エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

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第八章 その後

05 緑樹院で

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 薬草を育て、調合し、それらを使って治療する人は薬師と呼ばれ、その中でも回復薬を作り、それを使って治療する人は、特別に“癒しの使い手”と呼ばれていた。

 彼らは緑樹院にいて、薬師と共に薬草を育て、学び、治療を行うことを仕事としている。
 患者の身体や魔力の状態を見極め、薬湯と回復薬を上手く使い分け治療を行う人達で、戦場に彼らが来てくれるのは本当に有難い。

 自分の治療を行っていた癒し手が、次に運ばれて来た怪我人に、薬湯と回復薬を飲ませている。
 患者の状態を感じ取り、的確に薬を与えて回復させる、これは簡単なようで結構難しい。

 回復薬は、体力を回復させる。
 それは嘘では無いが、正しくも無い。

 身体の回復が間に合っていないのに、体力だけ戻せば身体の方が壊れてしまう。
 もちろん生死の境目では、そんな事を気にする余裕は無いが今は違う。

 優れた癒しの使い手は、自分の作った回復薬と身体を整える薬湯、それらを上手く使いながら患者を治療する。

 そう言う意味で、彼女は優秀だった。
 患者自身の治癒力を上げるように、回復薬を上手く使う。

 他の誰よりも頻繁に足を運び、患者の状態を確認して治療にあたるため、彼女の患者は、治療に時間がかかっても明らかに魔力量が底上げされている。

 微笑むこともなく淡々と治療されると、一見冷たく感じるが、患者の回復を感じると、口元がほんの少し綻んでいるしちょっと足元が軽くなる。

「貴方の患者で良かったな」

 ちょっと揶揄からかって治療の最中に手の甲にキスをすると、思いっきり嫌な顔をされ横を向かれるが、フードに隠れた耳がほんのり染まっているのが見える。

 それが思った以上に可愛らしく、義務のように感じていた事が、彼女となら楽しみにさえ思えて来る。

「僕を担当した癒し手が厳しくてさ、なかなか回復薬をくれなくて大変だった」

 などと不遜なことを言っている奴がいると、もう一度、ベッドの上に戻してやろうかとさえ思えてくる。

 あゝ、全く面倒なことになった。

 自分にとって、大切なものはひとつで充分だ。
 大切なものが増えれば、守らなければならなくなるし、失うことが出来なくなる。

 そんな厄介事はごめんだった。

 元々、兄が継ぐはずの土地だった。
 例え緋色の瞳を持っていなくても、それ以上の実力があり、誰からも認められていた。

 自分はその手伝いをすればいいと思い、それを楽しみにしていたのに、、、領主となり、これ以上の重荷など背負いたく無いのに、どうにも目も放せなくなっている。

「周りの事を気にしないで、少しお眠りになってください」

 額にふれる手を引き寄せたい。
 少々身体の調子は良くないが、このまま彼女を自分のものにするくらい何とかなると考えている自分がいる。

 今まで何かを欲した事は無い。

 大体のものは持っていたし、手に入れる事も出来た。
 勉学も体術や魔力も、学べと言われた事を会得するのに困ったことは無い。

 まだ兄や父がいた頃、魔物を狩りに出掛け、兄の許しを得て他国を見た。
 だが結局、その旅の中でも自分は、執着するほど大切なものを見つける事はなかった。

 簡単に手に入る代わりに、人や物にどうも執着することが出来ない。
 大切に思っていない訳ではないのに、手放せと言われるとそれまでの物だと感じてしまう。
 だから自分はそう言う感情が欠落しているのだと思っていた。

 それが今、一人の女性から目が離せなくなっている。

 あゝ、本当に面倒な事になった。

 早く約束事を取り決めないと、貴族としてあるまじき行為を行いそうで、おちおち眠ってもいられない。
 おまけに他の男達が、彼女の治療を受けていると思うと、段々気分まで悪くなってくる。

 その後、アッタリア戦で傷ついた者達のために、イリノアに近いキリニスの街に新しい緑樹院を作り、彼女がウエストリアに留まるよう手を回した。

 一年かけて口説き続け、自分ではウエストリアの跡継ぎを産むことが出来ないと言う彼女を、少々強引に自分のものにした。

 彼女がウルフレッドに好意を持っている事には気付いていたし、そんな事はウルフレッドにとって何の意味の無いものだとこれから知って貰えればいい。

 今まで決して手に入れる事の出来なかったものを与えてくれた人を、自分は一生手放すつもりがないのだから、時間をかけて教えていけばいい。
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