金蓮花をあなたに

雫石 ひな

文字の大きさ
5 / 15
第1幕  桜と紫苑

第2話 真夜中の電話

しおりを挟む
スマホの着信を告げる音で目を開ける。

時計を見ると、深夜2時。

何だか、もう既に懐かしい夢を見たな…。

3ヶ月前、なんの前触れもなく急に別れを告げられた夢。

何で、そんな夢を今更見たんだか…。

そんなことを考えてる間も鳴り続ける電話。


何となく、嫌な感じがする…。

普段、鳴ることのない時間帯の電話、見慣れない電話番号、夢見のせいっていうのもあるが…凄く嫌な感じ。

そして、そういう感は大概当たる。

深くため息をつき、電話をとる。

電話越しに嗚咽が聞こえ、嫌な予感は大きくなる。


「………もしもし。」

出した声は思いの外、固い声だった。

「あの………」

どちら様ですか?そう言いかけた時に聞こえてきた声は、何度か言葉を交わしたことがある女性の声だった。

それは、なんの前触れもなく突然別れだけを告げ、その後一切の連絡を絶った元恋人、桜井優人の母である人だった。

優人の母から告げられた内容に、電話で目が覚めたつもりでいたがまだ寝ぼけていたのかと思うくらい、頭が冷えきった。

「……………ぇ。」

長い間を置いた後に出たのは、聞こえるか聞こえないか位小さな声で、なんの意味も持たないものだった。

人はあまりにも衝撃が大きいと言葉が出なくなるって本当だったんだな…と、どこか違う視点の自分がいる私は、もしかしたら案外落ち着いているのかもしれない。

そう思ったが、告げられた内容は寝耳に水で、自分が驚いていないわけがなかった。その証拠に…

「す、すみません…あの、今…なんて?」

出した言葉は告げられた内容は分かっているはずなのに理解していなくて、出した声は今迄出したことがないくらい、掠れ、震えていた。

落ち着いて聞いて…と、もう一度告げられる、一度目と変わらない内容に、遂にスマホを落としてしまった。


………………………………………


………………………


…………



優人が、死んだ…?


たった二語。

主語と動詞。

簡単な問題なのに、誰も解けたことがないような難問のように思えた。

理解することを全身が拒否したかのように、動けなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...