33 / 74
第三章 南へ
12 ゼム
しおりを挟む
その一人、マルゼスの街にいた魔工師に会いに行った事を思い出す。
-四年前
「またお前か」
ファーレンが一緒に行った時、ウルフレッドは何度かその場所を訪れた事があるようだった。
「まぁ、そう言うな。まだイリノアの街に来る気になれないか?」
「わしはここが気に入っとる」
「分かってるよ、だから頼んでいる」
「なぜ、わざわざ行かねばならん。剣でも槍でも欲しいものを言えば作ってやると言っとるじゃろ」
「俺が使っても壊れない剣が欲しいんだ、ここには無い」
魔具は、“トゥグ”と呼ばれる鉱石に憐灰石、青鉛石、柘榴石、、、など色々な鉱石を混ぜ合わせて作られる。
その配合は、魔工師に寄って違い、秘伝として弟子達に伝えられる。
もちろん魔具を作る魔工師の腕によっても強度や威力は変化するため、腕のいい魔工師が作った物はそれだけ高額にもなる。
「わしの作った魔具は、そんなにやわじゃないぞ」
「そう言われると思ったから、今日は相手を連れて来た」
「相手じゃと?」
「あぁ、ファーと戦っても壊れないなら大丈夫、という事だからな」
いきなりマルゼスまで連れて来られたかと思えば、自分が関わる話を始めるので思わず聞き返す。
「何の話をしているのかな?」
「ここに魔物を呼び寄せる訳に行かないだろう?」
「魔具を使って手合わせするつもりなの!?」
「ちゃんと型通りにするさ」
当たり前だ!
練習用の剣では無く、魔具を使っていつものように変則的な動きをされたのではこちらの身が持たない。
通常の武器と魔力を使える魔具とでは、威力が格段に違う。
魔具を使って人を相手にする場合は、魔力を込めずに使用するが、手合わせする場合は、危険なので魔力を使えない普通の武器を使用する。
「ちゃんと加減してくれよ」
「お前が本気にならなければいいだろ?」
「僕じゃないよ、いつもウルフが手加減しないからだろ?」
二人でぶつぶつ言いながらファーレンは自分の魔具を、ウルフレッドはゼムの作った剣を持って対峙する。
その後、いつもより少し大人しい手合わせが始まるが、しばらくするとウルフレッドの使っていた剣の魔力が乱れたかと思うと“ポキ”っと剣が折れる。
それを見ていた魔工師のゼムが叫ぶ。
「折れたのか!? わしの作った剣を折ったのか!?」
「もう少し丈夫だと思ったんだけどなぁ」
「なんて事をしてくれるんじゃ! せっかく作り上げた物をよくもこわしよって!」
「ファーに文句を言え!」
「どうして僕なんだよ!」
「お前が同じところばかり狙うからだろう」
「型合わせなんだから仕方ないだろう? それに僕の剣は折れてない!」
「俺が下手くそみたいに言うなよ」
二人で言い合っていると、折れた剣を持ったゼムが側にやって来る。
「こら坊主、お前の言っている事は分かったが、カストリア家には優秀な魔工師がいるじゃろう? 何故そいつに作らせない」
「アレは魔具を作りたがらない」
「魔工師じゃろ?」
「魔物を殺す道具を作るのを嫌がる」
「そんな事、領主が命じれば良いだけの事じゃろ?」
「嫌だという事をさせても仕方がない。それにアイツの頭の中には不思議な物が詰まっているからな、それを無くして欲しくない」
はぁぁっと大きく息を吐くとゼムが答える。
「分かったわい、とりあえずお前がいつも使っている魔具を見せてみろ」
「そんな物は無い」
「なんじゃ、お前は魔具も持たずに領内をウロウロしとるんか」
「ウルフ?」
「ん?」
「魔具を持っていないの?」
