エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第4章

07 ミリオネア

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 始めてみる島は、エルメニアとは全く違う場所だった。
 強い日差しと濃い鮮やかな色の国。

 最初に着いたのは、ミリオネアの中でも真ん中くらいの大きさの島で、到着後、まずアレス様の屋敷に向かう。

 船の上ではそれ程感じ無かった気候の違いが、島に降りると顕著に現れとにかく暑い。
 話に聞いていたので、夏の服装を用意していたが、それでもこのままの姿で歩き回る気にはなれない。

「これを着るの?」
「確かに涼しそうだけど」

 服の生地も薄いが、肩や腕がむき出しになっている服は、羞恥心が優って流石に着ることが難しい。

 その中でも比較的布地の多い物を選び、一緒に選んでくれたマカラと言う女性に、フェーラと呼ばれる軽く大きな布を渡され、それを使って肩や腕を隠す。

「ありがとう、これなら何とかなりそうだわ」
「気に入って貰えたなら良かったわ、靴も履いてみて欲しいけど、素足は抵抗があるかしら?」

 用意してくれていた靴に足を入れる

「まぁ、とっても気持ちがいいわ」
「平気?」
「えぇ、私達の国ではちょっと考えられないけど、郷にいれば郷に従えって言うものね」
「良かった」

「ありがとう。私達が受け入れ易いものを選んでくれたのね」

 褐色の肌をした彼女の服装は、もっと開放的で、とても似合っているけれど、エルメニアで育って来た自分達は、身に付ける事が出来ない。

「いいのよ、私も楽しかったわ」

 少し年上の彼女は、面倒見も良いのか、その後もフエーラの使い方を色々教えてくれ、ショールの様に使ったりするだけでなく、女性なら胸元に、男性なら腰に巻いて使ったりするし、日除けに使ってもいいわよと笑っている。

 確かにこの日差しの中を歩き回っていると、後からロニに随分怒られそうな気がする。

「セレスティナ、少し外を歩いてみない? アレス様が、島を案内してくれると言っていたわ」
「ごめんなさい、私は無理。過ごし易いのは分かっているのだけど、もう少し時間を頂戴」

 エルメニアでは、寝間着と言ってもいいくらいの服を着て、外を歩く事に、セレスティナはまだ抵抗があるらしい。

「ふふっ、大丈夫よ、ゆっくり慣れてね。おじ様が一緒に行くと言っていたから、私は行って来るけど大丈夫?」
「私は平気よ、レナに居てもらうから」
「分かったわ、ちょっと行って来るわね」

「貴女こそ気をつけて頂戴ね、知らない国なのだから」
「それこそ大丈夫よ、エリスおじ様がいて、私に何か出来る人なんて居ないわ」

 エルメニアから一緒に来てくれた侍女にセレスティナを頼み、自分はマカラと言う女性と一緒に部屋を出る。

 軽くふわふわとした布地で作られた服は、歩く度に足元で布地が動いて可愛らしい。
 先程は選んでくれたと言ったけれど、周りを見ても自分と同じ様な服装をした人は無く、どうやら作ってくれたみたい。

 これを考えたのが彼女なら、エルメニアのドレスにも使えないか、ここにいる間に話をしてみたいと考えていると、こちらも服装を変えたおじ様とアレス様に出迎えられる。

「やっぱり、僕のお姫様は綺麗だね」
「やっぱり、おじ様は私に甘いわね」

「いや、良くお似合いです」
「まぁ、ありがとうございます」

 男性の前に出るのは少し恥ずかしいが、それでもこの服装なら風が良く通ってとても涼しい。

『ザイード様がみたらどんな顔をするかしら? きっとまた困ったように笑うに違いないわ』

「これから日が陰り、過ごし易くなりますので、少し島を歩いて見晴らしの良い場所にご案内します。
 海の中に日が落ちて行く様子は、とても美しいので、気に入って貰えると思います」

 アレス様が島を歩きながら、色々な話をしてくれる。

 見るもの全てが始めてで、ついつい夢中になる。

 木々の緑は濃く、花の色は鮮やかで香りも強く、店先に置いてある魚まで不思議な色をしている。

 トレポレの祭りで見るより小さな屋台が沢山あって、美味しそうな匂いはするし、こんな日差しの中にいると、段々恥ずかしいという気持ちもどこかにいってしまいそうになる。

 島を歩き、小高い丘のような場所に着いた頃、海の中に日が落ちていく。

 真っ赤な太陽が、空や海を赤く染めながら沈んで行く景色は美しく、山や森が多いエルメニアでは珍しいもので、言葉を失い魅入られてしまう。

「ありがとうございます、アレス様。こんなに美しいものを見る事が出来るなんて思っていませんでしたわ」
「確かにこれは見事だな」

「ここにひと月もいれば、これが日常になりますよ、さぁ、そろそろ戻りましょう、日が落ちると少し肌寒く感じる様になりますから」

 まだ少し赤く染まった海に心を惹かれながら、エリスおじ様の後に付いて行こうとすると、見たこともない木の幹がキラキラと光って見える。

 不思議な木だった。
 太く大きな幹に枝葉が重なるようにしげり、なぜかこの場所を守っているように見える。

「まぁ、これは何ですか?」
「何がです?」
「ほら、ここ。キラキラと光って、、、」

 その光る木の幹に触れると、そのまま中に吸いこまれる。

『えっ?』

「リディア!」

 おじ様の呼んでいる声が聞こえてくるが、そのまま木の中に吸いこまれていく。
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