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重なり合った唇は、愛を囁くためではなく、互いの存在を貪り食らうための器官と化していた。
「ん、……ふ、あ……っ」
互いの歯が当たるほどの激しさで、舌が絡み合い、唾液が糸を引いて溢れる。喉を焼くような渇望に突き動かされ、透月は玄の逞しい首筋に必死で縋り付いた。
玄の節くれだった大きな指先が、透月の端正な着物を容赦なく剥ぎ取っていく。絹の擦れる音と共に、行儀よく隠されていた透月の白い肌が、月明かりの下に無防備に晒された。 玄の熱い掌が、吸い付くように透月の脇腹から内腿へと滑り落ちる。
「あ……、玄……っ」
名前を呼ぶ声さえ、玄は深い口付けで強引に塞いだ。 玄の瞳は、もはや理性の光を失いかけていた。己の身分を呪い、煮え湯を飲む思いで想いを殺し続けてきた男の、極限の執着がそこにはあった。
玄は、透月の鎖骨から胸元にかけて、一生消えない痕を刻み付けたいという衝動に駆られる。喉を鳴らし、その白く清らかな肌に歯を立てようとした――。
(……いけない。明日には、このお方は国を背負う御身となるのだ)
玄の中に残る最後の一片の理性が、彼の動きを押し止めた。 婚礼を控え、他国の王族の目に晒される透月の体に、無慈悲な痕を残すわけにはいかない。それが主君を不当な立場に追い込み、傷つけることになると、玄の「忠誠」が警鐘を鳴らす。
玄は、噛み千切りたいほどの衝動を、震えるような愛撫へと無理やり変えた。 鋭く歯を立てる代わりに、熱い唇で、透月の柔らかな肌を吸い上げる。痣として残らぬよう、けれど透月の脳裏に消えない熱として刻まれるよう、細心の注意を払いながら、甘やかな痛みを点していく。
「……っ、玄……、もっと……!」
強まる透月の要求に、玄は苦悶の声を漏らした。 もっと深く、もっと無残に暴きたい。だが、手首を掴む指先は、決して肌を傷つけるほどには強くならない。
(……壊してしまいたい。……でも、貴方様を壊すことなど、私には出来ませぬ……)
それは、絶望的なまでの執着と、献身的なまでの慈しみ。 玄は、透月の細い指先を一本一本、慈しむように舌でなぞりながらも、その瞳には、今この瞬間だけは誰にも邪魔させないという、暗く淀んだ所有欲を宿していた。 理性の枷をあえて嵌めたまま、玄は自らを責めるように、けれど深く、透月の全てを味わい尽くそうと再び唇を重ねた。
「っ……ん、あ……っ!」
透月は、玄の広大な背中に深く爪を立て、その肉体に自身の存在を、消えぬ傷として刻み込もうと狂おしく指を動かす。 玄は、透月の細い指を一本一本、逃さぬように指を絡め取った。
「あ……、あ……っ!」
透月がのけ反り、声を上げた瞬間、透月の視界が白く弾ける。玄という存在に埋め尽くされていく恐怖と、得も言われぬ充足感。激しい情熱の渦の中で、透月はただ、ひたすらに泣き続けていた。 玄の逞しい腕に絡め取られ、逃げ場のない快楽の底へ突き落とされるたび、幸せと悲しみが綯い交ぜになって胸を締め付ける。
(ああ、このまま、夜が明けなければいいのに……。婚礼も、国も、未来も。すべて彼方に消えてしまえばいい。玄の腕の中で、このまま溶けて無くなってしまえばいいのに……)
玄の注ぎ込まれる熱に、透月は自身の輪郭が砕け、溶けていく感覚に陥る。
玄は、無言のまま透月を抱き続けた。 透月の柔らかな肌を、指の腹で、唇で、丹念に、そして執拗に辿り直す。その瞳には、主君を汚したという拭い去れぬ罪悪感と、それ以上の狂おしいまでの慈愛が光っていた。
窓の外では、夜明けを告げる鳥の声が微かに、けれど残酷に響き始めていた。 二人の時間は、砂時計の最後の一粒のように、さらさらと無慈悲に零れ落ちていく。けれど、この汗と情欲の香りが立ち込める暗闇の中だけは、二人は皇子でも従者でもなかった。ただ剥き出しの魂を削り合い、愛を貪り合う、孤独な一対の生き物だった。
「……あ、あぁ……っ、くろ、……玄……っ」
絶頂の果て、透月は魂の全てを吐き出すように玄の胸に顔を埋め、子どものように泣きじゃくった。玄の胸板に刻まれた昨夜の傷から、再び僅かな血が滲み、透月の涙と混じり合って赤く薄く広がっていく。
玄はその震える体を、何も言わず、ただ夜が白んでいくその瞬間まで、壊れ物を扱うような優しさで抱きしめ続けていた。
