泡のように、生きる

しらかわからし

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第2章 若さは武器だった。だが老いは、物語になる

第28話 停電の夜と仮面のない会話

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 その夜、店は満席だった。週末の夜らしく、賑やかな笑い声とグラスの音が響いていた。アタシも、いつものように客の隣でウイスキーを注ぎながら、軽口を叩いていた。

 その時だった。突然、店内が真っ暗になった。

「えっ、停電?」

 誰かがそう言った。音楽も止まり、照明も落ち、空調の風も止まった。店内は一瞬、静寂に包まれた。

「皆さん、落ち着いてくださいね。外も停電みたいです」

 黒服の一人がスマホのライトをつけて、店内を照らした。アタシも、バッグから小さな懐中電灯を取り出した。

 車の免許の更新に行った時に安全協会に入会した時にもらった5センチほどの小さい物だった。こういう時のために、いつも持ち歩いている。

 客たちは、最初こそ戸惑っていたが、次第に静かに話し始めた。

「なんか、こういうのも悪くないね」

「昔のクラブって、こんな感じだったのかな」

 アタシは、キャンドルをいくつかテーブルに置いて、店内をほんのり照らした。電気のない空間は、どこか時間が止まったような感覚を与えてくれる。

「圭子さん、こういう時って、何話すんですか?」

 若い客がそう聞いてきた。アタシは少し考えてから答えた。

「じゃあ、今日は『嘘のない話』をしましょうか」

 電気がないと、顔の表情がよく見えない。だからこそ、言葉だけが頼りになる。アタシは、昔の恋の話をした。誰にも言ったことのない、直樹との思い出。

 他の客も、それぞれの『本音』を語り始めた。仕事の悩み、家族との距離、叶わなかった夢。

 停電の夜は、誰かの『仮面』をそっと外してくれる。1時間ほどして、電気が戻った。照明がつき、音楽が流れ、空調が再び動き出した。でも、誰もすぐには元のテンションに戻らなかった。

「なんか、さっきの方が良かったかも」

 誰かがそう言った。アタシも、少しだけ同じ気持ちだった。夜の街は、光に包まれているけれど、時には『闇』の中でこそ、人は本音を語る。

 あの停電の夜は、アタシにとって、忘れられない『静かな宴』だった。

 つづく

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