20 / 30
第20話 レイア
しおりを挟むがっかりして、だが希望は失わず宿屋に帰った。
二階の和室に入ると、「おかえり、ヌカタ」とアンズが、スライムの格好のまま言った。
バカが。疲れて帰ってきたんだから、かわいい女の格好で出迎えろ!
いかん、なんかダメ亭主みたいになってきた。
誰が亭主だァァァァ! 違う! 亭主どころか彼氏でもない!
ナーセの妹に会いに行こう。
妹は、温泉で有名な町にいる。
「アンズ、温泉に行かないか」
「温泉に?」
大福が意外そうに聞く。
「思い出作りだよ。二人で楽しい旅行しようよ」
「思い出作りもいいけどさ、新居を買って、安定した生活を送ることもいいんじゃないかな」
とかわいい声で、恥ずかしそうに言った。
バカ野郎ォォォ! 何が安定した生活だよ! お前といて安定していたことなんてただの一度もないわ! そもそもセンカに会いに行く前、おなかが空くといけないからって、百人くらい喰っちまっただろうが!
安定の意味知ってんのか!
「いや、思い出作りも大切だよ。安定した生活なんて、いつでもできるじゃなか」
「そうだね! 家族が将来増えたら、忙しくなるかもしれないもの」
家族ゥゥ!? 勘弁してくれよ。大福のくせに、子供を産むつもりかよ!
おまえは大福なんだから、あんこは産めるかもしれないが、子供なんて絶対産めないわ!
いや、どうなんだろう。
こいつはただのスライムじゃない。いかれた化け物大福だ。それに人間にも変化できる。
あれ? 子供産めるのかな。
そうだったら、やばいな。
こいつ子供とか、絶対見たくない。
話の流れから言って、俺が父親ってことでしょ?
絶対嫌だよ! 無理! なんでこいつと!
「そうだね。いまのうちに一杯思い出を作っておこう!」
畜生! こんなこと言いたくない!
「うん! ヌカタと一杯思い出を作る!」
我慢だ、笑顔を浮かべろ、笑顔を。
翌日には、ドラゴンモードになったアンズの背中に乗り、音速を超えマッハ3くらいのスピードで飛んだ。
アンズは気を使って、ドーム状の空間を作り、そこに俺を入れた。
ありがとうな、アンズ。
だが時期が来たら絶対奴隷にして、殺してやる! そりゃそうだ! こいつは人類の敵でしかない!
ナーセの妹は、温泉旅館で暮らしているらしい。優秀な呪術師で、金に困らないから、一年中旅行しているそうだ。
うらやましい限りだ。
いたるところから湯気が立ち上る温泉街に降りる。アンズは「一緒に歩こうよ」と言って、うつくしい女性に姿になった。
170センチほどで、やせており、桃色の着物を着ている。目は細く、少し冷たい感じがする、小麦色の肌の美女だ。
いや、きれいだよ。きれいだけどもさ、認めたくないんだよな。
「どうした、ヌカタ。もっと違う容貌がいいか?」
まずいまずい、こいつに不信感を持たれたら、消されるかもしれん。
「いや、アンズであれば、どんな容貌だろうが大好きだよ」
「もう、ヌカタは、本当にしょうがない奴だな」
俺は美女になったアンズと、ナーセの妹が宿泊する旅館まで歩いた。
俺はアンズに「先にお風呂に入ってこい」と言い、ナーセの妹の部屋を受付で聞いた。
部屋にいると思う、と受付の男は言う。
すぐ三階に上がり、ドアをノックした。
「はい」
「ヌカタです。ナーセの紹介できました」
「どうぞ、どうぞー」
軽い感じの返事が気になったが、引き戸を滑らせ、中に入った。
浴衣を着た女が、畳に横になっていた。
「あの、ナーセの妹の?」
「そう、レイア。よろしくね」
ナーセは真面目そうな雰囲気だが、レイアは遊び人にしか見えない軽そうな女だ。
茶髪で肌は真っ白、目は大きく容貌は愛らしい。
だが浮ついた面立ちだ。
「助けてほしいことがあってきた」
俺はレイアに説明すると、レイアはとんでもない反応を示した。
「本当に!? スライムと人間の恋ってこと?」
「恋じゃないよ。説明しただろう」
「でもさ、スライムの方は、ヌカタを大好きなわけでしょ?」
「まあ、そういう感じだ」
「素敵じゃん! いいじゃん、スライムと子供産めるか試したら?」
「バカかお前は! 困ってるんだよ、こっちは! 助けてくれたっていいだろうが!」
「でもさ、奴隷化ってスキルで、あなた、好き放題してきたんじゃないの?」
レイアの視線が鋭くなった。
レイアはただの浮ついた女じゃないようだ。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる