泡のように、生きる

しらかわからし

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第1章 パラサイトな二人の人生模様

第3話 歌声と視線の交錯

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「よし、歌おう!」  

常連の独身オヤジのひとりが声を上げると、店内はさらに賑やかさを増した。  
その流れの中で、別のオヤジが悟志に声をかけた。  
「悟志、お前も歌えよ」  

悟志は少し考えたあと、英語で『My Way』を歌った。  
静かに始まったその歌声は、店のざわめきの中でひときわ異彩を放ち、空気を少しだけ変えた。

「悟志、ズルいぞ! 一人だけ格好つけやがって!」  
ひとりのオヤジが、酔いに任せて汚い言葉を吐いた。  

悟志は軽く頭を下げて「すみません」と謝ったが、心の中では苦笑していた。  
オヤジ軍団は、五人の女性介護士たちを前に、さらにヒートアップしていた。

(この人たちが恋愛に発展することはないだろう)  
悟志は、そんな予感を抱いていた。  

もし女性たちにその気があるなら、もっと艶やかで、どこか挑発的な雰囲気を漂わせるはずだ。  

だが、彼女たちはそうではなかった。  
ただその場を楽しみ、仕事の疲れを癒すように笑い合い、最低限の距離と礼儀を保ちながら、穏やかに夜を過ごしていた。

時間が経つにつれ、店内の空気には少しずつ重さが混じり始めた。  
ひとりのオヤジが、気に入った女性にしつこく声をかけていた。  
その口調は泥酔のせいで乱れ、誠実さのかけらも感じられなかった。  

その場の空気が、少しずつ冷えていくのが悟志にもわかった。  
元々は気の弱い、憎めない男だったが、酒は人を変える。  
そして今夜は、女性たちの表情にも「そろそろお開きにしたい」という気配が見え始めていた。

悟志がトイレから戻ると、店の入り口近くで圭子が待っていた。

「さっきの『My Way』、とても上手だったし……感動したわ」  
「ありがとう」  
「疲れたでしょ?」  
「うん、途中までは楽しかったんだけどね。良かったら、二人でもう一軒行かない?」  
「えっ、連れて行ってくれるんですか?」  
「じゃあ、この会を閉めたら、ここに来て」  

悟志は煙草を吸わないが、店のマッチをポケットに入れていた。  
それを彼女に手渡すと、彼は席に戻り、飲み会を強引に締めにかかった。  

オヤジたちは名残惜しそうにグラスを傾けていたが、女性たちはどこか安堵したような表情で、すぐにタクシーに乗り込み、夜の街へと消えていった。

つづく

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