「ん、……ふ、あ……っ」
互いの歯が当たるほどの激しさで、舌が絡み合い、唾液が糸を引いて溢れる。喉を焼くような渇望に突き動かされ、透月は玄の逞しい首筋に必死で縋り付いた。
玄の節くれだった大きな指先が、透月の端正な着物を容赦なく剥ぎ取っていく。絹の擦れる音と共に、行儀よく隠されていた透月の白い肌が、月明かりの下に無防備に晒された。 玄の熱い掌が、吸い付くように透月の脇腹から内腿へと滑り落ちる。
「あ……、玄……っ」
名前を呼ぶ声さえ、玄は深い口付けで強引に塞いだ。 玄の瞳は、もはや理性の光を失いかけていた。己の身分を呪い、煮え湯を飲む思いで想いを殺し続けてきた男の、極限の執着がそこにはあった。
玄は、透月の鎖骨から胸元にかけて、一生消えない痕を刻み付けたいという衝動に駆られる。喉を鳴らし、その白く清らかな肌に歯を立てようとした――。
(……いけない。明日には、このお方は国を背負う御身となるのだ)
玄の中に残る最後の一片の理性が、彼の動きを押し止めた。 婚礼を控え、他国の王族の目に晒される透月の体に、無慈悲な痕を残すわけにはいかない。それが主君を不当な立場に追い込み、傷つけることになると、玄の「忠誠」が警鐘を鳴らす。
玄は、噛み千切りたいほどの衝動を、震えるような愛撫へと無理やり変えた。 鋭く歯を立てる代わりに、熱い唇で、透月の柔らかな肌を吸い上げる。痣として残らぬよう、けれど透月の脳裏に消えない熱として刻まれるよう、細心の注意を払いながら、甘やかな痛みを点していく。
「……っ、玄……、もっと……!」
強まる透月の要求に、玄は苦悶の声を漏らした。 もっと深く、もっと無残に暴きたい。だが、手首を掴む指先は、決して肌を傷つけるほどには強くならない。
(……壊してしまいたい。……でも、貴方様を壊すことなど、私には出来ませぬ……)
それは、絶望的なまでの執着と、献身的なまでの慈しみ。 玄は、透月の細い指先を一本一本、慈しむように舌でなぞりながらも、その瞳には、今この瞬間だけは誰にも邪魔させないという、暗く淀んだ所有欲を宿していた。 理性の枷をあえて嵌めたまま、玄は自らを責めるように、けれど深く、透月の全てを味わい尽くそうと再び唇を重ねた。
「っ……ん、あ……っ!」
透月は、玄の広大な背中に深く爪を立て、その肉体に自身の存在を、消えぬ傷として刻み込もうと狂おしく指を動かす。 玄は、透月の細い指を一本一本、逃さぬように指を絡め取った。
「あ……、あ……っ!」
透月がのけ反り、声を上げた瞬間、透月の視界が白く弾ける。玄という存在に埋め尽くされていく恐怖と、得も言われぬ充足感。激しい情熱の渦の中で、透月はただ、ひたすらに泣き続けていた。 玄の逞しい腕に絡め取られ、逃げ場のない快楽の底へ突き落とされるたび、幸せと悲しみが綯い交ぜになって胸を締め付ける。
(ああ、このまま、夜が明けなければいいのに……。婚礼も、国も、未来も。すべて彼方に消えてしまえばいい。玄の腕の中で、このまま溶けて無くなってしまえばいいのに……)
玄の注ぎ込まれる熱に、透月は自身の輪郭が砕け、溶けていく感覚に陥る。
玄は、無言のまま透月を抱き続けた。 透月の柔らかな肌を、指の腹で、唇で、丹念に、そして執拗に辿り直す。その瞳には、主君を汚したという拭い去れぬ罪悪感と、それ以上の狂おしいまでの慈愛が光っていた。
窓の外では、夜明けを告げる鳥の声が微かに、けれど残酷に響き始めていた。 二人の時間は、砂時計の最後の一粒のように、さらさらと無慈悲に零れ落ちていく。けれど、この汗と情欲の香りが立ち込める暗闇の中だけは、二人は皇子でも従者でもなかった。ただ剥き出しの魂を削り合い、愛を貪り合う、孤独な一対の生き物だった。
「……あ、あぁ……っ、くろ、……玄……っ」
絶頂の果て、透月は魂の全てを吐き出すように玄の胸に顔を埋め、子どものように泣きじゃくった。玄の胸板に刻まれた昨夜の傷から、再び僅かな血が滲み、透月の涙と混じり合って赤く薄く広がっていく。
玄はその震える体を、何も言わず、ただ夜が白んでいくその瞬間まで、壊れ物を扱うような優しさで抱きしめ続けていた。
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