エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

文字の大きさ
7 / 82
第1章

06 庭園で

しおりを挟む
 嫌な相手に会った。

 お互いがそう思っているのだから、その場にいるのが二人だけなら、そのまま気付かないふりをしてしまえばいいが、流石に公爵夫人の前でそんな事は出来無い。

「こんにちは、リディア嬢」
「こんにちは、カシム様」

 形だけの挨拶を交わし、その場を離れようとしたカシム王子に、アウスレーゼ公爵夫人が声をかける。

「カシム様、私は所用を思い出しましたので、リディアの相手をお願いできますか? 
 リディア、明日、侯爵邸に来て頂戴、ゆっくりお茶でもしながら話しましょう」

 嫌な顔をしているカシム王子にとんでもない事を言いだし、リディアにも明日の約束を残して庭園を離れる

 思わず、『やった!』と飛び上がりそうになる。
 元々、この約束が欲しくて父に王宮に連れて来て貰っていた。

 明日、公爵邸でお茶を飲むと言うなら、マテの紅茶と偶然できた白茶を飲んでもらえるという意味になる。
 白茶には自信があるし、紅茶がエルメニアで売れないのは分かっているが、何かヒントが貰えるかもしれない。

「私はお前と婚約はするが、結婚するつもりは無いからな」

 目の前にいる人を忘れて明日の事を考えていると、不機嫌な王子に宣言される。

「はい、私もカシム様と婚約しても、結婚する気はありませんわ」
 
 他の事を考えていたので、つい言い返してしまう。
 しまったと思うけれど、口から出てしまった言葉を戻すことは出来ない。

「どういう意味だ」
「何がですか?」

「私とは婚約しないという事か」
「違います。婚約しても結婚する必要はないと申し上げたのです」
「私と婚約するのは、后妃になりたいからだろう? 結婚しないなら、なぜ婚約を受け入れた」

「機会を与えてくれたのだと思います」
「機会?」
「はい、カシム様とお友達になる機会ですわ」

「友達? 友達になりたいのか、后妃ではなく?」
「ふふっ、王子さまとお友達だなんて素敵でしょう?」

 最初は嫌われた理由も分からずびっくりしたが、話してみると、感情が分かり易く付き合いにくい人では無い。
 リディアにとって、どちらかと言えば好きなタイプで、言葉に嘘が無い分、友人になってもきっと嫌な気持ちにならない。

「友達になって、二年経ったらどうする」
「結婚しなければ良いのですわ。婚約とはそういうものでしょう?」

 婚約は今回のように、親によって相手を決められる事が多い。
 婚約すれば相手の屋敷に行くのも、招く事も出来るし、互いの所に泊まることも許されるが、そうでなければ社交の場で知り合うしかない。

 結婚するには本人の意思が必要な為、親に決められた相手との婚約を破棄し別の相手と結婚する事も珍しくない。

「二年後、私と結婚したいと思わなければ、婚約を破棄するという事か」
「はい、カシム様が結婚したくなければ、婚約を破棄出来るという事です」

「私が結婚したいと言ったらどうするつもりだ」
「結婚には双方の意思が必要ですわ、たとえカシム様でも強制は出来ないでしょう? それにカシム様は私と結婚する気はないと言っておられたし、心配なんてしていません」

 父が二年も時間をかけるとも思えないので、実際はもっと早くなると思うが、それまでにカシム王子とも友人関係を築くことが出来ればいい。

 そんな事をばんやり考えていると、目の前の人がとんでもない事を言い出す。

「確かにお前の言う事も分かる。だが子どもが出来たら結婚するしかなくなるぞ」
「まぁ、そんな事にはならないから、心配する必要はありません!」

 顔が赤くなっているのは分かるが、とりあえず言い返し、馬車で待つジャルドの所に逃げ帰る。
 本当にお父様といい、カシム王子様といい、まだ婚約もしていない娘に向かって、言っていい言葉かどうかもう少し考えて欲しい。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...