エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

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第三章  南へ

01 タルパスの街

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「どこに行かれると言われました?」
「南だ」

 ウルフレッド様が王都から戻ると、ライオネルの自室にやって来て話を始める。

「南では分かりません、まさかサウストリアまで行くつもりなのですか?」
「まぁ、そこもだな」
「も?」

 彼の言葉が足りないのは相変わらずだ。

「心配するな、流石に許可証が必要だからな、兄上の許しは貰っている」
「オルグ様と二人で、ですか?」

「いや、バードを連れて行く」
「バーナード?」
「そうだ」
「彼を連れて行ってどうなさるのです」

 カストリア家の嫡男でもあるバーナードは、魔道具などを考え作る事には秀でているが、魔具を使った戦いには、オルグ様同様全くあてにならない人だった。

「アイツには外を知って貰わねばならん」
「外?」
「アイツの考えた火を使った魔道具は確かに便利だが、あれを使える家がウエストリアにいくつあると思う」
「それは、、、そうですが」

 バーナード・カストリアが作った食器を洗う魔道具や、台所の“かまど”やそれらの熱を使って湯を沸かす魔道具は、確かに便利だが、魔道具自体が大きい為に多くの魔力が必要で、それを使える家はウエストリアでも数える程しか無い。

「外に出た事が無いので、アイツは人の生活を知らん」

 部屋に籠って研究ばかりしている友人を思い出す。

「もう少し人の生活の中で使える魔道具でなくては困る」
「それでどうするつもりなのです」
「一緒に連れて行く」

「行くとは思えませんが」
「連れて行ってしまえば、アレは戻る事も出来ん」

「それで私に何をしろと?」
「バードを連れ出すから、カルイザの街まで一緒に来い」

「バーナードとオルグ様の三人で南に行くおつもりですか?」
「ん?」

 それでは、全く身を守る術を持たない人を二人も連れて歩く事になるし、バーナードと彼が上手くやれるとは思えない。

「せめてクラウスを同行させるとか」
「馬鹿を言え、お前の所で学んでやっとイルネラに帰った所だぞ。俺はイルゼルトの姉妹をこれ以上、敵にしたくない」

 イルゼルト家の姉妹と婚約の約定を交わしたクラウスは、ライオネルの所で当主になる為に学んでいて、先月やっとイルネラに戻って、姉妹と結婚したばかりだった。

「しかし、、、」
「心配するな、ファーを連れて行く」

 思いがけない人の名が出てきて安心する。
 ファーレン殿が同行するなら、どこに行っても余程の事が無い限り問題か起きるとも思えない。

 彼は腕も立つが、何よりとても穏やかな人柄で、妙な揉め事を起こすとも思えないし、バーナードとも上手くやるだろう。

「ライ、ファーなら余計な揉め事を起こす事は無いと思っているだろう」
「貴方よりマシでしょう」

「アイツは、別の揉め事を起こすんだけどなぁ」
「どう言う事です?」
「付いてくれば分かるぞ」

 楽しそうに笑っている人と一緒に行ってみたいが、父が亡くなりタルパスの街を任されている以上、今は離れる事が出来ない。

「後でお話しを伺いますよ」
「分かった」

 その後、三年前ローエングルグ家の騎士になったハロルドが、妻を迎えた事を話す。

「貴方にもお会いしたがっていたのですが、、、」
「イルネラにいるなら、そのうち会える」

「そうですね、、、そう言えばハルが貴方に聞いてみたいと言っていましたよ」
「なにをだ?」
「あの時、何故、自分に声をかけてくれたのか」

「ん?」
「あの後、ゼネルト家は潰れました。個々の家に引き取られた騎士もいますが、、、」

 ポロの畑が荒れた翌年、領主から引き受けた仕事で同じ様な事が起こり、組合からゼネルト家の保護を拒否されるようになった為、ゼネルト家はウエストリア家から約定を破棄された。

 領主は領民を守る義務がある。
 領主の命を受けそれを行う貴族の家が、その命を守っていないのなら、領主と家との間にある約定も意味を持たない。

 領主との約定が破棄された家は、領地での居場所を失うため、他の領主と約定を結ぶか、王都に行くしか無い。

 ゼネルト家は、他の領主と約定を結べ無かったので、家に仕えていた騎士達は、他家に雇われるか王都に行く事になった。

「評判の良くない家の騎士を、引き受ける者は少ないからな」

 領主との約定があるから貴族の家が成り立つ様に、騎士は、仕える家があるからこそ成り立つ。
 仕える家が無くなれば、どこかの組合に属して農民となるか、王都に行って職を見つけるしか無い。

「自分は与えられた仕事を単にこなしていただけで、状況を見るような力も無かったし、気が回る人間でも無かったと、、、何故、声をかけて貰ったんだろう? とね」

「多少目先の利く奴より、面倒な事を黙々としている奴の方がずっと面白い。あの頃、俺の近くにも良く似たのがいたからな」

 そう言って緋色の瞳が楽しそうに笑う。

 三年前、父が亡くなりラングロア家を継いだため、本格的に彼の側を離れる事になった。

 ラングロア家が任されているタルパスの街には、転移門があるため、その頃から王都に出掛ける様になった彼が時折やって来ては、遠出をする場合こうして知らせる。

「お気を付けて、面倒事を起こさずにお戻り下さい」
「分かっている」

 詳しい話をするつもりがないようなので、せめて無理をしないようにして欲しいと伝えるしかない。
 だが、彼の言葉に嘘がない事も知っているが、余り意味がない事も良く分かっている。
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