エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第3章

10 森(2)

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「おじ様、家に行ってもよろしいですか?」
「今からかい?」
「ええ」
「いいよ、では一緒に行こうか?」

 森で暮らしていた頃の家に向かおうとすると、ザイード様が横にぴったりと寄り添ってくる。

 しばらく歩いてと家に着く。

「まぁ、懐かしい、何年ぶりかしら」
「4年位じゃない? でも、本当に懐かしいな」

 ザイード様が首を傾げるようにこちらを向くので、

「ザイード様、小さい頃はアルフレッドも私もここに住んでいたんですよ」
  
 そう言って、家の中に入る。
 懐かしい。
 エリス様と暮らしていた家は、森にいた頃と変わらず綺麗に保たれていて、サラ様が今でも整えてくれた事がわかる。

 中二階にある自分の部屋に行く、少し小さくなった寝台や机。

「ここは私の部屋なの。12歳になる頃まで、ほとんどを森で暮らしていたから、隣がアルの部屋よ」

 本当に懐かしい。
 まだアルフレッドが屋敷にいない頃から、エリス様とサラ様を親代わりに森人と一緒に一年の殆どをここで過ごした。

「まだまだ、ここに居てくれて良かったのだけどね」
「それは、エリスの所為せいでしょう?
 私がいくら止めても、リディア様に剣や弓の使い方、おまけに野営の仕方まで教えるのですから、奥様が心配されるのは、当然です」

「僕も昔、師匠から教わったんだけどなぁ」
「貴方とリディア様では、立場が違います」

「それを言われると私も耳が痛いわね、おじ様と一緒に喜んで森の中を走り回っていたのだから」

 男の子のような服を着て、森人といる様子を見て、母が屋敷に戻すよう父に話したと聞いている。
 何時までもそのままで居られるとは思っていなかったけれど、十年近く森で過ごした時間は、自由な時間だった。

 エリス様は、確かに甘い父親だったけど、色々なことを教えてくれた。それは今でも私を助けてくれるし、時には守ってもくれるが、貴族の娘としては役立つ物ではないので、母が心配する気持ちも分かる。
 今の生活に不満はないけれど、やっぱりあの頃を懐かしいと感じる気持ちも無くならない。

 ザイード様が家の中をウロウロしては、こちらを向いて首をかしげる。

「父と母が王都に行ってしまった後はこの家で、父達が戻ってくれば、私達も屋敷に戻る。12歳になるまでそんな風に暮らしていたんです。
 でも、私達があんまりお行儀良くないので、母が王都に行かなくなって、私達も屋敷に戻る事になったんですよ」

「久しぶりに此処に泊まるかい? リディアはまだ部屋の寝台が使えそうだな」

「アルは、無理かしらね。この一年で本当に大きくなってしまって」
「大丈夫だよ、別に。姉さまが泊まるなら僕だって久しぶりに泊まりたいし」

 家の中に置いてある楽器や弓を見つけては、『なんだ?』と言うように鼻で指す。

「これは“ニコ”よ、森人が使う楽器なの」

 狼の姿をしていても、何にでも興味を持ち、知ろうとする所は変わらない。

 ザイード様の前で弓を引いているとその様子を見ていたサラ様に呆れられる。

「リディア様、その様な事を殿方の前でするものではありませんよ」

 サラ様には呆れられるが、隣にいる人が気にしているようには見えない。
 優しい菫色の瞳は変わらないし、ずっと側にいてくれる。

「隣にもう少し大きな家がありますので、ザイード様達は、そちらでお休みになって下さいね」

 判ったと言うように彼が耳を動かす。

「ふふっ、明日は湖の方に行きましょうね。とても美しいですよ、今度は川で釣りもしたいですし楽しみです」

「サイラス様とイグルス様が戻って来たみたいだよ」

 アルフレッドが教えてくれるので、戻って来た二頭と眠るためにザイード様を案内するが、それ以外の時間、彼は狼の姿でずっと側にいてくれる様になった。
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