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第3章
14 トレポレの街(1)
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ウエストリアの街の中央には、必ず火炎と呼ばれる炎を燃やす魔道具がある。
魔道具なので、もちろん魔力でも火が入るが、通常は焚き木を燃やすようになっていた。
トレポレの街でもそれは同じで、火炎の周辺では、気の早い人たちが明日からの祭りを一足先に楽しんでいた。
収穫が終わった頃からトレポレの街では、お祭りが始まる。
この時期は、貴族の家が出す屋台や、商店や個人が出す屋台が並び、ウエストリア中の人々が街にやって来る。
ウエストリア家も屋台を出しているので、アルフレッドと一緒にウエストリア家の令嬢として、周りの人達の声に耳を傾ける。
街に来るのは一年ぶりの事で、この街に来るときは、髪をまとめ服装を整え、馬車で移動し護衛の兵達が横につく。
辺りが暗くなるにつれ、屋台に活気が出てくると、人がどんどん増えて来る。
ジャルドが私を見失う事はないが、妙な考えを持つ人達が、私を間違える可能性があるため、あえて服装を整え兵の側にいる。
「ふふっ、今日はちょっと貴族の令嬢に見えるでしょう? ジャルド、どう?」
「お嬢、馬子にも衣装って言葉を聞いたことあるっすか?」
「あら、見た目を褒めてくれてありがとう」
「誉め言葉だとは思って無かったっすねぇ」
「追々中身も追いつくわよ」
ジャルドが時々近くにやって来ては軽口を叩く。
「楽しそうっすね」
「もちろん、女性ですもの。 装ったり、着飾ったりするのが嫌いな人なんていないわ」
「へぇ、いい事聞いたっすねぇ」
「いい事?」
「いつもそんな恰好をしてくれれば、俺が楽できるっすよ」
「まぁ、ジャルド。いつも動きやすい服装をしているから、今を楽しめるのよ。
これがいつもの事になってしまったら、楽しめなくなってしまうでしょう? そんな勿体ないこと絶対にしないわ」
「僕はどちらの姉さまも綺麗だと思うよ」
「まぁ、アル。それは嬉しい言葉ね」
「アル坊は、相変わらずお嬢に甘いっすね」
そう言った後、ジャルドがついでの様に「面倒なのが来てるっすよ」と耳打ちして離れて行く。
何度か会ったことがある王都付きの貴族で、既に二人の妻がいるのに何かとリディアに近づこうとする。
おまけにアルコールが入っているのか、いつもよりしつこくて相手をするだけで憂鬱になる。
「私もご一緒させて頂いてもよろしいですか?」
ザイード様が酷く不機嫌な声で、クリオ様との間に入ってくれるので紹介する。
「クリオ様、ご紹介しますね。ガルスのザイード殿下です」
「初めまして」
威圧するようにザイード様に睨まれて、クリオ様がそそくさと離れていく。
逃げていく人を見て彼が満足した顔をするので、思わず笑ってしまう。
「以前もこんな事がありましたよね、ザイード様がいて下さると、どこにいても大丈夫そうだわ」
「用心棒になりましょうか?」
「きっと敵う人はいないわね」
彼が側にいてくれるのは、不思議な感覚だった。
いつも穏やかで真面目な人なのに、荒れた川に飛び込んで行くような無鉄砲な所があるかと思えば、さっきの様に悪戯を仕掛けた子どもように見える時もある
今では人の姿の時も距離を取られる事がなくなり、気が付くと守るように側にいてくれる。
彼が側にいる時のこの暖かくふわふわした感覚を言葉にするのは難しい。
月が変わればガルスとの国境が閉じられるので、彼はそれまでに国に帰る事になる。
国境が閉じられるまで後ひと月。
まだあるだろうと思っていた時間が、こんなに早く無くなるとは思ってもいなかった。
魔道具なので、もちろん魔力でも火が入るが、通常は焚き木を燃やすようになっていた。
トレポレの街でもそれは同じで、火炎の周辺では、気の早い人たちが明日からの祭りを一足先に楽しんでいた。
収穫が終わった頃からトレポレの街では、お祭りが始まる。
この時期は、貴族の家が出す屋台や、商店や個人が出す屋台が並び、ウエストリア中の人々が街にやって来る。
ウエストリア家も屋台を出しているので、アルフレッドと一緒にウエストリア家の令嬢として、周りの人達の声に耳を傾ける。
街に来るのは一年ぶりの事で、この街に来るときは、髪をまとめ服装を整え、馬車で移動し護衛の兵達が横につく。
辺りが暗くなるにつれ、屋台に活気が出てくると、人がどんどん増えて来る。
ジャルドが私を見失う事はないが、妙な考えを持つ人達が、私を間違える可能性があるため、あえて服装を整え兵の側にいる。
「ふふっ、今日はちょっと貴族の令嬢に見えるでしょう? ジャルド、どう?」
「お嬢、馬子にも衣装って言葉を聞いたことあるっすか?」
「あら、見た目を褒めてくれてありがとう」
「誉め言葉だとは思って無かったっすねぇ」
「追々中身も追いつくわよ」
ジャルドが時々近くにやって来ては軽口を叩く。
「楽しそうっすね」
「もちろん、女性ですもの。 装ったり、着飾ったりするのが嫌いな人なんていないわ」
「へぇ、いい事聞いたっすねぇ」
「いい事?」
「いつもそんな恰好をしてくれれば、俺が楽できるっすよ」
「まぁ、ジャルド。いつも動きやすい服装をしているから、今を楽しめるのよ。
これがいつもの事になってしまったら、楽しめなくなってしまうでしょう? そんな勿体ないこと絶対にしないわ」
「僕はどちらの姉さまも綺麗だと思うよ」
「まぁ、アル。それは嬉しい言葉ね」
「アル坊は、相変わらずお嬢に甘いっすね」
そう言った後、ジャルドがついでの様に「面倒なのが来てるっすよ」と耳打ちして離れて行く。
何度か会ったことがある王都付きの貴族で、既に二人の妻がいるのに何かとリディアに近づこうとする。
おまけにアルコールが入っているのか、いつもよりしつこくて相手をするだけで憂鬱になる。
「私もご一緒させて頂いてもよろしいですか?」
ザイード様が酷く不機嫌な声で、クリオ様との間に入ってくれるので紹介する。
「クリオ様、ご紹介しますね。ガルスのザイード殿下です」
「初めまして」
威圧するようにザイード様に睨まれて、クリオ様がそそくさと離れていく。
逃げていく人を見て彼が満足した顔をするので、思わず笑ってしまう。
「以前もこんな事がありましたよね、ザイード様がいて下さると、どこにいても大丈夫そうだわ」
「用心棒になりましょうか?」
「きっと敵う人はいないわね」
彼が側にいてくれるのは、不思議な感覚だった。
いつも穏やかで真面目な人なのに、荒れた川に飛び込んで行くような無鉄砲な所があるかと思えば、さっきの様に悪戯を仕掛けた子どもように見える時もある
今では人の姿の時も距離を取られる事がなくなり、気が付くと守るように側にいてくれる。
彼が側にいる時のこの暖かくふわふわした感覚を言葉にするのは難しい。
月が変わればガルスとの国境が閉じられるので、彼はそれまでに国に帰る事になる。
国境が閉じられるまで後ひと月。
まだあるだろうと思っていた時間が、こんなに早く無くなるとは思ってもいなかった。
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