「持っていると言った覚えは無いぞ?」
「いや、言わなくても持っていると思うだろ?」
「そう言えば、ライもそんな事を言っていたな」
のんびりと答える彼には驚かされる。
マルゼスに来るまでもそうだし、イリノアの街に行くまでにも危険な場所はあると言うのに、、、
「魔物に会ったらどうするつもりなんだ!?」
「オルがいれば、そんな事にはならない」
オルグが優秀な事は知っているが、彼が攻撃の手段を持っていない事も良く知っている。
ウルフレッドの剣の腕も良く分かっているが、魔力を使わないと魔物を殺す事は出来ない。
「そうかもしれないけど、、、危ないだろ?」
「魔石は持っているぞ」
魔石は魔力の強化のために使い、その魔力をどういう形にして魔物に対するかを魔具で決める。
剣や弓矢のような魔具が多いのは、魔具を通常の武器と同じように使う方が、使いやすいからでもある。
確かに魔石があれば魔力を使うことは出来るが、畑を燃やすような事は出来ても、それを動く魔物にたいしての攻撃に使う事は難しい。
「壊れる魔具を使っても効率が悪いからな、今は魔石しか使ってない」
彼の言っている事は分かるが、相変わらず無茶苦茶だ。
ライオネルがいつも眉間にシワを寄せている意味がよく分かる。
「なぜイリノアなんじゃ」
「イリノアにはファーもいるんだ、出来上がった魔具が使い物になるか、確かめるにも効率がいい」
「お前、わしの作った魔具をこれからいくつ壊すつもりじゃ」
「ゼム爺が俺の満足する魔具を作れるまでだが、、、出来ないのか?」
楽しそうなウルフレッドの笑顔は、ゼムの魔工師としてのやる気を刺激したようだった。
「お前に、イリノアまで連れて来る必要は無かったと言わせてやるわい」
「期待してるよ、ゼム爺に出来ないと俺がお手上げだ」
その後、一年以上の時間をかけてウルフレッドの剣や火炎を作ったゼムは、そのままイリノアの街に居ついてしまった。
ローエングルグ家のロジーと同じように、結局、ゼムもウルフレッドから離れられなくなった。
時には振り回されていると感じても、一度、彼の懐に入ると居心地が良くてなかなか離れる事が難しい。
彼は本当に厄介な“人たらし“だった。
-四年前
「またお前か」
ファーレンが一緒に行った時、ウルフレッドは何度かその場所を訪れた事があるようだった。
「まぁ、そう言うな。まだイリノアの街に来る気になれないか?」
「わしはここが気に入っとる」
「分かってるよ、だから頼んでいる」
「なぜ、わざわざ行かねばならん。剣でも槍でも欲しいものを言えば作ってやると言っとるじゃろ」
「俺が使っても壊れない剣が欲しいんだ、ここには無い」
魔具は、“トゥグ”と呼ばれる鉱石に憐灰石、青鉛石、柘榴石、、、など色々な鉱石を混ぜ合わせて作られる。
その配合は、魔工師に寄って違い、秘伝として弟子達に伝えられる。
もちろん魔具を作る魔工師の腕によっても強度や威力は変化するため、腕のいい魔工師が作った物はそれだけ高額にもなる。
「わしの作った魔具は、そんなにやわじゃないぞ」
「そう言われると思ったから、今日は相手を連れて来た」
「相手じゃと?」
「あぁ、ファーと戦っても壊れないなら大丈夫、という事だからな」
いきなりマルゼスまで連れて来られたかと思えば、自分が関わる話を始めるので思わず聞き返す。
「何の話をしているのかな?」
「ここに魔物を呼び寄せる訳に行かないだろう?」
「魔具を使って手合わせするつもりなの!?」
「ちゃんと型通りにするさ」
当たり前だ!
