エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

文字の大きさ
58 / 82
第5章

02 王都到着

しおりを挟む
 エルメニアの王都は、王宮を中心に古都と呼ばれる建国当時の街並みがあり、その周囲を守るように第一層、第二層と呼ばれる街が続いている。

 古都は、貴族たちのエリアになっていて。
 王宮を始め、学院や貴族院、緑樹院やその薬草園、王立図書館など貴族たちが暮らしている。

 かれらを相手にする商店ももちろん存在しているが、あくまで貴族達のためのものであり、特別な許可が必要で、王宮に入るには、まず古都の城門を通過しなければならなかった。

 第一層と呼ばれるエリアは、貴族と平民が住んでいて、ウエストリア伯の様に、王都に屋敷を持つ場合は、このエリアに家を持つ。

 貴族の屋敷や、獣人の住む場所など、ある程度固まって建物や人が集まっているので、上手く、貴族と平民や商人が住み分けている場所でもあった。

 第二層は、平民の居住区になり、鍛冶屋や魔道具の工房などもあり、ごちゃごちゃとしていても、活気のある街になっていた。

 この古都や第一層、二層の間には、城壁があり、中に入る為にはそれぞれ城門を通る必要がある。

 エルメニアには、自分の籍を記載した“エルダ”と呼ばれる魔道具があり、人々は必ずこれを持っている。

 そこには、自分の生まれた土地やその約定。
 自分の財産のから、通行許可まで全てが記載されていて、人々はその“エルダ”を使って証文を作り、それを持参して街を移動する。

 領内の移動では、それ程厳しくは無いが、王都に入る場合は、その確認が非常に厳しく、例え貴族であっても証文を持たなければ、王都に入ることも出来ない。

 また、第二層から第一層へ。
 第一層から古都の中へと王宮に近づくにつれて厳しくなり、簡単に立ち入る事が出来なくなる。

 昨年、秋の社交界に参加しなかった為、その王都に来るのは一年ぶりになる。

 初めて見た時は、仰々しいと感じた王都を囲む城壁も、久しぶりに見ると懐かしく思えるのだから不思議なものだった。

「ふふっ」
「なんですか、行儀の悪い」
「ごめんなさい、お母さま」

「まぁ、王都に来るのが楽しいと感じているのなら、よろしいのでしょうね」
「はい、お母さま。とても楽しみに思っています」
 
 母が思っている事では無いけれど、王都に来るのを楽しみにしているのは嘘ではない。
 国境も開いた頃で、数か月前に分かれた人もそろそろエルメニアに来る頃だった。

 人を好きになると言う気持ちは難しい。

 母と話すのは何だか恥ずかしい気がするし、ロニに聞いても明確な答えは教えて貰えない。
 セレスティアは、彼以外とは考えられないと言うけれど、それも私には感覚がまだ分からない。

 自分にとって、大切な人や、側にいて欲しいと思う人は沢山いる。
 その人達と彼がどう違うのか、今でもはっきり分かっている訳ではない。

 只、精霊の王に残れと言われた時、最初に浮かんだのは彼の顔だった。
 自分を見た時、困ったように笑っていた菫色の瞳に会えなくなるのは嫌だった。

 両親や弟、ロニやジャルドなど、ザイード様よりずっと長く自分の側にいた人ではなく、彼を思い出したのなら、その人と一緒にいたい。

 彼がエルメニアに来る前に、色々な事を終わらせておきたいと思う。
 そうすれば、彼がどんな顔をするか、ちょっと楽しみでもある。
 とても真面目な人なので、自分が獣人である事や、私がウエストリアを離れる事を気にしているに違いない。

 本来なら社交も始まっていないこの時期に王都に来る必要もないが、秋の社交界に来なかったことや、冬の間にミリオネアに行っていた事までも婚約している相手が知っているなら、放っておく訳にもいかなくなる。

 おまけにそれを理由に婚約を解消しようとしているのだから、地方の貴族たちが集まっていないこの時期が望ましい。

 カシム様がリディアを望んでいないのは知っていたし、后妃候補として出来のよくない娘を排斥するのは、珍しい事でもないので、リディアの名は地に落ちるが、ザイード様がそれを気にするとは思えないので問題もない。

 フレリア様のおかげで、マテの白茶の売上は順調だし、アレス様が協力してくれたので、フレの布地もミリオネアで取引が出来そうだった。

 二人にお礼を言いたいし、結局、カシム様から頂いた布地で仕立てたドレスも着る機会が無さそうだが、彼にもお礼くらい言っておきたい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...