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第1話:娘の帰郷と60歳の男性生徒
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それは、昨年の出来事だった。
長女である三島久美は、そのとき二十八歳。彼女は二十四歳のときに、音大の同級生だった男性と親の反対を押し切って結婚した。しかし、結婚生活は二年に満たない期間で終わった。性格の不一致が原因だった。久美は離婚し、実家に戻った。
実母が急逝したため、久美は実家に戻った。
彼女は、月に一度、土曜日の午前に訪れる生徒のピアノレッスンを担当した。
久美は音大を卒業した後、フリーランスのフルート奏者として活動していた。その活動の傍ら、週に一度だけ自宅でピアノを教えた。
久美自身には、元々ピアノを教えるつもりはなかった。きっかけは、娘の友人である父親からの依頼を受けたのがきっかけだった。その男性は、もう直ぐ定年退職を迎えるためです。彼は、趣味の一つを持ちたいと久美に頼み込んだ。
その生徒とは、六十歳の男性。彼は、娘の友人の父親、山本という人物だった。
久雄の妻は既に他界していたことで愛娘の久美は、とても優しい娘だった。仕事がないときには、家で家事なども手伝ってくれた。久美は自分の友人に対し、父の久雄を恋人のように思っていると話していた。
久美のその言葉は、娘の友人を介して久雄の耳に届いていた。久雄はそれを聞き、ひどく喜んでいた。
久雄は、娘が音大に入学した際、お祝いのプレゼントを用意した。娘のレッスン室を防音壁に改装したのだ。
久雄と久美の父子と、娘の友人の父親である山本一家は、互いに家を行き来する仲でとても親しく交流していた。
彼らは一緒に外食をし、カラオケにも行き、温泉旅行なども共にする間柄だった。
久雄は、山本が以前から久美のことをとても気に入っていることに気づいていた。それは、ただの親愛の情とは異なるものだった。
ただ、久美は山本に対して警戒心を抱いているようで、山本は、やや品のない冗談を口にする部分があったためだ。父親として、久雄は娘の様子を心配していた。
以前、二家族で温泉旅行に行った夜のこと。酒を飲んだ後、カラオケに行き、山本は酔った勢いで口が滑り久雄の耳元でこっそり囁いた。
「いやあ、お嬢さんの久美さんは、本当に妖艶で愛らしいですねえ……」
山本の声は、酒に濡れた粘り気を帯びていた。
彼は、一瞬、遠くを見るような目で言った。「うちの娘と、入れ替えられたらなあ…」
それは冗談めいた言葉だった。娘が褒められるのは、父親として悪い気はしないが。しかし、山本の言い方には、久美をただならぬ熱を帯びた思惑で見つめる視線を感じた。
久雄は軽く受け流した。「山本さん、勘弁してくださいよ」と冗談めかして笑い、受け答えを済ませた。
山本は「冗談ですけどね」と言って笑った。しかし、その時に発された言葉は、久雄の記憶に深く残った。その眼差しの奥にある、艶めかしい欲望を久雄は感じ取っていた。
その山本が、ピアノを習いたいと申し出た。そして、久雄の自宅に生徒として通うことになった。
まさか、こんな展開になるとは久雄も思ってもいなかった。しかし、生徒として習いに来る以上、仕方ないと思ってあきらめていた。久雄はピアノ教室を経営しているわけではなかった。娘に「山本さんはやめなさい」と言うのは、筋が通らなかった。
久美の教室には、他にも何人か大人の男性が生徒として習いに来ていた。山本だけを特別に取り上げて、問題視することもないと考えていた。
しかし、ただ一点、久雄には気がかりなことがあった。久美は山本が自宅に来る日だけ、いつもと雰囲気が違ったからだ。彼女は静かな緊張感を纏っていた。久雄は、その様子から娘の微かな拒絶を感じ取っていた。