練習用の剣では無く、魔具を使っていつものように変則的な動きをされたのではこちらの身が持たない。
通常の武器と魔力を使える魔具とでは、威力が格段に違う。
魔具を使って人を相手にする場合は、魔力を込めずに使用するが、手合わせする場合は、危険なので魔力を使えない普通の武器を使用する。
「ちゃんと加減してくれよ」
「お前が本気にならなければいいだろ?」
「僕じゃないよ、いつもウルフが手加減しないからだろ?」
二人でぶつぶつ言いながらファーレンは自分の魔具を、ウルフレッドはゼムの作った剣を持って対峙する。
その後、いつもより少し大人しい手合わせが始まるが、しばらくするとウルフレッドの使っていた剣の魔力が乱れたかと思うと“ポキ”っと剣が折れる。
それを見ていた魔工師のゼムが叫ぶ。
「折れたのか!? わしの作った剣を折ったのか!?」
「もう少し丈夫だと思ったんだけどなぁ」
「なんて事をしてくれるんじゃ! せっかく作り上げた物をよくもこわしよって!」
「ファーに文句を言え!」
「どうして僕なんだよ!」
「お前が同じところばかり狙うからだろう」
「型合わせなんだから仕方ないだろう? それに僕の剣は折れてない!」
「俺が下手くそみたいに言うなよ」
二人で言い合っていると、折れた剣を持ったゼムが側にやって来る。
「こら坊主、お前の言っている事は分かったが、カストリア家には優秀な魔工師がいるじゃろう? 何故そいつに作らせない」
「アレは魔具を作りたがらない」
「魔工師じゃろ?」
「魔物を殺す道具を作るのを嫌がる」
「そんな事、領主が命じれば良いだけの事じゃろ?」
「嫌だという事をさせても仕方がない。それにアイツの頭の中には不思議な物が詰まっているからな、それを無くして欲しくない」
はぁぁっと大きく息を吐くとゼムが答える。
「分かったわい、とりあえずお前がいつも使っている魔具を見せてみろ」
「そんな物は無い」
「なんじゃ、お前は魔具も持たずに領内をウロウロしとるんか」
「ウルフ?」
「ん?」
「魔具を持っていないの?」
「持っていると言った覚えは無いぞ?」
「いや、言わなくても持っていると思うだろ?」
「そう言えば、ライもそんな事を言っていたな」
のんびりと答える彼には驚かされる。
マルゼスに来るまでもそうだし、イリノアの街に行くまでにも危険な場所はあると言うのに、、、
「魔物に会ったらどうするつもりなんだ!?」
「オルがいれば、そんな事にはならない」
オルグが優秀な事は知っているが、彼が攻撃の手段を持っていない事も良く知っている。
ウルフレッドの剣の腕も良く分かっているが、魔力を使わないと魔物を殺す事は出来ない。
「そうかもしれないけど、、、危ないだろ?」
「魔石は持っているぞ」
魔石は魔力の強化のために使い、その魔力をどういう形にして魔物に対するかを魔具で決める。
剣や弓矢のような魔具が多いのは、魔具を通常の武器と同じように使う方が、使いやすいからでもある。
確かに魔石があれば魔力を使うことは出来るが、畑を燃やすような事は出来ても、それを動く魔物にたいしての攻撃に使う事は難しい。
「壊れる魔具を使っても効率が悪いからな、今は魔石しか使ってない」
彼の言っている事は分かるが、相変わらず無茶苦茶だ。
ライオネルがいつも眉間にシワを寄せている意味がよく分かる。
「なぜイリノアなんじゃ」
「イリノアにはファーもいるんだ、出来上がった魔具が使い物になるか、確かめるにも効率がいい」
「お前、わしの作った魔具をこれからいくつ壊すつもりじゃ」
「ゼム爺が俺の満足する魔具を作れるまでだが、、、出来ないのか?」
楽しそうなウルフレッドの笑顔は、ゼムの魔工師としてのやる気を刺激したようだった。
「お前に、イリノアまで連れて来る必要は無かったと言わせてやるわい」
「期待してるよ、ゼム爺に出来ないと俺がお手上げだ」
その後、一年以上の時間をかけてウルフレッドの剣や火炎を作ったゼムは、そのままイリノアの街に居ついてしまった。
ローエングルグ家のロジーと同じように、結局、ゼムもウルフレッドから離れられなくなった。
時には振り回されていると感じても、一度、彼の懐に入ると居心地が良くてなかなか離れる事が難しい。
彼は本当に厄介な“人たらし“だった。
0
あなたにおすすめの小説
【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~
Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。
三男。継承権は遠い。期待もされない。
——最高じゃないか。
「今度こそ、のんびり生きよう」
兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。
静かに暮らすつもりだった。
だが、彼には「構造把握」という能力があった。
物事の問題点が、図解のように見える力。
井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。
作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。
気づけば——領地が勝手に発展していた。
「俺ののんびりライフ、どこ行った……」
これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる