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第1幕 桜と紫苑
第11話 妖精3姉妹登場
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「主様、ただいま戻りました。」
お客様が今夜はもう投身自殺をなさらないと判断し、主様の元へ戻る。と言っても、手紙を通して見ていただけなので、店内には居たのだけれど…。
「おかえり、クロート。華田様はどうでした?」
クロートが静かに椅子から立ち上がり、こちらを向く。様子から、間に合ったであろうことは何となく分かる。しかし、ちゃんと聞くまでは安心は出来ない…。
「怪しんでおられましたが、お受け頂けました。それと、やはり投身自殺を図るところだったようです。」
恐らく、あと一歩遅ければ間に合わなかったでしょう…。そう告げると主様は、一瞬痛ましそうに顔を顰めた後、ため息を吐き、安心なさった顔をされた。私達はもう長いこと主様と共に過ごしているが、私達は運命を司る者であるが故、元は人間であった主様のお考えやお気持ちを察することは出来ない。
「そう。それじゃぁ、お出迎えの準備しないとですね。」
よかった…。間に合わなかったら桜井様に合わす顔がないところでした。華田様が最終判断をどうなさるかは分からないけれど、生きる希望を与えられればよいのですが…
そう思案していると隣から楽しそうな声が聞こえてきた。
「ふふふ、今度のお客様はどっちの道を選ぶかなぁ?♪モルとしては……ふふ、ふふふふふ♪」
この子はモルタ。私と契約している妖精の末っ子です。楽しそうなことを感じとると直ぐに表に出てくるのです。そして、つまらないと感じると直ぐに代わってしまうとても素直な子です。可愛らしいでしょ?
「モルタ、いつ変わったのですか?」
「今だよ、いーま!ふふふ♪」
「はぁ…。まだ出番じゃないですよ?ラケシスと代わってください。」
出てきたところ申し訳ないのですが、今はラケシスに用事があるんです。そう説明すると、モルタは少し不貞腐れてしまった。可愛いのですが、モルタはちょっと困った子なんです。
「むぅー…主、モルにだけ冷たくない?ねぇ、冷たくなーい?」
「気のせいですよ、気のせい。いつも、お客様を困らせるからとか思ってないですよー。」
そう。モルタは人を悩ませることが好きなんです。
というか、人が悩んでいる姿を見ることが好きなんです。
「ちぇー。ちょっと面白おかしくしてるだけなのにぃー。」
その、“ちょっと面白おかしく”で、何度大変なことになったか………はぁ…。
「人の運命に関することは、ちょっとでは済みません。ほら、早くラケシスと変わりなさい。」
「つまんないのー。はいよっ」
心底つまらなそうな顔をして、あっかんべーをしながらモルタは引っ込んでいった。………反抗期ですかね?
「とー。あ、る、じ、さ、まっ!やーっと会えたー!もー…モルタったらすぐ飛び出してくんだもんっ!何かを頼む時はいっつも、クロートだし!私、出番少ない!!」
モルタと入れ替わりでラケシスが出てきて香に抱きつきながら文句を言う。
「ラケシスのことも、ちゃんと頼りにしてるよ。いい子だから2人を迎える準備をして?ね?」
首筋に頭をグリグリと押し付けてくるラケシスに香は優しく頭を撫でながら話す。
「はーい!主様が撫でてくれたから、私、頑張るねっ!」
ラケシスが犬だったら、今はきっと耳はピーンと立って、尻尾がすごい勢いでブンブンと振られているだろう…。
「それではラケシス、華田様のお迎え、行ってきてくれますね?」
「うんっ!行ってきまーす!」
星が飛びそうなウインクをして、ラケシスは姿を消した。
「さて。私はもう1人のお客様……桜井様をお呼びしましょうかね…。」
香は呟くと懐中時計の針を反時計回りに3周回した。
お客様が今夜はもう投身自殺をなさらないと判断し、主様の元へ戻る。と言っても、手紙を通して見ていただけなので、店内には居たのだけれど…。
「おかえり、クロート。華田様はどうでした?」
クロートが静かに椅子から立ち上がり、こちらを向く。様子から、間に合ったであろうことは何となく分かる。しかし、ちゃんと聞くまでは安心は出来ない…。
「怪しんでおられましたが、お受け頂けました。それと、やはり投身自殺を図るところだったようです。」
恐らく、あと一歩遅ければ間に合わなかったでしょう…。そう告げると主様は、一瞬痛ましそうに顔を顰めた後、ため息を吐き、安心なさった顔をされた。私達はもう長いこと主様と共に過ごしているが、私達は運命を司る者であるが故、元は人間であった主様のお考えやお気持ちを察することは出来ない。
「そう。それじゃぁ、お出迎えの準備しないとですね。」
よかった…。間に合わなかったら桜井様に合わす顔がないところでした。華田様が最終判断をどうなさるかは分からないけれど、生きる希望を与えられればよいのですが…
そう思案していると隣から楽しそうな声が聞こえてきた。
「ふふふ、今度のお客様はどっちの道を選ぶかなぁ?♪モルとしては……ふふ、ふふふふふ♪」
この子はモルタ。私と契約している妖精の末っ子です。楽しそうなことを感じとると直ぐに表に出てくるのです。そして、つまらないと感じると直ぐに代わってしまうとても素直な子です。可愛らしいでしょ?
「モルタ、いつ変わったのですか?」
「今だよ、いーま!ふふふ♪」
「はぁ…。まだ出番じゃないですよ?ラケシスと代わってください。」
出てきたところ申し訳ないのですが、今はラケシスに用事があるんです。そう説明すると、モルタは少し不貞腐れてしまった。可愛いのですが、モルタはちょっと困った子なんです。
「むぅー…主、モルにだけ冷たくない?ねぇ、冷たくなーい?」
「気のせいですよ、気のせい。いつも、お客様を困らせるからとか思ってないですよー。」
そう。モルタは人を悩ませることが好きなんです。
というか、人が悩んでいる姿を見ることが好きなんです。
「ちぇー。ちょっと面白おかしくしてるだけなのにぃー。」
その、“ちょっと面白おかしく”で、何度大変なことになったか………はぁ…。
「人の運命に関することは、ちょっとでは済みません。ほら、早くラケシスと変わりなさい。」
「つまんないのー。はいよっ」
心底つまらなそうな顔をして、あっかんべーをしながらモルタは引っ込んでいった。………反抗期ですかね?
「とー。あ、る、じ、さ、まっ!やーっと会えたー!もー…モルタったらすぐ飛び出してくんだもんっ!何かを頼む時はいっつも、クロートだし!私、出番少ない!!」
モルタと入れ替わりでラケシスが出てきて香に抱きつきながら文句を言う。
「ラケシスのことも、ちゃんと頼りにしてるよ。いい子だから2人を迎える準備をして?ね?」
首筋に頭をグリグリと押し付けてくるラケシスに香は優しく頭を撫でながら話す。
「はーい!主様が撫でてくれたから、私、頑張るねっ!」
ラケシスが犬だったら、今はきっと耳はピーンと立って、尻尾がすごい勢いでブンブンと振られているだろう…。
「それではラケシス、華田様のお迎え、行ってきてくれますね?」
「うんっ!行ってきまーす!」
星が飛びそうなウインクをして、ラケシスは姿を消した。
「さて。私はもう1人のお客様……桜井様をお呼びしましょうかね…。」
香は呟くと懐中時計の針を反時計回りに3周回した。
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