その張り詰めた空気が、これから毎週土曜の午前中を支配する予感がしていた。
つづく
長女である三島久美は、そのとき二十八歳。彼女は二十四歳のときに、音大の同級生だった男性と親の反対を押し切って結婚した。しかし、結婚生活は二年に満たない期間で終わった。性格の不一致が原因だった。久美は離婚し、実家に戻った。
実母が急逝したため、久美は実家に戻った。
彼女は、月に一度、土曜日の午前に訪れる生徒のピアノレッスンを担当した。
久美は音大を卒業した後、フリーランスのフルート奏者として活動していた。その活動の傍ら、週に一度だけ自宅でピアノを教えた。
久美自身には、元々ピアノを教えるつもりはなかった。きっかけは、娘の友人である父親からの依頼を受けたのがきっかけだった。その男性は、もう直ぐ定年退職を迎えるためです。彼は、趣味の一つを持ちたいと久美に頼み込んだ。
その生徒とは、六十歳の男性。彼は、娘の友人の父親、山本という人物だった。
久雄の妻は既に他界していたことで愛娘の久美は、とても優しい娘だった。仕事がないときには、家で家事なども手伝ってくれた。久美は自分の友人に対し、父の久雄を恋人のように思っていると話していた。
久美のその言葉は、娘の友人を介して久雄の耳に届いていた。久雄はそれを聞き、ひどく喜んでいた。
久雄は、娘が音大に入学した際、お祝いのプレゼントを用意した。娘のレッスン室を防音壁に改装したのだ。
久雄と久美の父子と、娘の友人の父親である山本一家は、互いに家を行き来する仲でとても親しく交流していた。
彼らは一緒に外食をし、カラオケにも行き、温泉旅行なども共にする間柄だった。
久雄は、山本が以前から久美のことをとても気に入っていることに気づいていた。それは、ただの親愛の情とは異なるものだった。
ただ、久美は山本に対して警戒心を抱いているようで、山本は、やや品のない冗談を口にする部分があったためだ。父親として、久雄は娘の様子を心配していた。
以前、二家族で温泉旅行に行った夜のこと。酒を飲んだ後、カラオケに行き、山本は酔った勢いで口が滑り久雄の耳元でこっそり囁いた。
「いやあ、お嬢さんの久美さんは、本当に妖艶で愛らしいですねえ……」
山本の声は、酒に濡れた粘り気を帯びていた。
彼は、一瞬、遠くを見るような目で言った。「うちの娘と、入れ替えられたらなあ…」
それは冗談めいた言葉だった。娘が褒められるのは、父親として悪い気はしないが。しかし、山本の言い方には、久美をただならぬ熱を帯びた思惑で見つめる視線を感じた。
久雄は軽く受け流した。「山本さん、勘弁してくださいよ」と冗談めかして笑い、受け答えを済ませた。
山本は「冗談ですけどね」と言って笑った。しかし、その時に発された言葉は、久雄の記憶に深く残った。その眼差しの奥にある、艶めかしい欲望を久雄は感じ取っていた。
その山本が、ピアノを習いたいと申し出た。そして、久雄の自宅に生徒として通うことになった。
まさか、こんな展開になるとは久雄も思ってもいなかった。しかし、生徒として習いに来る以上、仕方ないと思ってあきらめていた。久雄はピアノ教室を経営しているわけではなかった。娘に「山本さんはやめなさい」と言うのは、筋が通らなかった。
久美の教室には、他にも何人か大人の男性が生徒として習いに来ていた。山本だけを特別に取り上げて、問題視することもないと考えていた。
しかし、ただ一点、久雄には気がかりなことがあった。久美は山本が自宅に来る日だけ、いつもと雰囲気が違ったからだ。彼女は静かな緊張感を纏っていた。久雄は、その様子から娘の微かな拒絶を感じ取っていた。
その張り詰めた空気が、これから毎週土曜の午前中を支配する予感がしていた。
つづく
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