼は年上の女性に安心感を覚えるタイプで、落ち着いた雰囲気の接客を望んでいた。担当してくれたのは美紀さんという女性で、彼女は業界の仕組みや客の傾向について丁寧に説明してくれた。

「この仕事は、ただの接客じゃないんです。お客様の“心の居場所”になることが求められるんですよ」と美紀さんは語った。龍児はその言葉に深く頷いた。確かに、現実では叶わないことも、この空間では許される。そこにこそ、この業界の独特な価値があるのかもしれない。

支配人の話題になると、美紀さんは少し笑いながら「支配人はね、妹のように接するのが好きみたい」と教えてくれた。龍児はその言葉に、かつて支配人が姉の美奈子と親しくしていた頃のことを思い出した。もしかすると、あの頃も同じように、守りたい存在として接していたのかもしれない。

この体験を通して、龍児は業界の表と裏、そして人の心の複雑さを少しだけ理解した気がした。一般社会では許されないような願望も、ここでは演出として受け止められ、誰かの癒しになっている。そうした空間があることを、龍児は否定する気にはなれなかった。

その日の夜、龍児はいつものように外国人クラブへ出勤した。昼間の体験が頭に残りながらも、彼は自分の持ち場で黙々と働いた。人の心は複雑で、誰もが何かを抱えている——そのことを、龍児は少しずつ学び始めていた。
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