エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第3章

13 雨上がり(2)

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 しばらく川に沿って下って行くと、子どもの鳴き声が聞こえてくる。
 幼い兄妹が流れの早い川岸で泣いていて、今にも川の中に落ちそうになっている。

 急いでそばに行き、川岸から離そうとすると、川の中にも少し年長の男の子が、岩に引っかかった木に摑まっているのが見える。

「なんてこと」

 普段なら問題なく歩ける川岸だけど、こうして雨が降った後は、水かさが増える。

 風や水の魔力を使える者がいれば助ける事もできるが、私ではどうする事も出来ない。
 どうしたら、、、と思った時、力尽きたのか男の子の手が離れ、川に中に消えて行くのが見える。

「いや」

 声が漏れた瞬間、銀色の大きな獣が川の中に飛び込んで行き、少年と同じ様に川の中に消えてしまうのを見て、今度は息が止まりそうになる。
 自然の流れは魔力でどうにか成るものではない。
 いくら彼が強くても、流されてしまってはどうにもならない。

 川岸に座り込み、泣いている子ども達を抱きしめ、どのくらい時間が経ったのか、、、

「お嬢」

 ジャルドに声を掛けられ、顔を上げると、下流の方から男の子を抱いてザイード様が戻って来る。

「ザイード様! 大丈夫ですか?」
「ええ、少し水を飲んでしまっていますが、意識を失っていたのがかえって良かった」

「ザイード様は?」
「大丈夫です」

「本当に? どこも怪我などしていませんか?」
「大丈夫ですよ、少し下った所に流れが緩くなった場所があって、上手く岸に上がることが出来ました」

「良かった」

 本当に大丈夫なのかと彼の側から離れなくなっていると、安心させるようにザイード様の手がそっと頬に触れるので、その手に自分の手を重ねて彼が温かい事を確認する。

 水に浸かっていた子どもも意識が戻ったので、服を脱がせ自分のフードで包む。
 前日まで雨だったため、ジャルドが集めてくれた薪に何とか火をつけ、焚火を作るがだんを取るには程遠い。

「ジャルド、アルフレッド達を探して来てくれない? この辺りにいるのでしょう?」

 アルフレッドと兵士達は、危険な場所を調べ、杭を打ち、領民が近づかないようにするため川の周囲を回っているはずだった。

「まだだいぶ下流っすね。屋敷の方が近いっすから、ちょっと行ってきます」
「おねがい」

 ジャルドが行ってしまった後、なんとか子ども達の体温を上げようと、周囲から薪になるものを探す。
 川に落ちた子はもちろんだが、残りの二人も濡れてカタカタと震えていて、このままでは体が冷え切ってしまうだろう。

「リディア、姿を変えても大丈夫だろうか?」
「ザイード様は大丈夫なのですか? 姿を変えるのは、魔力を使うのではないのですか?」

「それは気にする程ではないが、子ども達を怖がらせたくないからな」
「それは平気だと思いますが、、、」

 するとザイード様の姿が狼に変わる。
 大丈夫なのかと心配になるが、彼が頬を舐めるのでやっと安心することが出来る。

 いきなり現れた獣にびっくりして声を無くしていた子ども達も、すぐに寒さの方が勝って側に寄って来るのでザイード様が温めてくれる。

 しばらくして屋敷から馬車が迎えに来てくれたので、狼から離れなくなった幼い子ども達と一緒に馬車に乗り屋敷に戻る。

 それからザイード様達は、ウエストリアの屋敷でも狼の姿でいる事が多くなった。
 サイラス様は狼の姿で寛いでいると、使用人達が居間に食事まで用意するので、益々人に戻る様子がない。

 ザイード様は変わらず人の姿でいる事が多いが、夕食の後、暖炉の前に行くと必ず狼の姿で側に寄り添ってくれる。
 
 その穏やかな時間は、いつの間にかかけがえの無い時間になりつつある。



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